池田さんにとって最も新しい転機が2014年に到来した。GitHubの日本法人であるギットハブ・ジャパンが設立されたのだ。
「GitHubはその時点で通算6年使っていたし、GitHubに関連する書籍も執筆していました。GitHubの社員として、こんな最適な人はいないだろうと思っていたので、人材募集のうわさを聞いた瞬間に応募しました」と池田さんは話す。約半年の採用プロセスをへて、池田さんはギットハブ・ジャパンの一員となった。
日本はGitHubにとって2番目に大きな市場だ。顧客はソフトウェア開発会社が多いが、最近は多くの事業会社がデジタルの力で業務変革を目指していて、GitHubのサービスを活用した事例も出始めている。「ソフトの重要性を事業会社が認識してきた」様子を池田さんも感じ取っている。
デジタルの力を会社に取り入れるには、GitHubのサービスを導入した方がいいのだろうか?
池田さんの答えはもちろんイエスだ。「デジタル化で成功している米国企業は、例外なくGitHubを使っています。ソフトウェア開発はチームスポーツなので、コラボレーションの基盤が必要です。そこで最初に選ばれるものがGitHubなのです」と、その理由を話す。
デジタル化では、オープンソースソフトウェアの流儀をお手本にする場合が多い。するとGitHubを使っているオープンソースソフトウェアは多いので、しぜんとGitHubの導入に進むというのだ。
デジタルトランスフォーメーションの流れが意味することは、GitHubのターゲットとなる企業は、潜在的にはあらゆる会社であるということだ。GitHubの基本機能はバージョン管理、変更の提案、変更内容の議論のためのプラットフォームだ。つまり、ソフトウェア開発のために作られたものだが、ソフトウェアに近い性質の文書の作成にも向いている。「例えばオープンデータの整備、法律の作成や改訂にも向いているのではないか」と池田さんは言う。実際に国土地理院では、地図情報をオープンデータとして公開する用途にGitHubを活用している。
「ソフトウェア開発を楽しく、効率的に支援してきたい」と池田さんは話す。「楽しい」は重要なキーワードだ。
「ソフトウェア開発そのものが、本質的には楽しいことです。子どもが積み木で何かを作るのと同じです。そこが出発点です」
例えば、インターネット接続を遮断しているような環境でエンタープライズシステム開発をしている職場でも、GitHubは有効なのだろうか?
「恐らくGitHubを選ぶことが難しい現場もあるでしょう。でも本当にやりたいのであれば、会社にかけあってみたらよいのでは」と池田さんは話す。変えるべきは、GitHubを使えない環境の方ではないか、ということだ。
「私も業界にいたことがあるので分かりますが、エンタープライズ開発の職場の多くは、閉じた環境で仕事をしています。そこで問題解決ができず深夜まで残業している人も多い。しかし、実はある種の問題は世の中で共有されていて、解決手段が公開されている場合もあります。外側の世界でソリューションを探すやり方もあるのです」と池田さんは話す。
「日々の仕事を1分でも効率良くできるツールを探したり、本を読んだり、外側の情報を探したりすることは大切です」
それで怒られる職場だったら、転職すればいいと池田さんは考える。
「問題解決の方法があっても、人が多過ぎると慣性の法則でやり方を変えられない場合もあるでしょう。そういうときには、今の職場を改革するか、別の職場に行くかの二択です」
池田さん自身がそのような考え方でキャリアを築いてきた。池田さん自身も、今まで所属していた企業で数々の業務フローの改善を手掛けてきた。パッケージソフトウェア企業ではチケット駆動開発のフローを導入するのに尽力しているし、マーケティングSaaS企業ではGitHubの導入に一役買っている。DeNAではサポートの問い合わせフロー改善を行っている、といった具合だ。
「不満があるのに、何も変えずにとどまっている。これが一番まずいんです」――そう池田さんは言い切る。
日本のIT業界のさまざまな側面を見てきた池田さんは「日本のソフトウェア企業にももっと力を付けてほしいと思っています」と語る。GitHubの導入をはじめ、現代的なソフトウェア開発者文化で楽しさ、効率化を追求することは、デジタル化、デジタルトランスフォーメーションの重要な一部だ。この言葉の背景には、日本のIT業界が世界的な流れにうまく追い付いてほしいという切なる思いがある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.