「やっぱり、安くしてください」と作業着手後に発注者に言われたら、ベンダーはどうすればいいのだろうか――IT訴訟事例を例にとり、システム開発にまつわるトラブルの予防と対策法を解説する人気連載。今回は、正式契約前に作業に着手し、6カ月もただ働きをさせられたベンダーの事例を解説する。
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IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は、契約前作業着手について、再度考察する。トラブルの原因は何だったのか、ベンダーは事前に危険を察知できたのか――?
ユーザー企業との間に契約を結ぶ前に作業着手をしたが、何らかの理由で契約締結に至らず、ベンダーに損害が発生するという事象がいまだに散見される。
大手のITベンダーでは社内ルールで契約前作業着手を禁止する企業が増え、その危険が、ある程度は認識されている。しかしスケジュールが窮迫すると、「納期を守るためには、法務部門や購買部門の交渉を待ってはいられない」と考えるユーザー企業やベンダーが少なくない。そのため、契約前作業は完全にはなくならないし、こじれて裁判にまでなってしまうケースもまだまだ存在する。
本連載でも以前取り上げた「採用通知=正式契約、ですよね?」や、IT小説「発注書もないのに、支払いはできません――人工知能泥棒」は、ユーザー企業の悪意や不注意が原因だった。
ユーザー企業の担当者が、まだ正式な契約を結べない可能性があることを知りながら、ベンダーに「契約は時間の問題」と正式発注を期待させ、契約はせず、ベンダーが先行作業に費やした費用の支払いにも応じないといったものだ。これではユーザー企業の「虚偽」といわれても仕方がない。裁判所もこうした事件は、「ユーザーの信義則違反」と断じて、費用の支払いを命じる場合が多かった。
今回は、ユーザーは契約の意思はあったが、こじれてしまった事例だ。事件の経緯を振り返りながら、反面教師的に知見を探ってみよう。
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