グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。今回もFastlyのCTO(最高技術責任者)、Tyler McMullen(タイラー・マクマレン)さんにお話を伺う。タイラーさんがいつも自分に言い聞かせている、エンジニアに伝えたいメッセージとは。
国境を越えて活躍するエンジニアにお話を伺う「Go Global!」シリーズ。前回に引き続きFastlyのCTO(最高技術責任者)、Tyler McMullen(タイラー・マクマレン)さんにお話を伺う。困難な課題に対しても「新しいチャレンジだ」とばかりに、精力的に、それでいて好奇心を持って取り組むタイラーさんの原動力とは何か。
聞き手は、アップルやディズニーなどの外資系企業でマーケティングを担当し、グローバルでのビジネス展開に深い知見を持つ阿部川“Go”久広。
阿部川 “Go”久広(以降、阿部川) Fastlyを起業されたのは2011年のことですね。
Tyler McMullen(タイラー・マクマレン、以下タイラーさん) Scribdで一緒だったサイモンと、その友人のアーチャーで起業しました。アーチャーは当時Wikipediaの商業利用を推進していたウィキィアという企業のCTOでした。
面白かったのは3人とも同じような悩みを抱えていたことです。CDN(Contents Delivery Network)上にウィキィペディアのコンテンツをキャッシュしたかったのです。ところがCDN側からは「ここのコンテンツは画像になるから、キャッシュできない」と言われ、それから幾つかやりとりをしても平行線のまま。
当時のやりとりについて誤った記述となっておりましたので修正いたしました。
×ウィキィペディアのコンテンツから売り上げをあげたかった → ○ウィキィペディアのコンテンツをキャッシュしたかった
×ここのコンテンツはイメージや画像になるから(テキストなどは)掲載できない → ○ここのコンテンツは画像になるから、キャッシュできない
私たちとしてはCDN上のデータは誰かがアップデートをするまではずっと静的なデータなので、変更されたら前のものを除去するような仕組みを入れるだけでいいはずだと思いましたが「CDNはそのようなことをするためのものではない」というのが先方の考えでした。
例えば、誰かが変更を加えるまでは静的なデータでできているページを蓄積して処理スピードを速め、変更が加わったら即座にそれまでのデータを除去して最新のデータを反映する。そういった仕組み「instant purge」のシステムがあればいいと考えました。それがFastlyを設立した理由です。自分たちが直面していた問題を、まずは自分たちで解決したかったのです。
誰かがやってくれるのを待つのではなく、自分から動く。これは重要ですよね。人任せだと自分が思うような解決策になるとは限らないし、いつになるか分からない。まぁやり方を間違えると独りよがりな「神エクセル」のような厄介なものを残すことになってしまいますが……。だからこそ仲間を募り、最適な方法を探るというアプローチは業界、業種、役職に関係なく大切だと思います。
阿部川 なるほど。その“instant purge”(即座に除去するシステム)というのは技術のことですか、それとも製品名ですか?
タイラーさん 製品名です。この製品の核となった技術が「Bimodel Multicast」です。2つのフェーズでデータを配信する仕組みです。1つ目のフェーズでネットワーク上にたくさんのデータを配信します。すると、幾つかのデータは失われてしまいます。すると2つ目のフェーズでノード同士が相互にコミュニケーションして最適な通信を探し当て、最終的には全てが1つにまとまる、というものです。
阿部川 Fastly設立から12年経過していますが、今でもそれはFastlyの中心的な技術なのですか。
タイラーさん そうですね……今はそれ以外にも重要な技術はあるので、Fastlyの核の技術とまでは言えなくなりました。今、私たち(Fastly)の持つ大きな強みはネットワークそのものです。
最近の傾向として、企業は大きな規模でのネットワークのインフラストラクチャに取り組まなくなってきていると思います。一方、Fastlyは世界中の顧客のもとに物理的なプレゼンス(存在)がある。それこそが戦略的な優位性を保っているところだと思います。
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