コロナ禍の中、企業はテレワーク(リモートワーク)の導入と継続を求められ、それが長期化しています。既にテレワーク環境を整備した企業でも、セキュリティの強化や運用コストの面から定期的に見直すべきです。今回は、Windows/Windows Serverの標準機能、Microsoft Azureのサービスとして利用可能なリモートアクセス環境を簡単にまとめました。
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「Windows 8.1」および「Windows 10」(「Windows 7」以前については省略、以下同)は、「VPN(仮想プライベートネットワーク)」と「DirectAccess」のクライアント機能を標準搭載しています。
VPNは、汎用(はんよう)的セキュリティリスクのあるインターネット上に保護されたトンネルを構築し、ポイントツーサイトあるいはサイトツーサイト接続で安全な相互通信を実現します。WindowsのVPNクライアントは暗号化プロトコルとして「PPTP」「L2TP/IPSec」「SSTP」「IKEv2」に対応しており、さまざまなVPNゲートウェイに対して接続可能です(画面1)。
Windows Serverは、「リモートアクセス」の役割がVPNサーバ機能を提供できます。「Windows Server 2008 R2」までは「ルーティングとリモートアクセス(RRAS)」の役割が提供したため、RRASの呼び名の方が聞き慣れているかもしれません。
VPN経由の通信は安全ですが、それは“エンドポイントのセキュリティが保証されている”場合に限られます。管理されていないデバイス(個人の家庭にあるPCなど)から企業ネットワークへのVPN接続を許可すると、管理されていないデバイスが原因でセキュリティ侵害や情報漏えいにつながるリスクがあります。最低限、管理されたデバイスにVPN接続設定を行い、社員に配布するなどの対策が必要です。
DirectAccessは、Active DirectoryのドメインメンバーであるWindows 8.1/10 EnterpriseおよびWindows 10 Educationで利用可能な、IPv4/IPv6移行テクノロジーを利用したリモートアクセス機能です。
DirectAccessは、PC起動時に現在のネットワーク接続の状態に応じて自動接続が開始され、ユーザーは社内設置のクライアントと同じように、社内リソースにシームレスにアクセスできます(画面2)。また、管理者はDirectAccessで接続されたクライアントをリモート管理できるように構成することもできます。
DirectAccessは、「Windows Server 2012」以降の「リモートアクセス」の役割でサポートされます(画面3)。DirectAccessクライアントとして構成済みの管理されたデバイスを、テレワークを行う社員に配布するとよいでしょう。ただし、ネットワーク環境によってはDirectAccessの接続が確立できない場合もあります。その場合に備えて、代替手段としてのVPN接続設定も含めておくとよいでしょう。
Windows 8.1およびWindows 10のVPNクライアントは、「ユニバーサルWindowsプラットフォーム(UWP)」アプリ(ストアアプリ)の起動やDNSドメイン名、ユーザー設定としての「常にオン」(次に紹介する「Always On VPN」とは別)のいずれかのトリガーでVPN接続を自動開始するオプションを提供します。必要時にのみVPN接続を行うという利用シナリオで、ユーザーの手間を省くのに活用できます。
Windows 10のVPNクライアントはさらに機能強化されており、Windows 10 バージョン1607以降(バージョン1709以降という情報もあります)では「Always On VPN」がサポートされました。
通常のVPN接続がユーザーレベルで接続されるトンネル(ユーザートンネル)であるのに対して、Always On VPNは証明書をベースにしてデバイスレベルでVPN接続を自動開始し、「デバイストンネル」を作成します。デバイストンネルでは、ユーザーがデバイスにログオンする前に、指定したVPNサーバへの接続が完了するため、Active Directoryへのログオンや企業側からのリモート管理に柔軟に対応できます。
この機能は、Active DirectoryのドメインメンバーであるWindows 10 EnterpriseおよびEducationで利用可能です。
VPNクライアントは企業のプライベートネットワークの延長(末端)に直接接続されたイメージであり、ファイアウォールなどで明示的に制限しない限り、双方向にフルアクセスが可能です。
対して、「リモートデスクトップ接続」は、最小限のプロトコルで企業のデスクトップ環境やアプリへの接続を許可できるため、セキュリティの強化が容易であり、デスクトップやアプリを企業側で集中管理できるという利点もあります。画面表示とキーボード/マウスの入力のみに限定すれば、セキュリティはさらに高まり、管理されていないデバイスや多様なデバイスからも安全に利用できます。
しかしながら、企業内のデスクトップにアクセスさせるために、「リモートデスクトッププロトコル(RDP)」のTCPポート「3389」を公開することは避けるべきです。インターネットを介して第三者が認証を突破しようとチャレンジできてしまいますし、RDPプロトコルやリモートデスクトップ接続アプリの脆弱(ぜいじゃく)性がセキュリティホールになりかねません。
Windows Serverの「リモートデスクトップサービス(RDS)」を利用すると、Windowsの仮想デスクトッププールやWindows Serverのセッションホストへの接続、いわゆるVDI(仮想デスクトップインフラストラクチャ)へのアクセスをユーザーに提供することができます。
また、リモートアクセス用にHTTPSでアクセス可能な「RD(リモートデスクトップ)ゲートウェイ」および「RD Webアクセス」を用意しています。これに、「Azure Active Directory(Azure AD)アプリケーションプロキシ」サービスを組み合わせれば、企業ネットワークに対する着信方向のトラフィックを全く許可することなく、安全にRDSへのアクセスを公開することができ、Azure ADのIDによる事前認証により、許可されていない利用者からのアクセスを遮断できます(画面4)。
なお、Windows ServerはAzure ADアプリケーションプロキシと同様の機能を「Webアプリケーションプロキシ」として提供していますが、現在、WebアプリケーションプロキシによるRDSの発行は推奨されていません。Azure ADアプリケーションプロキシの利用が推奨されています。
「Azure Virtual Desktop」(旧称、Windows Virtual Desktop)は、RDSの機能をマネージドサービスとして提供するMicrosoft Azureのサービスです。Azure Virtual Desktopを利用すると、Windows 7 Enterprise、Windows 10 Pro、Windows 10 Enterprise、Windows 10 Enterpriseマルチセッション(Windows 10でマルチセッションをサポートする唯一の環境、コンピューティングやストレージ料金のコスト削減に寄与)、およびWindows ServerマルチセッションのVDI環境をクラウドから提供できます。
なお、Azure Virtual Desktopを利用するには、RDSをオンプレミスで導入する場合と同様に、「Windows 10 Enterprise」ライセンス(Windows Virtual Desktopの権利)や「RDS CAL」といった追加のライセンスが必要になることに注意してください。
「Windows 365 Cloud PC」は、Azure Virtual Desktopを基盤にした、使用状況に関係なく、仮想マシンのサイズ(Basic、Standard、Premium)に応じて月額固定料金で利用できる新しいVDIサービスです。現在は、Windows 10 Enterprise(x64)バージョン21H1のシングルセッションのみに対応した個人用デスクトップですが(画面5)、
2021年後半に予定されている「Windows 11」のリリース後は、Windows 11の個人用デスクトップも利用可能になる予定です(8月下旬からWindows 365 Enterprise向けにWindows 11のプレビューが開始されました)。
Windows 365 Cloud PC には、接続元のユーザーやデバイスのライセンス要件のない「Windows 365 Business」と、Windows 10 Enterprise E3/E5や「Microsoft 365」などのライセンスを必要とする「Windows 365 Enterprise」があります。
Windows 365 Enterpriseは、Active Directory要件やAzure ADとのディレクトリ同期、Azure仮想ネットワークのセットアップなど、追加の要件や手順が必要ですが、Windows 365 Businessは簡単にセットアップでき、短時間で利用を開始できます。詳しくは、以下の記事をご覧ください。
なお、この記事では60日の無料試用版について言及していますが、試用版は即日予定数の上限に達し、試用版提供開始の翌日には新規受付が停止されました。それだけ人気があり、期待されているサービスということです。
「ワークフォルダー(Work Folders)」は、「Windows Server 2012 R2」以降のファイルサービスの役割が提供するHTTPSベースのファイル同期サービスです。Windows 8.1およびWindows 10にはワークフォルダー(UI上は「作業フォルダー」と表示される場合もあります)のクライアント機能が標準搭載されています。「BYOD(Bring Your Own Device)」の利用シナリオが想定されており、Windowsだけでなく、iOSやAndroid用のクライアントアプリも提供されています。
ワークフォルダーは、企業の管理されたPCに加えて、個人用のPCやデバイスからも作業中のファイルを保存し、どこからでもアクセス可能にします(画面5)。テレワークのために、VPN接続や企業内アプリへのアクセスを必要とせず、ファイルのやりとり(とリモート会議やメール)だけで十分という場合は、導入が比較的簡単なこともあり、お勧めです。
なお、ワークフォルダーが初めて登場したときは、Windows ServerのWebアプリケーションプロキシと組み合わせて、安全にインターネットに公開するのが一般的でした。しかし現在、RDSの場合と同様に、Webアプリケーションプロキシによるワークフォルダーの発行は推奨されていません。Azure ADアプリケーションプロキシの利用が推奨されています。
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Cloud and Datacenter Management(2020-2021)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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