Googleは2022年7月、「ChromeOS Flex」を正式にリリースしました。最新のWindowsやmacOSが動かない、あるいは動作が重いデバイスでも、Chromebookデバイスと同様のものに変え、軽快さとセキュリティ(更新サポート)を兼ね備えたモダンOSとしてよみがえらせることができると期待している人も多いでしょう。実際のところはどうなのでしょうか? 少しだけ触ってみました。
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Googleは、OEMベンダーから販売されている「Chromebook」向けのオペレーティングシステム(OS)として「Chrome OS」を提供しています。「ChromeOS Flex」は、WindowsやmacOSがインストールされていたデバイスにインストールしてChromebookデバイスのように使用できる、Chrome OSと共通の技術と管理ツールに基づく無料の企業向けOSです(画面1)。
以前はNeverwareから「CloudReady」として提供されていましたが、2020年12月にGoogleがNeverwareを買収し、2022年2月にChromeOS Flexとして発表されていたものです。これまでは開発版(Developer-Unstable)が提供されていましたが、2022年7月に正式版として提供が開始されました。CloudReadyは有料製品でしたが、スタンドアロン版のChromeOS Flexは基本的に無料です。
「Google管理コンソール」を使用したデバイスの管理、企業専用のChrome機能の利用、サポートへのアクセス、CloudReadyからのアップグレードには、ChromeOS Flexデバイスごとに「Chrome Enterprise Upgrade」(またはEducation Upgrade)ライセンスを購入する必要があります。
「Windows 11」でハードウェア要件が厳しくなったことで、「Windows 10」のサポートが終了する「2025年10月14日」までに寿命が確定してしまったデバイスの扱いについて、まだ3年はありますが、何らかの対応をする時間的猶予はどんどん少なくなってきます。
今後も企業のコンピューティング環境の軸にWindowsベースを据えるなら、Windows 11対応デバイスにリプレースする必要があります。しかし、Windows 11に対応していないというだけで、比較的新しいデバイスをリプレースするのはもったいないですし、企業としてはSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みにも逆行するものです。リプレースとは別の選択肢として、ChromeOS Flexに期待している個人や企業もいると思います。
ChromeOS Flexなら、低スペックなレガシーデバイスでも、快適に動作するという印象を持たれるかもしれません。しかし、最初に指摘しておくと、以下に示すように、それなりのスペックは必要です。Windows 11のようにプロセッサモデルは限定されませんが、2010年以前に製造されたプロセッサやグラフィックスでは、動作が不安定になる可能性があるということです。そして、そもそもx86(32bit)デバイスは論外です。
Googleは、認定モデルリストに掲載されたモデルについて、動作保証付きでChromeOS Flexをサポートしています。リストに存在しないものでも、動作保証のサポートは付きませんが、利用できる可能性があります。
なお、動作保証にはモデルごとにサポート期限が決められています。筆者の手元にはWindows 11非対応のデル製ノートPCが2台ありますが(1台は実験的にWindows 11にアップグレード、もう1台はWindows 10のまま)、そのサポート期限はそれぞれ「2027年12月31日」「2028年12月31日」となっています(画面2)。
それまでは、ChromeOS Flexの動作が保証されます。サポート期限が過ぎても、動かなくなったり、更新サービスが受け取れなくなったりすることはないでしょう(認定モデルリストに掲載されていないモデルにもインストールできるので)。
ChromeOS Flexのインストール手順は、以下のオンラインヘルプに詳しく説明されています。
大まかに言うと、次のようなステップで行います。なお、ChromeOS Flexデバイスの登録と更新は、完全にインストールした場合にのみ利用できます。CloudReadyと呼ばれていたころは仮想マシン(VMware)で評価することもできたようですが、現在のバージョンのChromeOS Flexではできないようです(USBメディアから仮想マシンをブートしても黒い画面のままで起動しませんでした)。
Googleの認定モデルリストに掲載されているデバイスであることがベストですが、リストに掲載されていなくても、USBメモリまたはSDカードから起動して(Linuxの「LiveCD」のように)試用できることがあります。試用では、ローカルディスクは何も変更されないため(つまり既存のOS環境はそのまま)安心して評価できます。USBメモリまたはSDカードから問題なく起動することに加え、グラフィックスやオーディオ、Wi-Fi接続、内蔵カメラなどの主要デバイスが問題なく認識され、動作することを確認するとよいでしょう。
また、試用の際には、企業クライアントとしての使用可能性についても評価しましょう。例えば、Windows Serverの「リモートデスクトップサービス」や「Azure Virtual Desktop」、「Windows 365 Cloud PC」といったDaaS(サービスとしてのデスクトップ)はHTML5ベースのWebクライアントを提供しているため、シンクライアント(Chromeブラウザをクライアントとして使用)端末としてレガシーデバイスを活用できるかもしれません。
Chromeブラウザはさまざまな拡張機能を追加できるため、例えば「Chromeリモートデスクトップ」による安全な(ファイアウォールポートの例外許可が不要)リモートデスクトップアクセス(写真3)や、リモートサポートを使用したヘルプデスク環境も利用できます(前出の画面1はChromeリモートデスクトップのリモートサポートの機能を使用して取得したもの)。また、Chrome Enterprise Upgradeライセンスの購入の必要性についても検討した方がよいでしょう(30日間の無料試用版あり)。
試用した限り、筆者のレガシーなデバイスでは、USBメモリから起動しての試用であっても、ChromeOS Flexは非常に快適に動作しました。ローカルにインストールすればさらに快適に動作するはずです。
しかし、このレガシーデバイスは2025年10月のサポート終了までWindows 10を使用するつもりです。そのころには、ChromeOS Flexがさらに良くなっているかもしれませんし、全く別のソリューションを選択できるようになっているかもしれません。あるいは、ハードウェアの故障などで問題のデバイスを廃棄してしまっているかもしれませんね。
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP 2008 to 2023(Cloud and Datacenter Management)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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