SDNブームの火付け役として知られるマーティン・カサド氏が、米有力ベンチャーキャピタル、Andreessen Horowitzのゼネラルパートナーに就任して1年9カ月。同氏が自身の投資活動における最重点キーワードに掲げるのはAPIだ。
マーティン・カサド(Martin Casado)氏が、米有力ベンチャーキャピタル、Andreessen Horowitzのゼネラルパートナー(エンタープライズIT分野を担当)に就任して1年9カ月。同氏が自身の投資活動における最重要キーワードに掲げるのはAPIだ。
同氏がSoftware Defined Networking(SDN)ブームの核となったOpenFlowの仕様を開発し、その後ネットワーク仮想化のスタートアップ企業、Nicira Networksを創業して大成功を収めたという経歴からすると、意外な気もする。だが、大学で分散システムを研究していた同氏にとって、API関連は本来の専門に近いという。2017年末に行った、カサド氏へのインタビューの内容をお届けする。
参照記事:「OpenFlowの父」が振り返る、Niciraでの苦悩とヴイエムウェアに買収された理由
――これまで私は、(エンタープライズ)ITにおける新たな潮流を追い掛けてきたつもりですが、最近は大きな動きと呼べるものが以前より少なくなってきたように感じることがあります。そう考えるのは間違っていると思いますか?
あなたは間違っていないと思います。
私は投資する側としてさまざまなスタートアップ企業と会いますが、その30%はITに特化した企業ではなく、非常に成熟した産業を対象にしています。今日におけるイノベーションの多くは、ロボティクスやソフトウェアを駆使して、成熟産業のこれまでのやり方やビジネスモデルを変えていくことです。
例えば、私が投資したわけではありませんが、面白い企業の1つに、植林をするドローンを開発しているところがあります。ドローンが飛行しながら、多数の苗木を地面に打ち込んでいくというものです。鉱業会社は採掘後の土地に植林をしなければなりません。しかし、土地が広く、植えなければならない樹木の数も多いので、非常に長い時間と大きなコストがかかります。これを完全に自動化できるわけです。
つまり、ITそのものではなく、ITを使って、伝統的産業における物事のやり方を変えるところにイノベーションがあるわけです。あなたや私が過去20年にわたって関わってきたのとは違う世界です。ですが、これまでないほど、ITが世界を変え始めています。
――すると、ソフトウェア開発者はますます既存産業とITの橋渡しを考えなければならなくなってくるということですか?
そこで私が注目しているのが、APIの広がりです。
私は長年にわたって、シリコンバレーとサンフランシスコの間を自動車で往復してきました。ハイウェイ沿いに掲げられた看板の内容は、IT産業の移り変わりを反映しています。
1990年代はドットコム企業、2000年台初めはeBayなどのEコマース企業、2000年代中ごろはFacebookやゲームなどのソーシャル系企業が広告を出してきました。現在では、こうした広告の約半数が、APIやインタフェースを提供する企業のものです。
これは過去に比べて、画期的な変化だと私は考えます。
以前はIT企業を設立する際、人間が利用する製品を開発することを考えました。しかし今では、(最終的には人間が利用するものの)プログラムが活用する部品を提供することを考えるようになってきたということです。
IT業界で何が起こっているかをあらためて説明すると、次のようになります。
ヘンリー・フォードが自動車の大量生産を始めたとき、工場では部品から作らなければなりませんでした。それが自動車市場の拡大に伴い、特定の部品だけを作る企業が多数生まれました。自動車工場は組み立てを行えばよくなりました。
コンピュータ業界では、以前メインフレームベンダーが、ハードウェア、ソフトウェア、そしてアプリケーションを一括して提供していました。その後、ソフトウェアとハードウェアが分離しました。1990年代には、データベースをはじめとした代表的なアプリケーション分野で、各分野に特化した企業が次々に生まれました。2000年代にはオンラインサービスが成長しました。今起こっているのは、アプリケーションが分解され、これを構成する各機能に特化した企業が生まれているということです。これからはAPI企業が爆発的に増え、ソフトウェア開発を次のレベルに進化させる起爆剤となります。
――「APIエコノミー」という言葉が数年前からありますが、それがIT業界全体に広がるということですか?
確かに、「APIエコノミー」という言葉は数年前から知られています。しかし、API経由で機能を提供することのみをビジネスとする企業が成立することがはっきりしたのは、最近のことです。
最近になって初めて、世界に対するインタフェースがAPIのみで、アプリケーションやWebページを持たない企業を創業できるようになりました。こんなことはこれまでに考えられませんでした。
例えば、コミュニケーションサービスをAPIで提供するTwilioの時価総額は数十億ドルに達しています(筆者注:2016年6月に株式上場した同社は、2018年1月初めの時点で時価総額23億ドルとなっている)。他にも、決済サービスのStripe、メッセージングサービスのPubNubなど、人気を獲得する企業が続出しています。
私はSigOptという会社の社外取締役にもなっています。これは、非常に複雑な数学的最適化を提供する企業です。同社もサービスの提供に、Webページやアプリケーションは使いません。APIのみです。社員も博士号を取得した数学者しかいません。それでも、世界でトップクラスの企業が顧客になっています。なぜなら、こうしたソリューションのためのノウハウが、顧客の社内に存在しないからです。
市場が十分な規模に拡大したため、このような「部品」の提供に専念する企業が成立するようになりました。
そしてこうした部品をつなぎ合わせることで、例えば先ほどお話ししたようなドローンを開発したい企業は、認証をはじめとした面倒なIT機能のエキスパートを雇うことなく、良い製品を生み出すことに専念できるようになるのです。
――最近の開発環境に関連する話題として、コンテナに注目する人が増えています。しかし、コンテナよりもAPIのことを考えろということですか?
次のアプリケーションのエンドポイントはコンテナだと考える人が多いですが、それは間違いです。
コンピュータの仮想化があまりに強力だったため、コンテナが登場したとき、多くの人は「次の抽象化レベルはこれだ」と思い込みました。確かにコンテナは役に立ちます。しかし、運用という観点では、適切なレベルの抽象化とは言えません。人々が最終的に気にするのはAPIです。アプリケーションがコンテナで動いていようが、サーバレスコンピューティングで動いていようが、APIのパフォーマンスが低かったり、APIとしてのセキュリティが確保できなかったりするのでは意味がありません。
実際、数年前にコンテナセキュリティやコンテナネットワーキングで多数のスタートアップ企業が出資を受けました。しかし、成功している企業は1社もありません。これらの企業は今、マイクロサービスへのピボットを進めています。
――すると、カサドさんが自身の担当する投資で力を入れているのは、API経由で機能をサービスとして提供する企業と、APIの管理に関連する企業ということですか?
その通りです。APIとして機能を提供する企業と、APIインフラを提供する企業です。
後者については、APIをエンドポイントとしてとらえ、これを対象としたパフォーマンス管理、セキュリティ、ネットワーキングなどの機能を提供する企業に注目しています。従来のルーター、ファイアウォール、アプリケーションパフォーマンス管理ツールなどは、APIを理解できません。今後はAPIを理解できるツールが求められます。良い例がAPIゲートウェイを提供するKong(筆者注:2017年にMashapeから社名を変更)です。
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