Microsoftは2022年8月9日(米国時間)、Windows Server SACのサポートを終了しました。最終バージョンとなったWindows Server, version 20H2に対する2022年8月の更新プログラム更新プログラムを最後に、今後は更新プログラムが提供されません。また、2022年9月から、Windows Server上のMirantis Container RuntimeのサポートがMirantisに移管されます。
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「Windows Server半期チャネル(Semi-Annual Channel:SAC)」(以下、Windows Server SAC)は、「Windows Server, version 1709」から始まった、Windows Serverソフトウェアアシュアランス(SA)契約のあるWindows Serverライセンスで選択可能なWindows Serverのインストールオプションで、デスクトップエクスペリエンスを搭載しない「Server Core」ベースのサーバOSです。
1年以上前に予告されていたように、最後のバージョンになった「Windows Server, version 20H2」のサービス終了日である2022年8月9日(米国時間)をもって、Windows Server SACの全てのサポートは終了しました。これには、Windowsコンテナ向けのWindows Server SACの「servercore」と「nanoserver」のベースOSイメージも含まれます。
日本時間では2022年8月10日に提供されたWindows Server, version 20H2向けの累積更新プログラム(KB5016616)と、これが適用済みの更新されたベースOSイメージが最終ビルド(19042.1889)になります(画面1、画面2)。
Windows Server SACは半年ごとに新バージョンがリリースされ、各バージョンのサポート期限が「18カ月」(最後の20H2のみサポート期限が3カ月延長)と短いため、企業のインフラストラクチャサーバのOSとして運用しているところはほとんどないのではないでしょうか。
Windows Server SACの主な用途は、Windowsコンテナの最新のベースOSイメージ(servercore、nanoserver)と、それを動かすためのサーバのホストOSを提供することです。ホスト環境としては、最新(同じバージョン以降)の「Windows 10」や「Windows 11」上の「Docker Desktop」でも対応できるので、事実上の用途は最新のベースOSイメージを提供することでした。
一方、Microsoft AzureのWindowsコンテナ対応サービスは、以前の「Docker」から、現在はオープンソースの「Kubernetes」に主軸を置くようになりました。例えば、「Azure Kubernetes Service(AKS)」は、長期サービスチャネル(Long Term Servicing Channel:LTSC)である「Windows Server 2019」のノードおよびベースOSイメージをサポートしています(「Windows Server 2022」はプレビュー段階)。つまり、Windows Server SACの存在意義はもう失われているのです。
Windows Server SACが登場する前、「Windows Server 2016」では「Nano Server」という新しいインストールオプションを選択できるようになりました。これは、Windows Server SA契約に基づいて選択できる最小インストールオプションであり、WindowsコンテナのベースOSイメージとしての利用の他、物理サーバや仮想マシンにインストールしてインフラストラクチャサーバ(Hyper-V、コンテナホスト、ファイルサーバなどの役割に対応)として利用できました。
また、当初は「Current Branch for Business(CBB)」と呼ばれるサービスオプションで、年に2回ないし3回のペースで新バージョンがリリースされることになっていました。しかし、このインストールオプションは、Windows Server 2016の1回限りで廃止となり、代わりにWindows Server SACが用意され、Nano ServerはベースOSイメージとしての提供だけに変更されました。そして、そのWindows Server SACもついに消え去る運命を迎えました。哀れな初代Nano Serverについては、本連載でも繰り返し取り上げました。
6年前に華々しく登場したNano Serverですが、いろいろと変更があり過ぎて混乱してしまうかもしれません。よく聞こえる宣伝文句(攻撃面を最小化できる、起動が速い、更新が早い、軽量なのでより多くのリソースをアプリケーションに割り振ることができるなど)に乗せられて、Nano ServerやWindows Server SACをインフラストラクチャサーバOSとして導入したところは、痛い目に遭ったことでしょう。
以下に、始まりと終わりに関するアナウンスをまとめました。なお、今後は最新のNano ServerのベースOSイメージは、Server CoreのベースOSイメージとともに、LTSCバージョンとして提供されることになります(最新バージョンは「nanoserver:ltsc2022」)。
上記の最後のアナウンスには、次のように書かれています。
以前にWindows Server SACでリリースされたコンテナとマイクロサービスのイノベーションへのフォーカスは、AKS、AKS on Azure Stack HCI、およびKubernetesコミュニティーとの協力によるその他のプラットフォームの改良でも継続されます。また、Windows Server LTSCでは、Windows Serverの新しいメジャーバージョンは2〜3年ごとにリリースされるので、お客さまはコンテナホストとコンテナイメージの両方をその周期に合わせることを期待できます。
(Windows Server 2022 and beyond for containersより)
これを読む限り、Windows Server SAC亡き後、Windowsコンテナの次のステージは、AKSまたはAKS on Azure Stack HCIのように読み取れます。AKS、Azure Stack HCI、およびAKS on Azure Stack HCIは全て有料のクラウドサービスです。Azure Stack HCIのハードウェアとその上のインスタンスはオンプレミスで動作しますが、Microsoft Azureのサービスとして提供されるものです。
Windowsコンテナに関しては、2022年9月にまた別の重要な節目を迎えます。MicrosoftはWindows Server 2016から、Windows Serverライセンスに「Docker Enterprise」(現在のMirantis Container Runtime)のサポートを含めて提供してきました。
このサポートには、「DockerMsftProvider」モジュールによるDockerエンジンとDocker CLIのインストールと更新、Dockerのサポート窓口を含みます。これは、現在のMirantisとの契約に基づいて提供されてきたものですが、Microsoftは2022年9月末をもってそのサポートを終了し、Mirantisに移管することを1年前に発表しています。そして、ついにその時がやってきたのです。
この変更により、Windows Server上で「Mirantis Container Runtime(MCR)」が利用できなくなったり、機能しなくなったりするわけではありません(最新のMCRは既にWindows Server 2016をサポートしていませんが)。Microsoftによるサポートが一切提供されなくなるということです。DockerMsftProviderもメンテナンスされないため、MCRの新しいバージョンに対応することはできません。筆者が確認した限り、2021年12月時点でメンテナンスは終了しているらしく、既に2022年にリリースされたMCRに更新することはできなくなっています(最新バージョンに更新するには、Mirantisが提供する「install.ps1」を使用する必要があります)。
運用環境で引き続きMCRを利用する場合や「Docker Swarm」を使用している場合、「FIPS 140-2」のようなセキュリティ機能を使用している場合は、Mirantisが提供する有料サブスクリプションを購入する必要があります。
Microsoftは今後、ランタイムとしてオープンソースの「containerd」のみをサポートします。AKSおよびAKS on Azure Stack HCIは、Linuxノードプールの場合、Kubernetesバージョン1.19以降を使用しているノードプールでcontainerdが使用されています。Windows Server 2019ノードプールの場合は、Kubernetes 1.21以降を使用しているノードプールでcontainerdが使用されています。
Windows Server 2019ノードプールではKubernetes 1.20からcontainerdが一般提供されていますが、Kubernetes 1.20の既定はDockerです。2022年9月からDockerランタイムはサポートされなくなることに注意してください。そしてオンプレミスのWindowsコンテナ環境としては、AKS on Azure Stack HCI(Azure Stack HCIではない、Windows Serverのクラスタに導入することも可能)がMicrosoftにサポートされる唯一の環境になります(画面3)。
MicrosoftはWindows Server 2019まで、無料のハイパーバイザー製品である「Microsoft Hyper-V Server」を提供してきましたが、Windows Server 2022バージョンは提供しませんでした。Azure Stack HCIは、MicrosoftがMicrosoft Hyper-V Serverの後継としても推しているものです。Windowsコンテナもそうですが、スタンドアロン環境の代替としては大げさ過ぎる(加えて、毎月の利用料金がかかる)ような気がします。
Windows Server SACの廃止とコンテナランタイムのサポートの変更に関して、その他の注意点について触れておきます。
Azure Marketplaceにある「Windows Server」オファーのうち、「with Containers」という名前のプラン、およびWindows Server SACのプランは、既にデプロイ済みのイメージを含めてサポートされなくなります(画面4)。先日、Azure Marketplace上のwith Containersイメージを利用しているユーザーに対しては、米国時間の2022年9月22日に削除されるという通知が来ました(画面5)。
「Windows Admin Center(WAC)」の「コンテナ」拡張機能は、MCRが導入されていないホストにワンクリックでインストールできる機能がありますが、この機能はDockerMsftProviderモジュールを利用しているため、この方法によるインストールはサポートされなくなります(既に説明したように、最新バージョンはインストールされません)。また、既に展開済みのMCRの「コンテナ」拡張機能を使用した管理についても、Microsoftによるサポートは一切提供されません(画面6)。
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP 2008 to 2023(Cloud and Datacenter Management)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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