「北上エージェンシー」の生駒がチラシ制作システム発注詐欺で真に狙っていたのは、「マッキンリーテクノロジー」のAI学習ノウハウを無料でかすめ取ることだった。ことの真相を江里口美咲から聞いた北上の社長は、ある判断をする――。
「コンサルは見た!」とは
連載「コンサルは見た!」は、仮想ストーリーを通じて実際にあった事件・事故のポイントを分かりやすく説く『システムを「外注」するときに読む本』(細川義洋著、ダイヤモンド社)の筆者が@IT用に書き下ろした、Web限定オリジナルストーリーです。
広告代理店「北上エージェンシー」の「発注スルスル詐欺」は、技術部長 生駒の計画的犯罪だった。無料で20人月分の作業をさせられた上にAIの学習ノウハウまで奪われた「マッキンリーテクノロジー」の日高から相談を受けた「A&Dコンサルティング」の江里口美咲は、マッキンリーの競合「アルプスソフトウェア」、そして北上の創業社長を訪問し、ことの真相を報告した。
悪行がバレた生駒の運命やいかに――。
「アルプスソフトウェア」の丹波から取引辞退の連絡を受け、「北上エージェンシー」の生駒は残ったコーヒーを一気に飲み干した。
(作戦失敗、か)
しばらく腕組みをしたまま動かなかったが、大きく息を吐くと首を左右に振った。
(仕方がない。部門の赤字はリーダーたる自分の失点にはなるが、そもそもシステム開発は、かなり高い確率で赤字を出すものだ。誰にでも起き得る失敗を自分もやってしまった。その程度のことなら、これからいくらでもばん回の機会はある)
生駒が椅子に深く背をもたせかけたとき、再びスマホが鳴った。生駒の上司に当たる総務担当取締役の鈴鹿からだ。
(何の用だ?)
首を傾げながら電話に出た生駒の耳に、鈴鹿の甲高い声が響いた。
「生駒君、キミ、何てことをしてくれたんだ!!!」
「えっ?」
「広告作成システムの件だよ。社長が大変にご立腹だ!」
「しゃ、社長が? 社長は何をそんなにお怒りなんでしょうか?」――そう言いながら、生駒は眉をひそめた。
(マッキンリーからクレームでも入ったのか? しかし会社に損害はないはずだが……)
「そんなのは、こっちが聞きたいよ。君は『マッキンリーテクノロジー』という会社をだましてプロトタイプを無償で作らせ、そのAI学習ノウハウをエサに別の会社――『アルプスソフトウェア』に格安でシステムの完成を依頼したそうじゃないか!」
「あれは、マッキンリーがセールス活動として作ったものでして。契約もしていないのに作業をしたわけですから、ウチには費用を払う理由なんて……」
生駒の反論に鈴鹿の大きな声がかぶさった。
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