阿部川 Rubyはもともとオープンソースの言語ですが、日本のエンジニアだけが使っていた時代とは雰囲気が打って変わり、今はどんどんコミュニティーが広がっていますよね。そこで質問なのですが、アーロンさんが今考える、「良いプログラマー」とは、どんなプログラマーでしょうか。
アーロンさん 良い質問ですね。良いプログラマーには当然、プログラムそのものを作り出し、解析し、手直しできる高いスキルが必要です。しかし、最も大切なことは、自分の持っている知識やスキルを、他のプログラマーに的確に教えられる能力だと思います。
オープンソースのコミュニティーの皆と一緒に働くことは、全世界の人々とコミュニケーションすることを意味しますから。コードをパブリッシュする、パッチを開発する、といった仕事を世界中の人々と進めるとき、自分の行動や成果物について、「なぜ」「どのように」そうしたかを他の人に説明するスキルが必要になるんです。チームとして、他の人のことを理解しながら仕事を進める――そうしたコミュニケーションのスキルはとても大切なんですが、案外見逃されているかもしれません。
阿部川 では、エンジニアがコミュニケーションスキルを身に付けるにはどうすればいいでしょうか?
アーロンさん 練習でしょうね……私にもまだよく分かりません。今心掛けているのは、同僚たちの声に積極的に耳を傾けることですね。例えば、問題が起こった場合、何がその問題の核なのかをよく聞き取った上で、自分にできるアドバイスは何か考えるようにしています。会社の同僚とだけではなく、世界中の仲間と交わりながら仕事をすることで、コミュニケーション力はどんどん鍛えられていくと思いますよ。
阿部川 以前、ギットハブの池田さんとのインタビューを掲載しましたが、Rubyのコミュニティーの人たちは、とても楽しんで仕事をしていますよね。
アーロンさん それはとても大切なことです。私はすこし楽しみ過ぎているかも知れませんが(笑)
阿部川 話は変わりますが、アーロンさんは、GitHub Satellite 2018でも日本語で司会をされたくらい、日本語が堪能ですよね。
アーロンさん ありがとうございます。私の奥さんは日本人なので、日本にはよく来ているんですよ。
阿部川 Rubyがきっかけで、日本語の勉強を始められたのは本当ですか。
アーロンさん そうです。Rubyをもっと勉強したくて記事やブログを探したら、全部日本語で……当時は日本語が全く分からなかったので、そうした記事を読みたくて勉強を始めました。現在はおそらく、コミュニケーションのレベルでは十分日本語を駆使できるようになったと思いますよ。
日本語のレッスンを受けている他に、よく妻に日本語で駄じゃれを言っています。うまく駄じゃれが通じると、妻が途端に顔をしかめて「うーん」とうなるので。私の方は「やった! 通じた」と(笑)。彼女は正しい日本語に誇りを持っているので、厳しい先生が常にいてくれるようなものです。
阿部川 日本語と英語は全く違う言語ですが、アーロンさんは日本語を10年間も学んで、日本語の「www(草生える)」を英語で解説されるまでになっていますよね。その原動力は一体何なのでしょう?
アーロンさん 何といっても楽しさですね。特に日本のデベロッパーの皆さんと話ができることは幸せです。来日した時に自分でおいしいものを買って食べられますし(笑)。実際、どんな年齢であれ、何かをやろうと思い立って、それに焦点を当てて10年ぐらい続ければ、できないことなど何もないと思います。私が良い例です。
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