失敗を恐れたら前に進めないあなたの転職活動、デバッグすべし(5)

ITエンジニアの世界でも、中途採用を積極的に行う企業が増え、以前に比べて転職が容易になっている。その一方で転職した後に、「転職に失敗した」といって人材紹介会社に駆け込むITエンジニアが急増中だ。失敗しないためにできることは何か。パソナキャリアの人材コンサルタントがそんな疑問に答えよう。

» 2007年05月28日 00時00分 公開
[佐田浩一パソナキャリア]

 プロジェクトでは、さまざまなリスクを想定して行動すると思います。転職も同じです。転職をするまでも、さまざまなリスクが顕在化する可能性があります。

 しかし、失敗を気にしすぎて、本来の転職すべきタイミングを逃してしまう人もいらっしゃいます。今回は、転職をやっと決意したものの、転職をあきらめることになったMさんの例をご紹介します。

リスクを考え転職するか悩む

 Mさんは大学卒業後、小規模なソフトハウスに入社しました。大学の専攻は文系学部でしたが、ITスキルが将来重要になると考え、IT業界を中心に就職活動をし、3社から内定をもらうことができました。その中から、規模は小さいものの、いろいろ先輩から教わることもできそうな、幅広い年齢層の先輩がいる企業に入社を決めました。

 Mさんは入社後に汎用機の保守を中心に行う部署に配属されました。学生時代はITに関してほとんど接することがなかったMさんにとっては、汎用機だろうと保守だろうと新しいことばかりでした。

 しかしIT業界のことを少しずつ学んでいく中で、汎用機の保守作業のキャリアは評価があまり高くないということを知るようになったのです。

 会社の中では、上流工程に携わっているITエンジニアもいます。しかし、上流工程にかかわることのできる社員は、ほとんど自分よりもかなり年齢が高い人ばかりでした。汎用機以外の仕事ができる可能性を求めてプロジェクトの転換を希望してみましたが、思いどおりになりませんでした。

 一方で、転職をした同期の話を聞くチャンスがありました。ある同期はキャリアアップを求めて、オープン系のシステムにかかわることのできる企業に転職しました。その同期は、かなり忙しく働いているようでした。転職して年収がアップしたとはいえ、年俸制の企業だったので、時給で考えると年収はダウンしてしまった、ということでした。

 Mさんの職場ではほとんど残業はなく、残業があったとしてもきちんと残業代は付くため、就業条件を落としてまで転職する必要はないと思ったのです。これが最初にMさんが転職を考えたタイミングだったのですが、実際に行動に移すことはありませんでした。

数年後、会社の業績は悪化

 Mさんが入社後数年して、会社の業績は悪化してきました。Mさんの時代には積極的に行っていた新卒採用も、ここ2、3年は1人も入ってこなくなりました。若手が行う作業をする人がいないため、結局Mさんがその作業を行っています。

 将来は上流工程にチャレンジできると思っていましたが、会社の業績が悪くなるのと比例するかのように受注プロジェクトが少なくなったせいか、まだまだ上の社員がつかえており、上流工程にチャレンジできそうにありません。

 このままでは、将来に不安があると考えて転職を検討するようになり、人材紹介会社にも登録したのです。

あのとき転職活動を始めていれば……

 Mさんが弊社に転職相談に訪れたのは、数年前の不況期でした。現在に比べると求人数も少なく、特に汎用機系の求人はほとんどない状況でした。

 Mさんに対してキャリアカウンセリングをしていて感じたのは、おっとりしすぎている、というものでした。残業時間については、在籍している企業が平均よりかなり少ない残業時間であったため、一般的な残業時間と思われる企業をご紹介しても、躊躇(ちゅうちょ)してしまうところがありました。

 さらに問題があると思われたのが、リーダー経験・後輩を育てた経験の少なさです。Mさんがご相談に訪れたときは20代の後半。そろそろリーダー経験が評価の対象にされ、それが転職の合否にかかわるような年齢です。しかし後輩が入社してこなかったため、Mさんはリーダーといわれても仕事のイメージができないほどの状況でした。

 Mさんのスキル・志向に合う企業は見つかりませんでした。Mさんに状況をお伝えしたとき、「今後、自分の仕事・年収はあまり上昇しないかもしれませんが、たぶん雇用は保証されるはず……。ですのでいまの会社に残ります」とのことでした。

 もし、Mさんが前述した初めに転職を考えたタイミングで転職していれば、今回のタイミングが2度目の転職だとしても、年収アップの転職ができたかもしれません。

とどまるリスク、忘れていませんか?

 最近、転職をお考えの方で、勤務条件にこだわる方が増えてきたように思います。また、転職の失敗例についても、いろいろな情報が流れているようで、転職相談をするものの、結局活動しない選択をする方もいらっしゃいます。

 時々思い出すのが、不況で企業の採用活動が低下したときに転職活動をあきらめたり、会社がつぶれた後に転職相談にお越しになり、いろいろな条件を妥協して急いで入社を決めた方々のことです。不況の前には、ITバブルといわれた時期がありました。その時期に活動をしていただいていれば、キャリアアップ・年収アップ転職も可能だったのに……と、しばしば残念に思ったものです。

 現在は、会社の業績も良いので、あえて転職しなくても……と考える方も多いかもしれません。その中の一部の方は、いまの転職時期を逃さずに転職すべきなのです。会社の状況はいつ変わるか分かりません。

 将来的に不況となっても生き残れるスキル、身に付けていますか? きっと自分は大丈夫、と思っている方こそ、危ない傾向にあるかもしれません。採用状況が活発ないまだからこそ、一度キャリアチェックしてみませんか? いまこそが、キャリアを再構築できるチャンスなのかもしれません。

筆者紹介

パソナキャリア

佐田浩一

銀行系のシステムエンジニアを経験、主に上流工程における設計業務を担当、その後パソナ(現パソナキャリア)の人材紹介事業部門に入社。以来、企業担当とキャリアアドバイザーとして登録者担当との両方の立場を経験し、IT業界から消費財・製造業界など幅広い業界の転職サポートを行っている。



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