さようならWindows Server SAC、代替はAKS/AKS on HCI?――Windowsのコンテナ環境はこれからどう変わるのか山市良のうぃんどうず日記(240)

Microsoftは2022年8月9日(米国時間)、Windows Server SACのサポートを終了しました。最終バージョンとなったWindows Server, version 20H2に対する2022年8月の更新プログラム更新プログラムを最後に、今後は更新プログラムが提供されません。また、2022年9月から、Windows Server上のMirantis Container RuntimeのサポートがMirantisに移管されます。

» 2022年09月14日 05時00分 公開
[山市良テクニカルライター]

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CBBのNano Serverの登場と廃止、SACの開始と廃止

 「Windows Server半期チャネル(Semi-Annual Channel:SAC)」(以下、Windows Server SAC)は、「Windows Server, version 1709」から始まった、Windows Serverソフトウェアアシュアランス(SA)契約のあるWindows Serverライセンスで選択可能なWindows Serverのインストールオプションで、デスクトップエクスペリエンスを搭載しない「Server Core」ベースのサーバOSです。

 1年以上前に予告されていたように、最後のバージョンになった「Windows Server, version 20H2」のサービス終了日である2022年8月9日(米国時間)をもって、Windows Server SACの全てのサポートは終了しました。これには、Windowsコンテナ向けのWindows Server SACの「servercore」と「nanoserver」のベースOSイメージも含まれます。

 日本時間では2022年8月10日に提供されたWindows Server, version 20H2向けの累積更新プログラム(KB5016616)と、これが適用済みの更新されたベースOSイメージが最終ビルド(19042.1889)になります(画面1画面2)。

画面1 画面1 2022年8月のBリリースがWindows Server, version 20H2向けの最後の累積更新プログラム(KB5016616、更新ビルド19042.1889)
画面2 画面2 nanoserver:20H2ベースOSイメージの最後の更新バージョン

 Windows Server SACは半年ごとに新バージョンがリリースされ、各バージョンのサポート期限が「18カ月」(最後の20H2のみサポート期限が3カ月延長)と短いため、企業のインフラストラクチャサーバのOSとして運用しているところはほとんどないのではないでしょうか。

 Windows Server SACの主な用途は、Windowsコンテナの最新のベースOSイメージ(servercore、nanoserver)と、それを動かすためのサーバのホストOSを提供することです。ホスト環境としては、最新(同じバージョン以降)の「Windows 10」や「Windows 11」上の「Docker Desktop」でも対応できるので、事実上の用途は最新のベースOSイメージを提供することでした。

 一方、Microsoft AzureのWindowsコンテナ対応サービスは、以前の「Docker」から、現在はオープンソースの「Kubernetes」に主軸を置くようになりました。例えば、「Azure Kubernetes Service(AKS)」は、長期サービスチャネル(Long Term Servicing Channel:LTSC)である「Windows Server 2019」のノードおよびベースOSイメージをサポートしています(「Windows Server 2022」はプレビュー段階)。つまり、Windows Server SACの存在意義はもう失われているのです。

 Windows Server SACが登場する前、「Windows Server 2016」では「Nano Server」という新しいインストールオプションを選択できるようになりました。これは、Windows Server SA契約に基づいて選択できる最小インストールオプションであり、WindowsコンテナのベースOSイメージとしての利用の他、物理サーバや仮想マシンにインストールしてインフラストラクチャサーバ(Hyper-V、コンテナホスト、ファイルサーバなどの役割に対応)として利用できました。

 また、当初は「Current Branch for Business(CBB)」と呼ばれるサービスオプションで、年に2回ないし3回のペースで新バージョンがリリースされることになっていました。しかし、このインストールオプションは、Windows Server 2016の1回限りで廃止となり、代わりにWindows Server SACが用意され、Nano ServerはベースOSイメージとしての提供だけに変更されました。そして、そのWindows Server SACもついに消え去る運命を迎えました。哀れな初代Nano Serverについては、本連載でも繰り返し取り上げました。

 6年前に華々しく登場したNano Serverですが、いろいろと変更があり過ぎて混乱してしまうかもしれません。よく聞こえる宣伝文句(攻撃面を最小化できる、起動が速い、更新が早い、軽量なのでより多くのリソースをアプリケーションに割り振ることができるなど)に乗せられて、Nano ServerやWindows Server SACをインフラストラクチャサーバOSとして導入したところは、痛い目に遭ったことでしょう。

 以下に、始まりと終わりに関するアナウンスをまとめました。なお、今後は最新のNano ServerのベースOSイメージは、Server CoreのベースOSイメージとともに、LTSCバージョンとして提供されることになります(最新バージョンは「nanoserver:ltsc2022」)。

Windowsコンテナのこれから

 上記の最後のアナウンスには、次のように書かれています。

以前にWindows Server SACでリリースされたコンテナとマイクロサービスのイノベーションへのフォーカスは、AKS、AKS on Azure Stack HCI、およびKubernetesコミュニティーとの協力によるその他のプラットフォームの改良でも継続されます。また、Windows Server LTSCでは、Windows Serverの新しいメジャーバージョンは2〜3年ごとにリリースされるので、お客さまはコンテナホストとコンテナイメージの両方をその周期に合わせることを期待できます。
(Windows Server 2022 and beyond for containersより)

 これを読む限り、Windows Server SAC亡き後、Windowsコンテナの次のステージは、AKSまたはAKS on Azure Stack HCIのように読み取れます。AKS、Azure Stack HCI、およびAKS on Azure Stack HCIは全て有料のクラウドサービスです。Azure Stack HCIのハードウェアとその上のインスタンスはオンプレミスで動作しますが、Microsoft Azureのサービスとして提供されるものです。

 Windowsコンテナに関しては、2022年9月にまた別の重要な節目を迎えます。MicrosoftはWindows Server 2016から、Windows Serverライセンスに「Docker Enterprise」(現在のMirantis Container Runtime)のサポートを含めて提供してきました。

 このサポートには、「DockerMsftProvider」モジュールによるDockerエンジンとDocker CLIのインストールと更新、Dockerのサポート窓口を含みます。これは、現在のMirantisとの契約に基づいて提供されてきたものですが、Microsoftは2022年9月末をもってそのサポートを終了し、Mirantisに移管することを1年前に発表しています。そして、ついにその時がやってきたのです。

 この変更により、Windows Server上で「Mirantis Container Runtime(MCR)」が利用できなくなったり、機能しなくなったりするわけではありません(最新のMCRは既にWindows Server 2016をサポートしていませんが)。Microsoftによるサポートが一切提供されなくなるということです。DockerMsftProviderもメンテナンスされないため、MCRの新しいバージョンに対応することはできません。筆者が確認した限り、2021年12月時点でメンテナンスは終了しているらしく、既に2022年にリリースされたMCRに更新することはできなくなっています(最新バージョンに更新するには、Mirantisが提供する「install.ps1」を使用する必要があります)。

 運用環境で引き続きMCRを利用する場合や「Docker Swarm」を使用している場合、「FIPS 140-2」のようなセキュリティ機能を使用している場合は、Mirantisが提供する有料サブスクリプションを購入する必要があります。

 Microsoftは今後、ランタイムとしてオープンソースの「containerd」のみをサポートします。AKSおよびAKS on Azure Stack HCIは、Linuxノードプールの場合、Kubernetesバージョン1.19以降を使用しているノードプールでcontainerdが使用されています。Windows Server 2019ノードプールの場合は、Kubernetes 1.21以降を使用しているノードプールでcontainerdが使用されています。

 Windows Server 2019ノードプールではKubernetes 1.20からcontainerdが一般提供されていますが、Kubernetes 1.20の既定はDockerです。2022年9月からDockerランタイムはサポートされなくなることに注意してください。そしてオンプレミスのWindowsコンテナ環境としては、AKS on Azure Stack HCI(Azure Stack HCIではない、Windows Serverのクラスタに導入することも可能)がMicrosoftにサポートされる唯一の環境になります(画面3)。

画面3 画面3 オンプレミスでは、AKS on Azure Stack HCI(またはWindows Serverクラスタ)が唯一、MicrosoftにサポートされるWindowsコンテナ環境になる

 MicrosoftはWindows Server 2019まで、無料のハイパーバイザー製品である「Microsoft Hyper-V Server」を提供してきましたが、Windows Server 2022バージョンは提供しませんでした。Azure Stack HCIは、MicrosoftがMicrosoft Hyper-V Serverの後継としても推しているものです。Windowsコンテナもそうですが、スタンドアロン環境の代替としては大げさ過ぎる(加えて、毎月の利用料金がかかる)ような気がします。

Windows Server SACとコンテナランタイムに関するその他の影響

 Windows Server SACの廃止とコンテナランタイムのサポートの変更に関して、その他の注意点について触れておきます。

 Azure Marketplaceにある「Windows Server」オファーのうち、「with Containers」という名前のプラン、およびWindows Server SACのプランは、既にデプロイ済みのイメージを含めてサポートされなくなります(画面4)。先日、Azure Marketplace上のwith Containersイメージを利用しているユーザーに対しては、米国時間の2022年9月22日に削除されるという通知が来ました(画面5)。

画面4 画面4 Windows Server SACプランはサポートされなくなった(近い将来プラン自体が削除されるはず)
画面5 画面5 「with Containers」イメージの利用者に届いたイメージの廃止とサポート終了の通知

 「Windows Admin Center(WAC)」の「コンテナ」拡張機能は、MCRが導入されていないホストにワンクリックでインストールできる機能がありますが、この機能はDockerMsftProviderモジュールを利用しているため、この方法によるインストールはサポートされなくなります(既に説明したように、最新バージョンはインストールされません)。また、既に展開済みのMCRの「コンテナ」拡張機能を使用した管理についても、Microsoftによるサポートは一切提供されません(画面6)。

画面6 画面6 WAC(画面はバージョン2110.2)の「コンテナ」拡張機能によるインストールや管理もサポートされなくなる

筆者紹介

山市 良(やまいち りょう)

岩手県花巻市在住。Microsoft MVP 2008 to 2023(Cloud and Datacenter Management)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。


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