「ハイブリッド/マルチクラウド管理」という言葉がよく聞かれるようになってきました。しかし、その意味は曖昧です。そして、実際の「ハイブリッド/マルチクラウド管理」ソリューションは、ユーザー組織の管理者が抱く期待とずれているようにも思えます。なぜなのでしょうか。連載第1回では、これを見ていきます。
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「ハイブリッド/マルチクラウド管理」という言葉がよく聞かれるようになってきました。しかし、「ハイブリッド」「マルチ」「管理」は、どれも文脈や期待によって指すものがさまざまで、曖昧な言葉です。このため、「ハイブリッド/マルチクラウド管理」というコンセプトは、誤解を招きやすくもあります。
この連載では、Microsoft Azure(Azure)のハイブリッド/マルチクラウド管理サービスである「Azure Arc」を例に、Kubernetesの利用を中心とした管理を管理者とユーザー双方の視点から解説します。第1回は、システム管理者が抱える課題と、解決の方向性を考察します。
ビジネスにおいて、複数の選択肢を持つことには価値があります。例えば技術や素材の供給元が複数あれば、競争による技術革新やコストダウンが期待できます。また、依存リスクも緩和できるでしょう。このため、複数の何かを組み合わせる「ハイブリッド」「マルチ」というコンセプトは、大枠では受け入れやすいものです。
現在、エンタープライズITの世界は、クラウドの本格活用に向けた過渡期にあります。従って、オンプレミスとクラウド、また複数のクラウドを組み合わせて使いたい、というニーズが生まれるのは自然です。それに伴い、「ハイブリッド」「マルチ」クラウド「管理」をうたうソリューションが目立つようになりました。
しかし筆者は、こうしたソリューションに管理者がピンときていないように感じています。
ITにおける「管理」が指す行為や活動は、使い手や受け手、文脈によって異なります。例えば、リソースの作成や削除、死活や性能の監視、資産やコストの可視化など多様です。そもそも、「管理者の期待とソリューションが提供するカテゴリーが異なる」、これがピンとこない原因の1つ目です。「ハイブリッド/マルチクラウド管理」という言葉自体には、行為や活動、つまり管理タスクについての情報がありません。何ができるのか明確でなく、分かりにくいのも当然です。ベンダーは伝え方を工夫すべきです。
そして、もう1つの原因は、期待するアプローチとのギャップです。筆者の経験では、多くの管理者が「標準化」を望んでいるようです。
これらのアプローチに合うソリューションが見つからないという声を、しばしば耳にします。
この標準化志向が、ピンとこない元凶ではないかと考えています。
ITはいまや、生産性向上のための道具だけでなく、自社の製品やサービスを差別化するための武器となりました。「クラウドからリソースを」「オープンソースソフトウェアからコードを」「コミュニティーから知を」得やすくなったいま、それらを生かした差別化やイノベーションは組織にとって重要なテーマです。そのためには、ユーザー企業自らが経験を重ね、手の内に入れなければなりません。しかし「行き過ぎた標準化志向」が、その機会を奪っているようです。
クラウドで、オンプレミスではできないことに挑戦するなら、オンプレミスと同じルールで標準化するのはナンセンスです。また、競争により各クラウドベンダーが技術革新を起こしている中、特徴ある機能やサービスを過度に避けるのは、作るシステム、ひいてはビジネスの競争優位を築きたいのであれば本末転倒でしょう。
オンプレミスとクラウド、また、複数のクラウドでの標準化が特に難しいカテゴリーは、リソースの作成や構成管理です。オンプレミスのリソースをクラウドのように操作するにはAPIがなく、複数のクラウドのAPIに対応するには膨大な投資が必要、などの理由から、万能なツールを求めるのも現実的ではありません。
管理者がクラウド利用の標準化を試みたり、期待するツールの登場を待ったりしている間に、利用する側のフラストレーションは増大します。例えば、クラウドでのリソース作成作業は全て管理者が行い、利用者は管理者が用意した表計算シートに記載されているパラメーターしか選択できない、といった状況です。結果として、陰に隠れてクラウドを利用するアプリケーション開発者が増えます。いわゆる“野良クラウド”です。
もちろん、標準化には利点があります。しかし、経験がなければ価値のある標準は作れません。オンプレミスで標準を確立できていたとすれば、それまでの経験を生かしていたからではないでしょうか。クラウドでも同様です。もちろん、ベンダーやコミュニティーが公開、共有しているクラウドのベストプラクティスは標準化の参考になります。しかし、実感の裏付けがない、お仕着せのベストプラクティスを採用しても、変化や思い付きに影響され、長続きしないものです。手を動かさなければ、手の内には入ってきません。
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