あいおいニッセイ同和損保のクラウドPBXが、2022年10月に稼働した。0AB-J番号(03/06などで始まる電話番号)、固定電話機の廃止を特徴とするクラウドPBXは「柔軟な働き方の実現」や「事業費効率化」という目的を達成できたのだろうか。
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「あいおいニッセイ同和損害保険」(代表取締役社長:新納啓介氏、以下「あいおいニッセイ同和損保」)は、2022年1月、場所にとらわれない柔軟な働き方と事業費効率化のため、クラウドPBXを2022年10月から導入することを発表した。
その特徴は、03(東京)や06(大阪)などで始まる固定電話用番号(0AB-J番号)の代表電話を全てIP電話用の050番号に変更すること、固定電話機を全廃しスマートフォンのみを電話端末として使うことだ。
導入から半年たった2023年4月時点でどのような状況か、総務部総務グループ 担当次長 土師邦義氏に話を伺った。
参考記事:固定電話と0AB-J番号を廃止! あいおいニッセイが新しい企業電話のモデルに
クラウドPBXの対象は営業部門と本社などのスタッフ部門で、拠点数は478拠点に上る。CTI(Computer Telephony Integration:電話と顧客データベースの連携などをするシステム)を利用している損害サービス部門は対象としない。図1がその概要構成だ。
代表電話のグループに登録されているスマートフォンは、在宅勤務中でもオフィスにいる時と同様に、代表電話に着信した電話に出たり、代表電話番号を発信元番号として外部に電話をかけたりできる。場所を選ばない働き方ができるのだ。
050番号はクラウドPBX側に集中して持てるので、各拠点に電話回線を引く必要はない。電話回線を収容する装置も、固定電話機も不要なため、設備コストを削減できる。
移行の仕方は大胆で、顧客や取引先に0AB-J番号から050番号への変更をていねいに事前周知した上で、2022年10月1日にWebサイト上の電話番号や印刷物の電話番号を一斉に050番号へ切り替えた。土師氏によると、代表番号が050になることに抵抗感のある顧客などがいるのではないかと心配したが、杞憂(きゆう)に終わったそうだ。
050番号への変更と同時に、対象となる全スマートフォン1万1000台がクラウドPBXの利用を開始した。
大胆さの一方で慎重さもある。従前からの契約書や印刷物には0AB-J番号が記されているため、その番号に電話がかかってくることがある。そのため、現在はクラウドPBXの050番号と旧来のPBXの0AB-J番号を並行運用している。状況を見ながら徐々に旧来のPBX、0AB-J番号を減らしていくそうだ。
クラウドPBXの導入効果として、場所を選ばない働き方ができるようになっただけでなく、電話の利用が効率化されたという。まず、通話アプリを使った電話の転送が固定電話機を使っていたときより操作が簡単で便利になった。
着信時には画面の右上に自分のダイヤルイン番号宛ての着信なのか、代表電話宛ての着信なのか表示されるため、電話応対がしやすくなった。(写真1参照)
モバイルとインターネットを使うクラウドPBXで気になるのは音質だ。土師氏によると、音質に関するクレームが全くないわけではないそうだ。モバイルの電波が届かない場所や弱い場所では通話ができなかったり、音質が悪くなったりすることがある。
あいおいニッセイ同和損保は、電波環境の悪い拠点でレピーターまたはWi-Fiによる電波対策をしたそうだ。レピーターとは携帯電話事業者が用意する設備だ。電波の受信状態が良い窓際などにアンテナを設置し、そのアンテナに電波の届きにくい場所に設置したレピーターを有線で接続する。レピーターから増幅した電波を発射して周辺をカバーする。
Wi-Fiは該当拠点にIP電話用のインターネット回線を引いて、スマホ専用のWi-Fiを接続して使っているそうだ。社内でコンピュータ通信用に整備されているWi-Fiはセキュリティを保つためにスマートフォンの接続を禁じており、通話には利用できない。
革新的なことをやると宣言して計画通り実行するのは難しいことだ。あいおいニッセイ同和損保は、050番号への一斉切り替え、1万台を超えるスマートフォンが同時にクラウドPBXを利用開始、という大胆さと、固定電話機、0AB-J番号の並行運用という慎重さを兼ね備えた移行方法で、計画通りクラウドPBXの導入を進めている。クラウドPBXの採用を検討している企業は良いモデルとして参考にしてはいかがだろうか。
松田次博(まつだ つぐひろ)
情報化研究会(http://www2j.biglobe.ne.jp/~ClearTK/)主宰。情報化研究会は情報通信に携わる人の勉強と交流を目的に1984年4月に発足。
IP電話ブームのきっかけとなった「東京ガス・IP電話」、企業と公衆無線LAN事業者がネットワークをシェアする「ツルハ・モデル」など、最新の技術やアイデアを生かした企業ネットワークの構築に豊富な実績がある。本コラムを加筆再構成した『新視点で設計する 企業ネットワーク高度化教本』(2020年7月、技術評論社刊)、『自分主義 営業とプロマネを楽しむ30のヒント』(2015年、日経BP社刊)はじめ多数の著書がある。
東京大学経済学部卒。NTTデータ(法人システム事業本部ネットワーク企画ビジネスユニット長など歴任、2007年NTTデータ プリンシパルITスペシャリスト認定)、NEC(デジタルネットワーク事業部エグゼクティブエキスパート等)を経て、2021年4月に独立し、大手企業のネットワーク関連プロジェクトの支援、コンサルに従事。新しい企業ネットワークのモデル(事例)作りに貢献することを目標としている。連絡先メールアドレスはtuguhiro@mti.biglobe.ne.jp。
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