あこがれの企業に挑戦の落とし穴あなたの転職活動、デバッグすべし(2)

ITエンジニアの世界でも、中途採用を積極的に行う企業が増え、以前に比べて転職が容易になっている。その一方で転職した後に、「転職に失敗した」といって人材紹介会社に駆け込むITエンジニアが急増中だ。失敗しないためにできることは何か。パソナキャリアの人材コンサルタントがそんな疑問に答えよう。

» 2007年02月21日 00時00分 公開
[佐田浩一パソナキャリア]

目指している企業があるから

 あなたはチャンスがあったら入社したい企業はありますか。新卒の就職活動のときに挑戦したけれど不合格になってしまった企業、誰もが知っている大手企業、ある分野ではトップクラスの技術力を誇る企業……。

 IT業界における最近の人手不足のため、かつてはかなりハードルの高かった企業でも、数年前に比べるとかなり募集要件が緩和されている求人も見受けられます。そのため、あこがれの企業に入るチャンスが広がっているのが現在の転職マーケットといえるでしょう。

 そんな中、ずっとあこがれていた企業に入社したものの、短期間で離職を決めたKさんの例をご紹介します。

目指すはあこがれのA社

 「A社を受けたいのですが、御社経由で応募できますか?」

 Kさんと初めて話をしたのは、IT教育ベンダのA社の応募に関する問い合わせからでした。話を伺うと、Kさんはもともと教育に興味があり、A社の研修を受講した際に『自分もA社でインストラクターとして働きたい』と決意し、キャリアを積んできたとのことでした。

 Kさんは有名大学を卒業後、ネットワークベンダでITエンジニアとして勤務しながら、社内で教育にかかわる機会を見つけては、新人の教育などインストラクターの業務なども担当していました。

 スキルについては、シスコシステムズのシスコ技術者認定資格を取得していましたし、シスコのルータ/スイッチの上位機種を扱った経験や大規模なネットワークの設計・構築経験もあるうえ、プロジェクトのリーダー経験もあり、ネットワークエンジニアとしても大いに評価されるキャリアをお持ちでした。

 A社の求めるスキルの要件は十分に満たしており、教育に対する熱意や、はきはきして明るい印象のKさんは、お会いしたときにすぐ、A社から内定を得ることは可能だと感じました。

 とはいえ、ほかにもIT教育を行うことのできる企業があるので、Kさんに勧めてみたところ、もしA社が不合格になったら考える、ということで、ほかの企業は応募せず、A社一本の転職活動をスタートさせました。

 書類選考はもちろんあっという間に合格の通知があり、面接もとんとん拍子で進みました。最終選考については多少結果が出るのが遅かったものの、最終的に内定となり、Kさんは晴れて念願のA社に入社することになりました。

入社後、企業からKさんに関する相談が

 入社後しばらくして、A社の人事の方と会う機会がありお話を伺うと、Kさんについて心配事があるとのことでした。「Kさんのスキルは問題がなく、人柄も問題がない。でも、何となく熱意のようなものが感じられない」

 入社後の状況を、Kさんに確認するよう人事の方より依頼がありました。

 念願の会社に入社できたKさんなのに、と思いながらも、Kさんに状況を尋ねてみました。

 「実は、A社で働くことについて疑問を感じているのです」

 Kさんによると、想像したとおり会社の人々は素晴らしいインストラクターの方がいっぱいだった。とはいえ、会社のカルチャーは前に在職していた会社とまったく異なるうえに、仕事の厳しさ・忙しさは想像以上で、ずっと働くことは無理だと思う、とのことでした。

 いろいろ相談を伺った後、「新しい環境に慣れることができず、少し壁にぶつかっているだけかもしれないので、もう少し頑張ってみよう」という結論となり、しばらく頑張ってみることになりました。

 しかし数カ月後、やっぱり退職を決めたという連絡をKさんより受けました。

念願の会社を短期間で離職した理由は

 企業からも話を伺ってみました。それによると、最終面接の結果が遅れたのは、熱意やスキルは申し分なかったので最終的には採用を決定したが、何となく違和感を覚えたとのことでした。

 いわれてみれば、私が行ったキャリアカウンセリングにおいても、ほとんどA社の志望動機のみを聞いていたような印象だったことを思い出しました。

 A社に入りたい気持ちが強くなってしまったあまり、A社向けにキャリアを積んできただけでなく、キャリアビジョン・自分の働き方の希望まで、A社ありきで組み立て(思い込んで)しまっていたのでした。

 通常であれば、面接の場などで会社の雰囲気や仕事の実際の状況などを確認して、入社を決定することになるのですが、Kさんの場合は、A社に入りたい気持ちが先にあり、きちんと吟味(ぎんみ)することがありませんでした。

 働き始めてやっと、本来の自分の目指すところに気付いたのがKさんだったのです。

 結局、Kさんはもっとゆっくり働くことのできる企業に転職し、インストラクターとして活躍しています。

行きたい会社があるあなたこそ要注意

 もう行きたい会社が決まっているから、特に相談する必要もないからといっている方にこそ、実は注意が必要なのかもしれません。

 その会社の入社への熱意があるあまり、本来の自分の希望や目標を見失ったり、会社を吟味する眼がくもってしまうこともあるからです。

 まずはフラットな気持ちで、キャリアカウンセリングを受けることをお勧めします。本来の自分の希望や目標を話すことで、本当にあなたに合ったキャリアプランを考え、会社を選択するアドバイスを受けることができるからです。

筆者紹介

パソナキャリア

佐田浩一

銀行系SEとして上流工程における設計業務を経験後、当時のパソナ人材紹介事業部門に入社。以来、企業の担当とキャリアアドバイザーとして登録者の担当との両方の立場を経験し、IT業界から消費財・製造業界など幅広い業界の転職のサポートを行っている。



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