ウォーミングアップとして、中学数学で学ぶ「素数」に関連する「フェルマーの小定理」を題材に、Pythonプログラミングの初歩を振り返る。演算子/変数/関数の使用方法をまとめる。数式をプログラムとして表すための練習問題も用意している。
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前回は本連載の目的を紹介し、実際に数学×Pythonプログラミングを進めていくための準備について説明しました。
今回から、実際に数学を使ってPythonのプログラミングを始めます。最初は、はじめの一歩ということで、自然数や素数に関する定理を取り上げ、それを実際に確かめるためのプログラムを作っていきます。といっても今回はPythonプログラミングの初歩を振り返るウォーミングアップの回なので、多くの人にとっては簡単な内容かと思います。なお、最後に簡単な(ですが、興味深い)練習問題も用意してあるので、ぜひ取り組んでみてください。
『数学×Pythonプログラミング入門 ― 中学・高校数学で学ぶ』
この連載では、中学や高校で学んだ数学を題材にして、Pythonによるプログラミングを学びます。といっても、数学の教科書に載っている定理や公式だけに限らず、興味深い数式の例やAI/機械学習の基本となる例を取り上げながら、数学的な考え方を背景としてプログラミングを学ぶお話にしていこうと思います。
筆者紹介: IT系ライター、大学教員(非常勤)。書道、絵画を経て、ピアノとバイオリンを独学で始めるも学習曲線は常に平坦。趣味の献血は、最近脈拍が多く98回で一旦中断。
数学が苦手な人でも「素数」については聞き覚えがあると思います。素数とは1より大きく、1と自分自身しか約数を持たない数のことでしたね。つまり、2,3,5,7,11,13……が素数です。素数は中学の初歩的な数学から登場し、素因数分解やそれを利用した約分など、数式を取り扱う上での基本の基本となっています。
もちろん、それだけではありません。例えば、公開鍵方式と呼ばれる暗号化の方法(RSA暗号)などにも広く応用される実用的な「数」でもあります。一方で、無限にある素数の深淵(しんえん)を覗(のぞ)いた者はその人生を狂わせてしまうと言われるほど、数学者にとっては謎が多く、生涯をかけて取り組まれるテーマです。
ここでは深淵を覗くつもりはありませんが、素数に関する簡単な定理を確かめることを通して、Pythonプログラミングに一歩を踏み出していきたいと思います。
さて、ここで取り扱うのはフェルマーの小定理と呼ばれる定理で、RSA暗号にも応用されています。ただし、これは有名なフェルマーの最終定理とは別のもので、以下のような、中学の数学だけで十分理解できるものです(証明はそれほど難しくはありませんが、本筋の話から外れるので、ここでは省略します。興味のある方は「フェルマーの小定理の証明と例題 | 高校数学の美しい物語」などを参照してください)。
自然数aと素数pが互いに素であるとき、aのp−1乗をpで割った余りが1になる
「互いに素(そ)」というのは、1以外の公約数を持たないということです。フェルマーの小定理を数式で表すと以下のようになります。
≡やmodといった記号にはあまりなじみがないかもしれませんが、この式は高校の数学で学ぶ「合同式」と呼ばれるものです。この例であれば「pを法としてap−1は1と合同である」と読みます。ちょっと堅苦しい表現ですが、modは「モッド」または「モジュロ」と読み、「割り算の余り」といった意味になります。「法(ほう)」というのは何らかの整数のことで、ここではpがそれに当たります。
従って、上の式の意味は左辺のap−1をpで割った余りと右辺の1をpで割った余りが必ず等しいということになります。もう少しかみ砕いて言えば、ap−1をpで割った余りが1になるということです。
数学の便利さの一つは、このように説明が長ったらしくなるようなことがらを、(1)式のように簡潔に表現できる点にあります。最初は取っつきにくいかもしれませんが、そのうち数式を見ただけで意味が把握できるようになります。一緒に少しずつ慣れていきましょう。
*1 ちなみに、フェルマーの最終定理は「nが3以上のとき、xn+yn=znを満たす自然数x,y,zは存在しない」というもので、定理そのものは中学の数学でも理解できるものですが、証明は難しく、1995年にアンドリュー・ワイルズによって証明されました。
では、フェルマーの小定理を具体例で計算してみます。ちょっと大きめの整数aと素数pを使ってみましょう。a=16348039、p=3571とします。これらの値を上で見た(1)式の左辺に当てはめ、計算結果が1になるかどうか確認すればいいですね。以下の式をGoogle Colaboratory(以下Colabと略します)などで入力し、実行してみると結果が確かめられます。動画も用意しておいたので、Google Colabの操作に慣れていない方は参照していただくといいでしょう。
16348039**(3571-1) % 3571
# 出力例:1
この例では、具体例を1つ試しただけなので、証明にはなっていませんが、確かに余りは1になりました。たった1行の式ですが、これも立派なプログラムです。
この連載では、Pythonの文法についてサンプルプログラムを理解する上で必要最小限のまとめと数学との関連、留意点のみを整理して掲載することにします。Python文法のより詳細な内容については、連載『Python入門』を参照してください。
では、整理しておきます。演算とは、広い意味での計算のことで、演算子とは演算に使われる記号のことです。まず、四則演算に関する用語と演算子(計算の記号)を整理しておきましょう(表1)。
演算の方法 | 別の呼び方 | 数学の演算子 | Pythonの演算子 | 演算の結果 |
---|---|---|---|---|
加法 | 足し算、加算 | + | + | 和 |
減法 | 引き算、減算 | - | - | 差 |
乗法 | 掛け算、乗算 | × | * | 積 |
除法 | 割り算、除算 | ÷ | / | 商 |
Pythonでは、答えが整数になる場合でも、割り算を行うと小数点以下が表示されることに注意してください。例えば、4/2の答えは2ではなく2.0となります。
続いて、べき乗、整数商、剰余についてです。これも表にまとめて整理しておきます(表2)。なじみがないものもあるでしょうから、例を示すことにします。
べき乗は同じ数を何回か掛けるという計算ですね。整数商は割り算をしたときの整数部分の答えです。そして剰余はいわゆる「余り」です。まだ小数を習っていない小学校の低学年では、7÷5の答えは「1余り2」のように表しました。「7の中には5が1つある(=整数商)、そして割り切れなくて余った数は2だ(=剰余)」という理屈です。
整数商を求めたり、剰余を求めたりする計算は、周期的な値を分類するのに役立ちます。例えば、ある日が月の第何週にあるかを求めるには整数商を使いますし、何曜日にあるかを求めるには剰余を使います(ただし、1日が何曜日から始まるかを考慮する必要はありますが)*2。
*2 整数の範囲、つまり、負の値を含む範囲だと整数商と剰余が1つに決まりません。元の数をa、割る数をn、整数商をq、剰余をrとすると、a=n×q+rという関係が成り立てばいいので、例えば、-7を3で割る場合、整数商を-3、剰余を2とすることもできますし、整数商を-2、剰余を-1とすることもできます。前者は−7=(−3)×3+2となり、後者は−7=(−3)×2−1となり、どちらも成り立っているからです。
Pythonではどうなるでしょうか。実際にやってみると前者の方法で計算されることが分かります。ちなみに、mathモジュールのfmod関数を使って、以下のように入力すると後者の方法で余りが求められます。
import math
math.fmod(-7,3)
# 出力例:-1.0
これらの演算子の優先度は以下の通りです。優先度の高い演算子から先に計算され、優先度が同じであれば結合方向で示された順序で計算が行われます。これらは数学での計算方法と同じですね。計算の順序を変えたいときには先に計算する部分を()で囲むのも数学と同じです。
優先度 | 演算子 | 結合方向 |
---|---|---|
高 | ** | 右から左 |
| | * / // % | 左から右 |
低 | + - | 左から右 |
前章のリスト1で見たプログラムでは、決まった値の計算しかできません。要するにちょっと便利な電卓のレベルでしかありません。そもそも、この連載の目標は数式をプログラミングできるようになることでした。そのためには、フェルマーの小定理の数式をプログラムとして表す必要があります。そこで、さまざまな値を対象としてこの数式の値を計算できるようにするため、変数を利用してみましょう(動画)。リスト1のコードをリスト2のように書き換えます。
a = 16348039
p = 3571
a**(p-1) % p
# 出力例:1
「=」は数学の「等しい」という意味とは異なり「代入」を表す記号です。従って、「a=16348039」を日本語で読み下すと「変数aに16348039を代入する」ということになります。プログラミング言語の入門書では「変数とは値を入れるための箱のようなもの」という例えで説明されることが多く、代入という言葉も、いままで入っていた値の代わりに新しい値を入れるというイメージですんなりと理解できると思います。
ただし、もう少し進んだプログラムを作ろうとすると、そのイメージだけでは立ち行かなくなることがあります。Pythonにおける変数aへの代入をもう少し正確に言うなら「ある値をaという名前で使えるようにした」といったところです。そのうち、より正確な意味を知る必要が生じてくるので、脳内のイメージを更新できるように「今はとりあえずそう考えておく」と括弧付きで理解しておいてください。
Pythonの変数が数学の変数と大きくことなるところは、Pythonの変数は数文字からなる単語でもいいというところです。数学では変数を1文字で表すので、abcと書けば、a×b×cという意味になります。しかし、Pythonではabcという単語が1つの変数名を表します*3。
*3 Pythonの書き方についてのガイド(PEP8)では、小文字のl(エル)1文字、大文字のI(アイ)1文字、大文字のO(オー)1文字を変数名として使うことは推奨されていません。言うまでもなく、1や0と混同しやすいからです。変数には分かりやすい名前を付けるようにしましょう。
前章のリスト2のプログラムで、aの値やpの値を変えればさまざまな場合の例を試せるようになりましたが、まだ大きな問題があります。それは、別の計算をしようとすると、プログラムのコードそのものを書き換えなくてはならないということです。プログラムを書き換えずに、必要に応じて別の値を使って計算できるようにしたいものですね。そのためには関数を定義します。そこで、fermat_littleという名前の関数を定義してみましょう(動画)。
def fermat_little(a, p):
return a**(p-1) % p
fermat_little(16348039, 3571) # 関数を呼び出す
# 出力例:1
このように、何らかの計算を関数にしておけば、同じ方法で計算を行うときにはその関数を呼び出し、値を与えてやるだけで結果が求められます。以下に関数の書き方を整理しておきましょう。
「関数」は中学や高校の数学でも扱ったので、それなりになじみのある言葉だと思いますが、Pythonの関数も数学の関数と似ていて、何かの値を与えれば、それに対応する答えを返してくれます。
関数の書き方については、言葉で説明するよりは以下のような図で理解した方が分かりやすでしょう。
Pythonでは、関数定義の内容などの範囲を表すためにインデント(字下げ)を使うというのが重要なポイントです。上のリスト3の例では、関数の内容は1行だけですが、もちろん複数行が関数定義の範囲内にある場合はそれらの行を全てインデントします。正しくインデントされていないとエラーになったり、期待した結果が得られなかったりするので注意が必要です。
なお、関数を呼び出すときに与える値のことを「実引数(じつひきすう)」と呼びます。前掲のリスト3であれば、実引数16348039が仮引数aに渡され、実引数3571が仮引数pに渡されます。
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