IT用語の基礎の基礎を、初学者や非エンジニアにも分かりやすく解説する本連載、第11回は「PoC」です。ITエンジニアの学習、エンジニアと協業する業務部門の仲間や経営層への解説にご活用ください。
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PoCはProof of Concept(概念実証)の略称で、新しいアイデアやコンセプトの実現可能性を確認するための検証を表す用語です。PoCでは、ビジネスにおける課題解決のアイデアや、市場のニーズを検証するため、対象となるアイデアを具体化し、プロトタイプの開発やテストによって、アイデアやコンセプトの実現可能性を確認します。昨今の日本では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に積極的な企業がさまざまなアイデアや手法に対してPoCを実施しています。
PoCは以下の流れで進めていきます。
PoCの目的と検証する範囲を明確化し、ゴールを設定します。PoCによって得たい結果など目標を明確化することで、検証を進める中での方針のぶれや、コンセプトを検証するはずがただの技術や製品の検証になってしまう、といった事態を防ぎます。
PoCを実施するに当たり必要となる要件を整理し、環境を用意します。具体的には、使用するプロダクトの開発やそれを動作させるハードウェア、ソフトウェアなどの用意、PoCに関わる人的リソースの確保などを行います。検証に必要な範囲において、可能な限り実際の環境に近づけることが重要です。
開発したプロダクトを用いて、ゴールに向けて検証を進めます。検証が完了したら、その結果を評価します。設定した目標に対してどの程度達成したか、実現可能性はどうか、どのような課題が見つかったかなどを整理します。
特に、PoCは単なる技術の検証とは異なり、「課題の解決や目的が達成できているかどうか」を実証するものであるため、テストに関わったユーザーのフィードバックが重要です。
検証結果や評価を基に、プロダクトの開発に進むか、コンセプトを改善するかを判断します。
PoCを行うことによって得られるメリットは以下の通りです。
PoCにより、新しい手法やアイデアのコンセプトの価値や実現可能性を検証することで、本格的な開発を開始する前にリスクや課題を特定できます。そもそもの手法やアイデアに問題がある場合は、無駄な投資を防ぐことにもつながります。
多くの場合、新しい手法やアイデアを実現しようとすると多額の予算が必要となりますが、不確定要素が多く予測が立てづらい状況では投資への理解を得ることは難しいものです。PoCを行うことによって、手法やアイデアが成功した場合のビジネスへの影響や、失敗した場合のリスクなど、さまざまな状況がクリアになります。PoCに成功した場合、手法やアイデアの実現性について根拠を持った説明ができるため、周囲の理解を得やすくなります。
PoCには、実施に関わる人のコスト、プロトタイプの開発コスト、検証にかかる時間的なコストなど、さまざまなコストがかかります。PoCが長期化すると、これらのコストが増加していきます。
PoCを繰り返すだけで事業化につながらないといった状況は「PoC貧乏」や「PoC疲れ」と呼ばれます。PoCはあくまでもビジネスアイデアの実現手段の一つであり、目的ではないという意識を持つことが大切です。
「PoC疲れ」に陥らないためには、以下のポイントを押さえることが重要です。
PoCは仮説の検証であるため、何をもってゴールとするか、何を確認するためのPoCなのかを明確にすることが大切です。
ゴールが不明瞭だと、PoCをすることが目的となってしまい、得られたデータをその後の開発に生かせなくなるリスクがあります。また、ゴールの設定とともに、中止の条件なども決めておくと、PoCの長期化を防げます。
PoCは必要最小限の範囲で迅速に検証します。規模が大きくなるとPoCにかかる時間が長くなり、時間がかかるほどそれに関わる人材のコストなどが大きくなります。何より、仮説を立てた当初はニーズがあったものが、時間の経過とともに価値が失われるなど、PoCを行うこと自体の意味が失われてしまう懸念もあります。
PoCの実施環境を実際の環境に近づけることで、より現実的な評価ができます。ハードウェアやソフトウェアなどの環境だけでなく、ユーザーも巻き込むことが大切です。ユーザー視点のフィードバックを確実に収集し、結果の反映や改善に活用します。
近年、DX推進の流れでIT投資を増額する企業が増えており、それに伴いAI(人工知能)やIoT(※)などを活用した新しいビジネスアイデアに対してPoCを行うケースが増えています。DXのような革新的で新しいアイデアには不確実な要素が多く含まれており、質の高いPoCの実施は今後ますます重要性が高まるものと思います。
BFT インフラエンジニア
主に金融系、公共系情報システムの設計、構築、運用、チームマネジメントを経験。
現在はこれまでのエンジニア経験を生かし、ITインフラ教育サービス「BFT道場」を運営。
「現場で使える技術」をテーマに、インフラエンジニアの育成に力を注いでいる。
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