Microsoftはこれまで、企業で管理されているWindowsデバイスは「毎月1回のセキュリティ更新プログラムだけを受け取ればよい」という非常にシンプルなパッチ管理ルールを適用してきました。Windows 11 バージョン22H2では2023年9月から、既にコンシューマー向けに提供しているものに近い、新しい更新オプションを用意しました。新しい更新オプションを利用しなければこれまでと変わりませんが、利用する場合は複雑さが大きく増すことになるでしょう。その複雑さが、最近のニュースにも少なからず混乱を生じさせました。
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Microsoftは2023年9月21日(米国時間、以下同)、「Copilot in Windows(プレビュー)」を含む「Microsoft Copilot」の全体像と、その他数多くの新機能のロールアウトを9月26日から開始すると発表しました。
この発表を情報源として、「“Windows 11 バージョン23H2”が9月26日にロールアウト」といったタイトルや内容の多くのニュースがIT系メディア各社から飛び出しました。
しかし、もう承知していると思いますが、これらのニュースは全くの誤報でした。Microsoftのアナウンスには、「Windows 11に対する無料の更新プログラム(free update to Windows 11)」や「Windows 11向けの最新の更新プログラム(latest update for Windows 11)」とはありますが、「機能更新プログラム(Feature Update)」とはありません。「Windows 11 バージョン23H2」はまだリリースされていませんし、その予定も2023年7月に発表された「2023年第4四半期(10月〜12月)」のままで、それ以上の詳細は明らかになっていません。
上記のMicrosoftのアナウンスにも「バージョン23H2」という表現はなく、サティア・ナデラ氏のキーノート動画でも触れられていません。アナウンスでは、以下のように説明されています。
These experiences, including Copilot in Windows and more will start to become available on Sept. 26 as part of our latest update to Windows 11, version 22H2.
(Copilot in Windowsなどを含むこれらのエクスペリエンスは、Windows 11 バージョン22H2に対する最新の更新プログラムの一部として、9月26日から利用可能になります)
150以上の大量の新機能が追加されることと、2023年第4四半期に間もなく入ること、前回のバージョン22H2が2022年9月21日にリリースされたこともあり、Windows 11 バージョン23H2と思い込んでしまったのでしょうか。その後、訂正された記事もありましたが、時既に遅く、その日になってもバージョン23H2がWindows Updateにやってこないことに混乱した人も多かったでしょう。9月のオプションの更新プログラムがリリースされたその日に、Bing ChatやCopilot in WindowsプレビューにWindows 11 バージョン23H2のリリース日を訪ねてみると、誤報のニュースに影響された答えが返ってきたのには(尋ね方にもよるかもしれませんが)、メディア記事の信頼性と生成AIの課題を考えさせられました。
同じ日に公開された、企業向けの「Bing Chat Enterprise in Copilot in Windows」のプレビュー、「Windows 365 Boot」「Windows 365 Switch」(「Windows 365 Cloud PC」のデスクトップにシームレスに接続/切り替える機能)の一般提供開始を伝える以下のMicrosoftのアナウンスでは、より具体的に説明されています。
On September 26th, Copilot in Windows will start to roll out in September 2023 optional non-security update for Windows 11, version 22H2--and will be available behind the commercial control for continuous innovation. It will later be included in Windows 11, version 23H2, the annual feature update for Window 11, which will be released in Q4 of this calendar year.
(9月26日、Copilot in Windowsは、Windows 11 バージョン22H2向けのオプションの非セキュリティ更新プログラムでロールアウトを開始します。そして、継続的なイノベーションのために商用制御に基づいて利用できるようになります。その後、今年第4四半期にリリースされるWindows 11の年次機能更新プログラムであるバージョン23H2に含まれる予定です)
“商用制御に基づいて”とは、この後説明する「制御された機能ロールアウト(Controlled Feature Rollout、CFR)」のことです(画面1、画面2)。
Microsoftは現在、Windows 11 バージョン22H2および「Windows 10 バージョン22H2」向けに、第2火曜日(米国時間)に「セキュリティ更新プログラム」を、その翌々週にセキュリティ修正を含まない「オプションの更新プログラム」をリリースしています(Windows 11 バージョン21H2向けのCリリースは2023年9月に終了)。セキュリティ更新プログラムを「Bリリース」、オプションの更新プログラムを「更新プログラムのプレビュー」や「Cリリース」と呼ぶことがあります。
オプションの更新プログラムは、文字通りオプション、プレビューの意味合いが強く、新機能や修正をいち早く導入したいユーザーが自身の選択でインストールするものです。
Windows 11 バージョン22H2からは、「Moment 1」「Moment 2」「Moment 3」として新機能が一気に追加されることがありましたが、それらはまずCリリースして先行的に提供され、翌月以降のBリリースで一般提供となります。
「Moment 3」では、新たに「制御された機能ロールアウト(CFR)」と呼ばれる機能を用いて、より長いスパンで段階的に新機能が「Windows構成の更新」によりロールアウトされるようになっています。CFRでいち早く新機能を導入するためのオプションとして、2023年5月のCリリース以降、Windows Updateに「利用可能になったらすぐに最新の更新プログラムを入手する」トグルスイッチが導入されました。このトグルスイッチがオフの場合、2023年5月にロールアウトが開始された新機能は、2023年7月のBリリースのタイミングで広く有効化され一般提供となりました。
「Windows Server Update Services(WSUS)」や「Microsoft Intune」の更新リング、「Windows Update for Business展開サービス」、機能/品質更新プログラムを受け取るまでの延期ポリシー設定(旧称、Windows Update for Businessポリシー)などで、管理されているデバイスについては、オプションの更新プログラムは各サービスの配布手段を通じて提供されることはありません。CFRをいち早く受け取る「利用可能になったらすぐに最新の更新プログラムを入手する」トグルスイッチについては、管理されているデバイスでは強制的にオフにされ、オンに切り替えることができないようになっていました(画面3)。つまり、管理されたデバイスについては、一般提供のタイミングで新機能が有効になります。
2023年9月26日にロールアウトが開始されたのは、この方法による「4回目の新機能追加」というわけです(Moment 4とも呼ばれていますが、バージョン23H2がMoment 4と予想されていたこともありました)。つまり、段階的なロールアウトが始まり、10月またはその翌月以降のBリリースで広く一般提供ということになります。ちなみに、Windows 11 バージョン23H2は、同じ日に、Windows Insider ProgramでBeta Channelを終了し、Release Preview Channel向けにリリースされました。こちらは開発中のビルドの評価版であり、9月21日に発表されたものではありません。一般の利用者が製品版と勘違いして、Windows Insider Programに参加してしまわないか心配です。
なお、「利用可能になったらすぐに最新の更新プログラムを入手する」トグルスイッチは、オプションの更新プログラム(更新プログラムのプレビュー、Cリリース)のインストールにも影響するため、更新の頻度を抑えながら新機能をいち早く導入したい場合は、新機能のロールアウトが始まった際に一時的にオンにし、その後、オフに切り替えるとよいでしょう。
Microsoftは2023年9月のCリリースから、管理されているデバイスについても、CFRを含む(または含まない)オプションの更新プログラムを受け取れるようにするため、以下のポリシーの場所に「オプションの更新プログラムを有効にする」という新しいポリシー設定を追加しました。この新しいポリシー設定は、2023年8月のCリリース以降で追加されたもので、2023年9月のCリリースからこのポリシーに応じたオプションの更新プログラムの制御が可能になりました。
このポリシーを有効にすると、管理されたデバイスに対してもオプションの更新プログラムが提供されるようになります。ポリシーで、以下の3つのいずれかのオプションを選択することで、選択したものに応じてオプションの更新プログラムを自動または手動で受け取るようにできます(画面4)。
「自動的に受信する」の2つのオプションは、管理されているデバイスの品質更新プログラムの延期設定に従って、オプションの更新プログラムを受け取ります。
例えば、WSUSではオプションの更新プログラムは同期対象外であり、明示的にインポートしない限り、WSUSを通じてオプションの更新プログラムを配布することはできません。そのため、「オプションの更新プログラムを有効にする」ポリシーを有効にした場合、WSUSではなく、Windows Updateからオプションの更新プログラムを受け取ることになるはずです。インターネットアクセスに制限があり、Windows Updateから更新プログラムを直接入手できない環境において、WSUSを導入するという方法がありますが、その場合、「オプションの更新プログラムを有効にする」ポリシーによる制御は期待通りに機能しない(オプションの更新プログラムを受け取る経路がない)可能性があることに注意してください。
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP 2008 to 2024(Cloud and Datacenter Management)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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