前述した「モニタリング」は、不当な安売りだけではなく「市場から落ちこぼれていないか」を知るためにも重要です。
ソフトウェア開発は「日進月歩」どころか「分進秒歩」などといわれ、トレンドの移り変わりが激しい業界です。最近だとJavaScriptによるフロントエンド開発が特にホットですが、それ以外のジャンルでもどんどん新しい技術やパラダイムが生まれ、かつての常識はあっという間に非常識になっていきます。
そんな業界ですから、「どんなエンジニアに高値がついているか」をモニタリングしていかないと、手持ちの技術はあっという間に価値がなくなっていきます。市場に必要とされている技術をキャッチアップし、技術や経験をアップデートしていってやっと「現状維持」ですから、ボーッと停滞していたらどんどん置いていかれ、「相場価格がつかないエンジニア」に転落していきます。
進歩が早い業界で現状に安心して停滞しているのはとても危険である、ということです。
採用側に目を移すと、どうしてもエンジニアが欲しい企業は「札束で殴る」という奥の手を使ってきます。すなわち、相場価格よりも高い給与を提示して、エンジニアを採用しようとするのです。
実体経済を上回った価格高騰による好景気……。ちょっとベテランの方は、1986年から始まった「バブル景気」を思い出すのではないでしょうか。
エンジニアの給与高騰は、バブル景気ほどの悪影響はありません。しかし人間は、分不相応な高い給与をもらい続けていると、いつしかそれが自分の価値だと思ってしまうものです。
自分の価値を市場価格より高く見積もってしまうと、次の転職で苦労することになります。例えば給与の現状維持を目標に転職しようとすると、エンジニア市場で「割高物件」になってしまうのです。
そうなると手は2つしかありません。「値下げして売り抜け先を探す」か、「相場価格にふさわしい価値のエンジニアになる」か――。
菌類は、採用担当として、かつてバブル景気を引き起こした企業からの転職志望者を何人も見てきました。相場価格に見合う腕を持っているエンジニアは大歓迎です。また、きちんと「相場価格に見合わないから希望年収は下げています」というエンジニアも、腕と相場のバランスをとって適切なオファーをすることができます。しかし、自分には値段相応の価値があると思い込んでいるエンジニアが、残念ながらそれなりに転職活動を難航させているケースも見掛けます。
腕を磨くにしても値下げするにしても、やはり「相場価格のモニタリング」と「自分の価値の見積もり」が重要なのは言うまでもないでしょう。
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