Gartnerのハイプサイクルに見るデジタルガバメントサービスの今後の動向(前編)Gartner Insights Pickup(286)

デジタルガバメント技術およびプラクティスは、市民サービスの提供方法に変革をもたらし続けている。個人や企業、社会にとって、次はどんな展開になるのだろうか。

» 2023年01月13日 05時00分 公開
[Lori Perri, Gartner]

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ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 Gartnerの「Hype Cycle for Digital Government Services, 2022」(デジタルガバメントサービスのハイプサイクル:2022年)は、政府が市民サービスを提供する方法に変革をもたらし得る技術とプラクティスを特定している。これらのイノベーションは、世界の先行きが不透明で混乱が広がる中でも、俊敏かつ弾力的にサービス提供が継続できるよう支援する。

 「デジタルガバメントサービスのハイプサイクルで取り上げられている技術とプラクティスは、社会的支援が想定受益者に確実に届くようにするといった立派な目的から、社会に脅威を与えるような不正な目的まで、さまざまな目的に利用できる」と、Gartnerのディレクターアナリストのアーサー・ミコライト(Arthur Mickoleit)氏は指摘する。

 「政府機関のCIO(最高情報責任者)は、『政府は個人や企業、社会の利益のために技術を活用している』という市民の信頼を積極的に構築しなければならない」(ミコライト氏)

 政府機関のCIOは、ハイプサイクル上の技術への投資を評価し、優先順位を付け、先を見通して実行し、サービス提供の改善を後押しする必要がある。以下では、このハイプサイクルに示された技術やプラクティスを、政府がどのように利用できるかを解説する。

(出所:Gartner)

戦術的なツールとしてのテクノロジー

 ハイプサイクルの中央から右にかけての部分は、広く認知され、利用が拡大し、成熟しつつある技術やプラクティスを定義している。現在、その中にはチャットbotや仮想アシスタント、デジタルエクスペリエンスプラットフォーム、アイデンティティープルーフィング、アナリティクスと人工知能(AI)の高度なアプリケーション、プライバシー強化技術などが含まれる。インクルーシブデザインやデジタル倫理のようなイノベーションプロファイルは、技術導入の意図した結果と意図せぬ結果について、説明責任を負う必要性を浮き彫りにしている。

 ハイプサイクルの中央から右にかけての部分(「幻滅期」「啓発期」「生産性の安定期」)にプロットされた重要な技術には、次のようなものがある。

  • チャットbot
     特定の分野やタスク向けの会話型インタフェース。アプリやメッセージングプラットフォーム、ソーシャルネットワーク、またはチャットソリューションを使用して会話する。
  • 仮想アシスタント(VA:Virtual Assistants)
     これまで人間が行ってきたタスクをユーザーが処理するのをサポートする。自然言語処理や予測モデル、レコメンデーション、パーソナライゼーションを用いて、音声やテキストで人とやりとりする。
  • デジタルエクスペリエンスプラットフォーム(DXP:Digital Experience Platforms)
     統合された一貫性のある中核技術群により、コンテキストに沿ったデジタル体験を構築、管理、提供、最適化する。
  • カスタマージャーニーアナリティクス(CJA:Customer Journey Analytics)
     顧客や見込み客がさまざまなチャネルを通じて行う企業とのやりとりを、追跡、分析するプロセス。
  • 責任あるAI
     AIを導入、展開する際に、ビジネス上および倫理上、適切なさまざまな選択をする側面を指す総称。建設的で説明可能なAIの開発と運用を保証する組織の責任とプラクティスを包含している。
  • 政府における予測分析
     ミッションの成果を達成するためにデータマイニングおよびモデリング技術を使用する。組織内外のデータを活用し、公共政策の策定に役立つ情報提供、政府のプロセスの最適化、リアルタイムの意思決定の改善を実現する。
  • ドキュメント中心型のアイデンティティプルーフィング(DCIP:Document-Centric Identity Proofing)
     「ID+セルフィー」とも呼ばれる。複数の手順の組み合わせにより、取引における本人確認を目的としている。
  • デジタル倫理
     人、組織、モノの間のデジタル的なつながりや仕組みにおける、価値観や道徳原則から構成される規範。
  • インクルーシブデザイン
     人間の多様性と能力を最大限に引き出して、最も多くの人のニーズに応えるデジタル製品を構想し、開発するためのデザイン手法。

戦略的な観点から見通しを立てるために

 政府は長期的な観点から、幅広い技術トレンドを検討、評価する必要もある。ハイプサイクルは、先進的な技術やプラクティスが変革をもたらす可能性を探り、予測するための洞察をCIOに提供する。こうした技術やプラクティスには、メタバースやデジタルツイン、スーパーアプリ、アイデンティティー(ID)ウォレットの他、高度なAIアプリケーション――例えば、自然言語処理技術や処方的アナリティクス、ジェネレーティブAI、インフルエンスエンジニアリングなどが含まれる。

 CIOが視野に収め、位置付けを検討し始める必要がある技術として、次のものがある。

  • IDウォレット
     個人がさまざまなソースや目的のデジタルID関連データを保存、管理し、選択的に開示できるようにする。一般的にはモバイルアプリケーションである。
  • 市民のデジタルツイン(DToC:Digital Twin of a Citizen)
     技術によって実現され、人の状態を再現するプロキシ。国、州、地方自治体はDToCを使用して、健康や安全管理などの市民サービスを提供する。
  • スーパーアプリ
     単なるコンポジット(複合型)モバイルアプリではない。モジュール型のマイクロアプリを提供するプラットフォームとして構築されており、ユーザーはこれらのアプリを通じて、パーソナライズされたアプリ体験を得られる。
  • メタバース
     仮想的に拡張された物理的現実とデジタル化された現実の融合によって創り出される、集合的な仮想共有空間。継続的なイマーシブエクスペリエンス(没入感)を提供する。
  • 自然言語処理技術(NLT:Natural Language Technology)
     人間とシステムの直感的なコミュニケーションを実現する技術と方法、それらの内容の分析を包含している。
  • 処方的アナリティクス
     あらかじめ定義された目標を達成するために、望ましい行動方針を策定し、時には自動化された行動を取る一連の機能。
  • ジェネレーティブAI
     コンテンツやモノについてデータから学習し、それを使用して、元のデータとの類似性を保ちながら、全く新しい完全にオリジナルなアウトプットを生み出すAI技法。
  • インフルエンスエンジニアリング
     行動科学の手法を学習、応用することで、ユーザーの選択を大規模に誘導するデジタル体験要素を自動化するアルゴリズムの作成を指す。

後編に続く)

出典:What’s New in Digital Government From the 2022 Gartner Hype Cycle(Smarter With Gartner)

筆者 Lori Perri

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