「TEDTalks」の中から、編集部の太田が「ビビビ」と感じた動画をピックアップし、不定期に紹介する企画。今回取り上げる動画は、「I listen to color」だ。
本連載では、TED(「Technology Entertainment Design」の略)が主催するカンファレンスの講演動画「TEDTalks」の中から、編集部の太田が「ビビビ」と感じた動画をピックアップし、紹介していきます。
ニール・ハービソン(Neil Harbisson)氏は、色がまったく認識できない「色覚障害」を持って生まれた。彼は色を見たことがなく、モノクロの世界で生きている。いつも空はグレーで、どの花を見てもグレー、テレビも彼の中ではまだ白黒だという。しかし、ニール氏は「色」を聴くことができる。
2003年、彼はコンピュータ科学者の アダム・モンタンドン氏とプロジェクトを立ち上げ、「電子アイ」を作った。電子アイとは、色の周波数を認識するカラーセンサー。色の周波数を認識すると、頭の後ろに装着したチップに色情報が送られ、骨伝導で色を聴くことができる仕組みだ。ニール氏は、色の名前と音をリンクさせ、「色」を「音」に変換して聴いている。彼には、好きな色ができ、色付きの夢が見れるようになった。
「色のある夢を見るようになったとき、このソフトウェアと僕の脳が1つになった気がした。夢の中では、デバイスではなく、僕の脳が電子音を作り出しているのだから……」彼は言う。デバイスがニール氏に溶け込み、カラダの一部になった瞬間だ。そして、このデバイスは、正式に「ニール氏のカラダの一部」として認められた。次の写真を見てほしい。これは、2004年に撮影された彼のパスポートである。
イギリスでは、電子機器と一緒に写った写真をパスポート写真に使うことは許されていない。しかし、例外的に認められた写真が、これだ。「これは僕の体の一部であり、僕の脳の延長なのです」。ニール氏は、旅券局に粘り強く説明した。
「色を聴く」ようになって、彼の人生は劇的に変わった。美術館へ行けば、ピカソの絵を、まるでコンサートホールにいるかのように聴くことができる。スーパーマーケットの中を歩けば、クラブの中を歩いているような感覚がある。「特に洗剤の通路は本当に素晴らしい」とニール氏はニヤリと語る。
着る服にも、変化があった。これまではデザインで服を選んでいたが、今は音の響きで服を選んでいるのだそうだ。食べものに対する考え方も変わったという。盛り付け方次第で、自分の好きな曲が食べられるという。盛り付けを工夫すれば、作曲することも可能。「例えば、オードブルにレディ・ガガのサラダを食べられるレストランはどうか? 中高生も野菜を食べるようになるかもしれない。メインディッシュに、ラフマニノフのピアノコンチェルトはどうか? デザートは、ビョークかマドンナがいい。わくわくするレストランだ。音楽を食べることができるのだから」と彼はうれしそうに話す。
現在ニール氏は、人間の視覚と同じ360色を認識できる。そればかりではなく、人間の目が認識できない赤外線と紫外線まで認識できる。さらに、「音」を聴いて「色」を感じることもできる。電話が鳴ったときには緑を感じ、モーツァルトの曲を聴けば黄色を感じるのだという。
2010年、ニール氏は「サイボーグ基金」を設立した。サイボーグ基金は、人がサイボーグになるための援助をしたり、テクノロジによる感覚の拡張を推進する団体である。ニール氏は「知識は感覚から育まれる。感覚を拡張できれば、知識を拡大することができる」と話す。
筆者は彼の話を聞いて、うらやましいとさえ感じた。毎日の生活が色と音であふれていて、とても楽しそうだ。「色は見るもの」、この思い込みが、私たちの能力や可能性を制限しているのかもしれない。
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