生成AIは従業員の生産性向上にどこで役立つか、効果をどう測定すればいいのかGartner Insights Pickup(363)

生成AIが従業員の生産性をどこで、どのくらい向上させるかを評価するのは簡単ではない。情報中心の業務は、多くの場合固定的なものではないからだ。時には、個人のタスクレベルの最適化よりも、チームとしての生産性の向上が全体的な生産性に大きな影響を与えることがある。

» 2024年08月09日 05時00分 公開
[Mike Gotta, Gartner]

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 一般的に、情報による価値創造を中心とした業務(インフォメーションワーク)に携わる従業員は、厳格でタスク主導の、固定されたワークフローで仕事をしているわけではない。このため、生産性は簡単に測定できない。

 多くの場合、業務のやり方を柔軟に調整し、頻繁に活動を切り替え、多くの人とやりとりする。こういったやりとり(会議、業務スケジュールの調整、同僚とのコミュニケーションなど)は、従業員の“タスク”とは少ししか関係がないかもしれないが、それでも生産性を左右する。

 こうしたインフォメーションワーカーの生産性を測定し、向上させるには、タスク単位では捉えきれない業務のエクスペリエンスや業務の進め方、優先順位付けの選択、関係者からの情報や意見への依存度なども考慮する必要がある。マルチタスクの並行処理や中断の度合いも、考慮すべき関連要因だ。これらは業務への集中や、中断した業務の再開とペースの回復を複雑にするからだ。業務の量とばらつきも、生産性の一貫性に影響する。

 生成AIがインフォメーションワーカーの生産性に与える影響を見極めるには、集団としての業務を理解する必要がある。時には、個人のタスクレベルの最適化よりも、チームとしての生産性の向上が全体的な生産性を大きく左右することがある。

インフォメーションワーカーの生産性を理解

 Gartnerは、インフォメーションワークについて、「業務領域」という共通する観点から生産性を捉え直すべきだと考えている。業務パターンを領域として扱うことで、生成AIのような技術が従業員の生産性向上にどこで役立つかを見極めることが可能になる。

 業務領域は、タスクの観点から生産性に取り組むアプローチを超えて、インフォメーションワークに携わる従業員の業務実態をよりよく理解する方法だ。大抵、こうしたインフォメーションワーカーは相互に関連するタスク処理や人間関係の構築、維持、知識の交換を順次行いながら時間を過ごしている。

 Gartnerは、以下の9つの業務領域(9つ目の「検索」は、他の全ての領域にも当てはまる)の観点から、インフォメーションワーカーの生産性を理解する取り組みを始めることを勧めている。

  1. 計画:業務を整理し、自己管理する
  2. 制作:知識の成果物を組み立て、設計し、改良する
  3. 会議:人を集め、情報を共有し、決定を下し、行動を文書化し、個々の視点と共有ビジョンを設定する
  4. 分析:業務に必要な労力、成果物、データ、内容を評価する
  5. コラボレーション:業務を遂行するために対話や共同作業をする
  6. 調整:チームメンバーや他の従業員とやりとりし、業務の改善、タイムラインの調整、納期の調整、作業配分の再評価を実施する
  7. ネットワーキング:同僚とつながり、専門知識やノウハウ、コミュニティーからのフィードバック、情報を入手したり、共有したりする
  8. 意思決定:業務活動において、個人やチームの行動に影響を与える正式な判断や結論を下す
  9. 検索:業務に関連するコンテンツ、人、データを発見し、活用する

 各業務領域は独立したものではなく、さまざまな割合で重なり合う連続体だ。インフォメーションワーカーの生産性を、相互に依存する業務領域に分けることで、デジタルワークプレースのリーダーは、生成AIをどこに適用できるかや、インフォメーションワークのどのような側面が、単なる「時間の削減」を超えて最も改善されるかを、よりよく理解できる。

生成AIが業務領域に与える影響を評価

 インフォメーションワークの生産性の測定はこれまで、時間の節約に注目するアプローチで行われてきた。だが、ステークホルダーが因果関係を特定して、時間の節約を証明するのは難しい。例外は、業務がワークフローに従って行われ、従業員の裁量がほとんどない場合だ。ヘルプデスク業務がその一例だ。

 特定の業務が割り当てられている場合も、生産性に対する測定可能な影響が大きくなる。

 より一般的には、生産性モニタリングツールを導入して、業務活動を追跡することもできる。ほとんどの場合、生産性への影響を推測するために、さまざまな測定手法が適用される。

 新しい技術がインフォメーションワークの生産性に及ぼす影響を評価することも、同じように難しい。生成AIの場合、過去の洞察の蓄積がないため、分野ごとに潜在的な恩恵の大小を測ることがより重視される。

 だが、その恩恵はタスクの効率化にとどまらず、人間関係や知識交換の改善にも及ぶ。従業員はマルチタスクをこなすうちに、同僚や業務全体についての状況認識を失っていく。例えば、誰が何をしているか、どのような行動が必要か、どのタスクが完了しているか、進捗(しんちょく)がどうなっているかといった認識だ。こうした情報を総合して業務状況の正確な全体像をつかめれば、従業員は、中断した仕事を再開してペースを取り戻す際の人間関係や認知の負担を軽減できる。

 ビジネスステークホルダーや生成AIの推進者により多くの洞察を提供するには、業務領域の考え方をユースケースに適用することが役立つ。デジタルワークプレースリーダーはユースケースに基づいて、生成AIを導入してビジネス価値や生産性向上を得る文脈を設定し、ビジネス部門のリーダーに提示できる。ユースケースは、生成AIを一般的な生産性向上ツールとして全社に広く展開すべきか、あるいは特定の業務や従業員に絞って展開すべきかを判断するのに役立つ。

 また、多くのデジタルワークプレースアプリケーションベンダーがそれぞれ自社製品に生成AIを実装している中で、ユースケースは機能とその効果を区別するのにも役立つ。

 前述した業務領域において、生成AIが生産性を向上させる機会の例を以下に挙げる。

  • 会議

 議事録の自動化、会議のまとめ、会議で決定した施策や事項の概要の作成。ここでの生成AIは、作業を円滑化する方法を提供したり、チームメンバーの全体的な業務状況や活動に対するチームメンバーの認識を高めたりできる。

  • 検索

 生成AIは、従来の検索エンジンを利用する手動のアプローチでは見逃してしまうかもしれないコンテンツやメディアの反応を、まとめられる。これによって生産性が向上する可能性があるだけではない。例えば、生成AIを利用してRFP(提案依頼書)を作成すれば、RFPの発行側(発注元)に提供される情報の質にも影響がある。

  • 調整

 生成AIは、複数のセッションにわたるやりとりをつなぎ合わせ、より包括的な概要としてまとめるのに役立つ。生成AIを使えば、情報を要約し、重要なポイントを強調することで、仕事の引き継ぎのトラブルを減らせる。

出典:Where Generative AI Can Impact Information Worker Productivity(Gartner)

※この記事は、2024年6月に執筆されたものです。

筆者 Mike Gotta

VP Analyst


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