エンドユーザーコンピューティングの持続可能性を高める6つの取り組みGartner Insights Pickup(362)

ほとんどの企業において、ユーザー端末はIT関連の温室効果ガス排出量および廃棄物量のかなりの部分を占めている。しかし多くのIT担当部署は、端末のライフサイクル管理が自社におけるITの持続可能性の最適化に大きな影響を与えることに気づいていない。

» 2024年08月02日 05時00分 公開
[Autumn Stanish, Gartner]

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 デジタルビジネスの加速化とAIワークロードのための新しいコンピュート機能の導入に伴い、新しいエンドポイントデバイスの需要は爆発的な速度で増加し続けている。このことは、ほとんどの企業にとって、環境面でも金銭面でも大きな負担となっている。

 エンドポイントデバイスはほとんどの企業において、IT全体の温室効果ガス(GHG)排出量と廃棄物量のかなりの部分を占めている。

 これを受けて、エンドユーザーデバイスや電気電子機器廃棄物(e-waste。以下、電子廃棄物)の持続可能な管理に焦点を当てた政府規制が増加している。例えば、日本の「資源有効利用促進法」(資源の有効な利用の促進に関する法律)や「小型家電リサイクル法」(使用済小型電子機器等の再資源化の促進に関する法律)などがそうだ。

 国連が2024年3月に発表したレポート「 The Global E-waste Monitor 2024」(グローバル電子廃棄物モニター2024年版・外部リンク/英語)は、日本では2022年に電子廃棄物が260万トンに達しており、小型家電リサイクル法に基づく取り組みなどが功を奏し、リサイクル(再資源化)を目的とした電子廃棄物の回収が増加していると報告している。

 エンドポイントデバイスの環境持続可能性を管理することは、インフラとオペレーション(I&O)のリーダーが担う主要な責務となりつつある。だが、多くのI&Oリーダーは、デバイスのライフサイクル全体を通じて自らが行う決定(調達から配送、資産管理、廃棄に至るまで)が、ITの持続可能性の最適化に大きな影響を与えることに気づいていない。

 デバイスの持続可能性に関する戦略的な意思決定をすることで、間接的なメリットも数多く得られる。その中には、コスト削減、プロセスのモダナイゼーション、レジリエンス(回復力)、従業員満足度や人材を引きつける自社の魅力の向上が含まれる。

 持続可能なデバイスのライフサイクルの実現は、重要なビジネスチャンスにつながり、サーキュラーエコノミー(循環型経済)は、そうした目標を追求する枠組みを提供する。それには廃棄を減らすだけでなく、デバイスの導入と使用を最適化することも含まれる。

 ITのサーキュラーエコノミーによってデバイスのライフサイクル全体を継続的に合理化し、維持し、再構築することで、地球環境、従業員エンゲージメント、ビジネスに等しく貢献できる。この取り組みは多角的に進められる。

既存資産の洗い出しと管理

 エンドポイント資産の徹底的な棚卸し、カタログ化、特定を行い、従業員1人当たりのデバイス使用台数を厳密に調べる。この台数は、算定後に最適化し、リソースの無駄遣いをなくす必要がある。

 廃棄物や排出物の削減という観点からは、デバイスのリユース(再使用)や修理の方が再製造やリサイクルよりも効果的だ。二酸化炭素排出量や電力消費への影響が抑えられるからだ。また、デバイスのリユースや修理では、廃棄や新しい機器の調達に伴う追加的な労働力やコストもかからない。

デバイスの使用期間

 ほとんどの企業は、従業員のノートPCの買い替えサイクルを4〜5年に、モバイルデバイスの買い替えサイクルを3年に延ばしている。これらのデバイスの残存寿命を活用するためだ。デバイスの使用期間を延ばせば、コストの節約につながり、新製品の製造に伴う大量のGHG排出を先送りする効果もある。

 デバイスの寿命は、ユーザーのワークプレースのペルソナ(ハイブリッド/モバイル、デスクワーク、フロントラインなど)や、固有の使用パターンとハードウェア要件に基づいて定義できる。利用状況やパフォーマンスのデータを使って、デバイスの交換が必要かどうかを判断したり、故障の兆候があるバッテリーやその他のハードウェアを見つけて予防的に交換することで、エンドポイント投資のリターンを最大化すべきだ。

 デバイスの使用期間が5年を超えると、材料や部品のリサイクルが最適な選択肢となることが多い。ほとんどの企業向けデバイスでは、サポートやセキュリティ更新プログラムの提供が終了し、部品の故障率上昇、パフォーマンスの低下、外観の劣化が起こり、エネルギー消費が増えるからだ。

仮想デスクトップの活用

 Gartnerの最近の調査では、DaaS(Desktop as a Service)または仮想デスクトップインフラストラクチャ(VDI)が、ITのGHG排出量を削減するために最も広く実施されている取り組みのトップ10に入ることが分かった。

 オフィス勤務か在宅勤務かにかかわらず、ノートPCを必要としないデスクワーカーは、より効率的なデバイスを使えるかもしれない。DaaSでは、据え置き型のシンクライアントを利用できるからだ。シンクライアントは、ノートPCやデスクトップPCよりも製造、運用時の二酸化炭素排出量が大幅に少なく、製品寿命も長い(6〜8年)。

 また、既存のPCにシンクライアントOSをインストールし、シンクライアントとして転用することで、寿命を延ばすこともできる。これは、シンクライアントと転用したPCでOSの一貫性を確保することにもなる。

電源状態の設定

 デバイスの長期的な信頼性は、従業員の扱い方やメンテナンスの仕方に左右される場合が多い。バッテリーは、デバイスで真っ先に故障するものの一つであるため、デバイス使用時のエネルギー消費を抑えることで、バッテリーを長持ちさせ、早期の劣化を避けられる。

 不使用時のスタンバイモードやスリープ状態への切り替えなどにより、最小限の電力で動作するようにデバイスを設定し、他の省電力機能も有効にする。従業員にこれらのことを奨励するとよい。

再生品という選択肢

 高性能なデバイスを必要としない従業員に再生品や再製造品を支給することも、検討に値する。再生品や再製造品を敬遠する向きもあったが、「これらを導入してハードウェア支出や電子廃棄物を大幅に削減した」という企業の報告が増えている。このことは、これらのデバイスに対する悪いイメージの払拭(ふっしょく)に役立っている。再生品や再製造品の製造は、より調達の競合が少ないリソースを使用して行われる。このためサプライチェーンの問題から受ける影響も軽減される。

 再生品の利用によるコスト、GHG排出量、廃棄物の削減効果を確実に実現するには、プロバイダーが特定の品質および環境認証を取得していることを確認し、引き取りとリサイクルの戦略について交渉する。また、期待される使用期間全体にわたって、必要なソフトウェアやファームウェア、ドライバ、バグやセキュリティ問題を修正する更新プログラムが提供されること、保証期間の延長についても確認する。

デバイスの調達手法

 環境の持続可能性は、全ての調達取引で主要な購入基準の一つでなければならない。例えば、持続可能性に関するパフォーマンスデータを透明性を持って共有するベンダーを検討する。責任ある梱包で出荷され、エコラベル認証を取得済みで、二酸化炭素排出量データが提供されている機器を選ぶ。ノートPCを比較するために基準テストを行い、エネルギー効率を判断し、自社固有の環境における標準的なエネルギー負荷を計算する。

 他にも検討すべき手法がある。マネージドデバイスライフサイクルサービス(MDLS)とBYODだ。MDLSは、ベンダーがデバイスについて環境効率の高い追跡、管理、廃棄の責任を負うことを保証する。BYODは最終的に、企業が環境の観点から測定および報告する責任を負うデバイスに関する負荷を軽減する。また、新しいエンドポイントデバイスの大量生産につながることもない。

出典:Making end-user computing more sustainable(Gartner)

※この記事は、2024年5月に執筆されたものです。

筆者 Autumn Stanish

Director Analyst


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