高知編:経営のプロが本気で取り組む地方活性化――高知で芽吹くITとコンテンツ産業ITエンジニア U&Iターンの理想と現実(55)(3/3 ページ)

» 2019年01月18日 05時00分 公開
[加山恵美@IT]
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東京は遊ぶ場所も遊び方も豊富にある。地方はその逆。

 高知県はもともと連帯感が強く、地元愛あふれる風土がある。高知県が「高知家の○○」と高知県を一つの大家族と見なしているのはあながち誇張ではない。

 石井氏は「世田谷区の住人で、世田谷や東京に高い関心を持っている人はそう多くない。東京の人は新聞の地方版をあまり読まないでしょう? しかし高知だとみんな新聞やテレビで地元のニュースをしっかりチェックしている。記者発表後、多くの人から『テレビに出てましたよね!』と言われて驚いた」と話す。

 SHIFT PLUSやオルトプラス高知で採用が順調に進む背景を、石井氏はこう話す。

 「東京だと時間がないから、有料アイテムで効率的にゲームを進めがちだが、高知だと無料枠で何時間も粘ってクリアしたという話をよく聞く。そうしたゲームに熱意ある人は東京では取り合いになるし、定着してもらうのも大変。しかし高知なら採用できて、喜んで働いてくれる。高知にゲーム会社を作って良かったと思う」

 土地代や人件費など各種コストが抑えられる良さも当然ある。コスパの良さは、スタートアップや新規事業では特に重要になると石井氏は説明する。例えば東京だと新規事業立ち上げに3000万円かかるが、地方なら1000万円ですむ。これを石井氏は、「3回挑戦できるということです」と捉え、「新しいことを試すときにコストを安く抑えられることは正義」と強調する。

 実際、SHIFT PLUSではAIを活用したサービスAICOに取り組むなど、石井氏らは高知の良さを生かして新ビジネス開拓に挑んでいる。他にもAIを活用した対話システムの研究開発を行う「Nextremer」が高知県南国市にAIラボを立ち上げたり、ネットワークサービス「CACHATTO」を提供する「e-Janネットワークス」が高知テクニカルセンターを開所したりなど、高知で新しい技術の芽が育ちつつある。今までは「地方だと新技術に取り組めない」のが定説だったが、高知はそれを覆そうとしている。

地方自治体と民間企業が“相思相愛”で地方創生を進める

 高知は、都市と村落がいいバランスで共存している。IT企業がオフィスを構えてエンジニアが働けるような市街地がある一方で、少し足を伸ばせば広々とした土地もあり、ドローンや自動運転の実験など、広い場所が必要なときに、都会よりも便利だ。また、人材不足が深刻化しつつある農林水産業の現場や過疎化が進む中山間地域など、IT技術による課題解決のためのフィールドもそろっている。

 新しい技術を試行するために「特区」を作るハードルも、地方は東京より低い。地方自治体が前向きならなおさらだ。武市氏によると、高知県はIT企業の誘致や新しい取り組みに積極的で、助成金も手厚いという。

 IT企業やエンジニアに来てほしい地方自治体は、助成金だけではなく、空き物件の紹介などIT企業誘致やUIターンに協力的なことが多い。

 ただし地方自治体だけがIT企業やエンジニアに熱烈アピールしても、それに応える企業がいなくては、地方創生は進まない。武市氏は「地方の活性化にはその地域に本気で取り組む民間企業が必要だ。うまくいかないところを見ると、旗振り役がいない」と指摘する。ビジネスを通じて地域を盛り上げる存在が不可欠だということだ。

 企業がビジネスの継続性や成長を考えたとき、人材の確保が重要な課題となる。武市氏は「人が動くと全てが動く。高知にエンジニアが安心して移住できる環境を作りたい」と話す。

 エンジニアからすれば、地方でもいい仕事があれば「移住しよう」という気になれる。企業が「いい仕事」を提供してくれるかどうかがまず大事だ。いい仕事の基準はそれぞれだが、一定の金額や満足感になるだろう。

 そうはいっても、移住となると生活が変わるため、一定のハードルがある。もしその土地にスキーやサーフィンができる場所などの魅力的な自然環境があればいい後押しになるが、生活者として大事なのは非日常ではなく日常だ。

 いったん移住しても、日常や将来に幻滅したらその土地で暮らし続けるのは難しくなる。地方移住で生活費が抑えられて可処分所得が増えたとしても、仕事が単調で、成長の機会がないとしたら、エンジニア、特に若手エンジニアには厳しい。

 移住者が土地に定着するためには、「仕事と生活の充実」や「将来の安心感」が欠かせない。その点、武市氏や石井氏らは高知で地の利を生かした新しい技術の取り組みを進め、新しいことにチャレンジしたいエンジニアを引きつけている。現地採用もしており、高知にIT人材を増やしている。徐々に好循環が生まれているところだ。

 未経験からエンジニアを目指す人も応援しており、プログラミングスクールの受講料をサポートする助成制度も2018年からスタートした。

 武市氏は高知の活性化に本気で心血を注いでおり、ビジネスも人も育てながら旗振り役として奔走している。「高知が抱える課題は少子高齢化。若い人が残らないと高齢化が進む。若い人が活躍できる場を作ることが必要だ。ビジネスで課題を解決しながら、経済活性化と若者の雇用創出に力をいれていきたい」と熱く語った。

お二人の高知への思いは、カツオのタタキのように熱い

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