「心の病による労災申請過去最多」なのだそうです。ストレスチェックや働き方改革をしているのに、なぜなのでしょう?――大切なのは「労働者の心の強さ」ではなく「職場の心理的な安全」なのかもしれません。
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厚生労働省によると、心の病による労災申請が6年連続で増加、2018年度は1983年度の統計開始以降最多になったそうです。
報道によれば、2019年4月に「働き方改革関連法」が施行され、時間外労働の上限規制が始まったこと、5月にパワハラ防止を義務付ける「女性活躍、ハラスメント規制法」が成立したことから、「法律の動きに合わせ、精神疾患も労災だという認識が高まり、申請増加につながったのではないか」とのことです。
しかし「6年連続の増加」ですから、増えはしても減ってはいないと見た方がよさそうです。
精神疾患の労災認定は465件。認定原因をみると、「嫌がらせ、いじめ、暴行を受けた」と「仕事内容や量に大きな変化があった」がいずれも69件で最多。「セクハラを受けた」は33件で、全て女性からの訴えだったそうです。
ここ数年、働き方改革が進められています。それなのになぜ、このような結果になるのでしょうか。
先日、「上司が自殺した」という知人から話を聞く機会がありました。知人は、「上司は仕事ができる人で、それだけに、多くのタスクを抱えていた」と言います。「ごめん、ちょっと今、タスクを抱え過ぎているから助けてくれる?」と周りの人に助けを求めることもできたはずなのに、弱みを見せるのが苦手なタイプだったそうです。
そして上司の負荷は上限に達し、自ら命を落とす選択をしてしまったそう。「あのとき、声を掛けていれば……」と、知人は悔やみます。
不幸な事件が起こり、その会社では対策が取られたそうです。行われたのは「残業制限」。
でも、仕事量は減らず、バレないようにサービス残業をする人が増えたとか。「ちょっとずれていますよね。残業を制限したからといって、気持ちが楽になるわけではないのに」と知人は言います。
「精神疾病を未然に防ぐ」という意味では、ストレスチェックや働き方改革は大切です。ストレスをチェックすると心身の状況が分かりますし、働き方改革によって、過度な労働時間を減らすことはできるでしょう。
けれども、診断をしたり労働時間を減らしたりしても、「嫌がらせ、いじめ、暴行、セクハラ」がなくなるわけではありませんし、「気持ちの負荷」が減るわけでもありません。
また、ストレスチェックに引っ掛かって医療機関を受診すれば、いったんは回復するかもしれません。でも、職場環境が以前と何も変わらなければ、復帰した後に同じことを繰り返す恐れがあります。
つまり、現在の取り組みは精神疾患に“なった後”の対症療法で、ストレスを抱える根本的な原因を取り除くわけではありません。そのため、真の意味での問題解決にはなっていないのです。
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