快適なオフィスが起業を促進するわけではないプログラマ社長のコラム「エンジニア、起業のススメ」(5)(2/2 ページ)

» 2013年11月06日 00時00分 公開
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快適なオフィスが起業を促進するわけではない

 日本では実際、その方程式を改善する多くの試みが既に行われている。国民健康保険のおかげで、日本の起業家とその家族は、米国の競合よりリスクを低く抑えられる。インターンシッププログラムや大学のインキュベーターの数も増加している。スタートアップのリスク低下という点で、非常に良い傾向だ。

 来年から施行されるエンジェル税制によって、スタートアップ投資家たちは優遇措置を受けられ潜在的報酬が増える。報酬が増えると、投資や政府による直接的なスタートアップ投資プログラムの量が増え、質も向上しやすい。このような計画は初期段階の企業評価(early stage valuation)を押し上げることが多く、投資家にとっての潜在的な報酬も事実上増えることになる。

 残念なのは、「認識を高める」「報酬を与える」「ネットワーク化する」「外国の起業家精神を分析する」といったことに焦点を当てた計画ばかりが多いことだ。これらすべてには何らかの価値があるが、いずれもリスク⇔報酬の方程式には影響を及ぼさない。ということは、インパクトがほとんど無いという結末になりがちだ。

 政府支援によるインキュベーションスペースについても同じことがいえる。一部はとびきり立派であるが、基本的な機能的が整ってさえいればそれで十分ではないだろうか。オフィスの快適さを上げたところで、リスク⇔報酬の方程式が大きく変わることはない。

 ワーキングマザーの利便性向上や、政府系機関とスタートアップ企業との取引をより簡便にする調達規定の改訂など、政府は幅広い政策を通じてさらなるリスク軽減を図っているといえる。

 企業買収を優遇する税制改革によってさらに報酬が増えることもあり得る。成功したスタートアップ会社がIPOを選択する割合は世界中でも極めて低く、大半はより規模の大きい会社に買収される。

たった1つの「やるべきこと」とは

 他の先進国と比べて日本でM&A(企業買収)が広まらない理由もたくさん耳にした。一部に真実があるものの、確実なことは1つだけ、最終的には数の問題だと言うことだ。買収側にとってより利益性が高ければ、企業買収は増えるのだ。

 起業を増やし企業買収を広めるアイデアは長年、大勢の賢い人たちによって検討し続けられてきた。彼らには確実に、優れたて多岐にわたるアイデアがあるに違いない。

 キーポイントは、リスク⇔報酬の方程式に目を向けることだ。絶え間なく湧き出てくる「日本人はクリエイティブじゃない」とか「リスクを負いたがらない」と断言する話は、一笑に付さなければならない。日本人は報酬にそれだけの価値を見いだせれば、他の国の人と同様にリスクを冒すことをいとわない。これは、何世紀にもわたる歴史が示している。

 産学官は日本でスタートアップを増加させる重要な役割を果たしている。しかし、あえて起業家たちの声を代弁しよう。政府から起業家になるための指導を受ける必要はない。物事を簡便化させる仕組みや快適な環境づくりも求めていない。そして、表彰や祝辞は率直にありがたいと思うが、それは起業へのモチベーションにはならないのだ。

 もっと多くのスタートアップベンチャーを日本で目にしたければ、やるべきは1つだけ、報酬をリスクに見合うものにすることだ。後は私たちで考え出していく。

筆者プロフィール

Tim Romero(ティム・ロメロ)

Tim Romero(ティム・ロメロ)

プログラマでありながら、もはやプログラミングをする立場ではなくなってしまったプログラマ社長。米国ワシントンDC出身、1990年代初めに来日。20年間に日本で4社を立ち上げ、サンフランシスコを拠点とする数社の新興企業にも関わってきた。現在はPaaSベンダであるEngine Yardの社長として、日本の革新的なベンチャー多数の成功をサポートしている。


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