リーダーは「分かりやすい人」であれITエンジニアのチームリーダーシップ実践講座(3)(2/2 ページ)

» 2013年09月30日 00時00分 公開
[上村有子エディフィストラーニング]
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精神的な分かりやすさの確立

 次は、精神的な「分かりやすさ」についてです。具体的には、「思い」や「考え」の塊、つまり「信念」です。

 皆さんの信念は、意図的にアピールしないかぎり相手には届きません。思いや考えは瞬間のもので、どんどん移り変わっていきますが、信念はそう変わるものではありません。ところが、場の雰囲気に流されやすい人は、芯まであっさりと変わってしまうことがあります。チームのメンバーは、リーダーの行動を常に観察しています。

 朝と夕方で発言が矛盾すると、メンバーは疑念を抱いたり不安を感じたりするでしょう。気まぐれは、最も慎むべきリーダーの行動です。チームが進むべき方向や目標を示す立場にあるリーダーがふらふらしていては、周りが翻弄され、疲れ果ててしまいます。

 では、どうしたら筋の通った考えを貫けるのでしょうか?

 第1に、チームが進むべき方向をきちんと決める必要があります。方向が定まらないと、判断も日和見的で一貫性がなくなってしまいます。

 第2に、判断の基準となる「軸」をしっかりと確立することです。自分がよりどころとするモノサシがないと、その場の雰囲気や気分に流されやすくなります。折に触れて自分の価値観を確認し、それを基準に判断すれば、筋を通すことができます。価値観は、捉えどころのないものではありますが、「仕事において自分が大切にするもの」「仕事における自分のこだわり」と考えるとよいでしょう。例えば「時間を大切にする」「量よりも質を大切にする」「結果を残すことこそが重要」などがそれに当たります。

重要! チームが進むべき方向をきちんと決める。


重要! 判断の基準となる「軸」を確立する。


物事を「分かりやすく」進める

 今度は仕事の進め方について考えましょう。

 例えば「開発現場の環境を最適化し、作業効率を上げる」というテーマに対して、チームで改善案を考えたとします。

 共有ライブラリの使い勝手を改善する、開発用マシンのスペックを上げる、エルゴノミクス(人間工学)に配慮した椅子に買い替えるなど、いろいろな案が出されたとしましょう。これらの案に予算を付け、調達し、実際に環境を改善して効果を出すまでの過程において、リーダーに求められる「分かりやすさ」とは何でしょうか?

 それは「瞬発力」「粘り強さ」「コミットする」の3つです。

周囲から見て分かりやすい仕事の進め方 周囲から見て分かりやすい仕事の進め方

●瞬発力

 瞬発力とは、企画を行動に移す着手の速さです。

 新しいことは目立つので、計画が動き出すとみんな興味津々でリーダーの動きに注目します。しかしリーダーがいつまでも表立った行動に出ないと、期待は次第に不信感に変わります。

 どんな状況にあってもリーダーは瞬発力を発揮して、とにかく動き始めることが重要です。メンバーが「この先どうするの?」と思う前に、リーダーが先手を打って意志を示すことが、「分かりやすさ」につながります。

 メンバーが躊躇(ちゅうちょ)しているときに、最初の一歩を踏み出すのはリーダーの役割です。どうせ踏み出すのなら、そろそろと頼りなさげに踏み出すのではなく、勢いよく(すぐさま)踏み出すと、メンバーにも弾みがつきます。

●粘り強さ

 結果が出るまでに時間が掛かる場合、粘り強さが求められます。粘り強さを発揮して仕事を推し進める姿勢も、リーダーには欠かせません。

 メンバーがくじけそうになっているときに、リーダーが口先だけでハッパをかけたり、励ましたりしても説得力はありません。リーダー自らが物事に粘る、こだわる姿勢を見せると、メンバーもリーダーの意をくんでくれるようになります。

 どんな状況にあってもリーダーは瞬発力を発揮して、とにかく動き始めることが重要です。メンバーが「この先どうするの?」と思う前に、リーダーが先手を打って意志を示すことが、「分かりやすさ」につながります。

●コミットする

 最終段階では終わりの区切りを付けること、すなわち、確定すること(コミットすること)が求められます。

 ある仕事が成功に終わったという「けじめ」がはっきりすれば、達成感が得られます。よかったところはチーム内で承認し強みとしてますます伸ばしていく、悪かったところはチーム内で反省し次回に生かすというように、フィードバックをすれば成長の糧になります。

 チームとはそもそも目的を持つ人の集まりなので、その目的に対して結果を明らかにするのはチームリーダーの責任です。「分かりやすく」仕事の終結を示す、すなわち、コミットすることもリーダーの「分かりやすさ」を示すものです。

 立ち上げ時期の瞬発力も、中盤戦の粘り強さも、終盤戦のコミットも、身に付けるための具体的な方法やテクニックはありません。これはスキルではなく、仕事への姿勢、すなわち意志です。リーダーが「自分たちの仕事だ」という意識を周囲に示し、メンバーそれぞれに当事者意識を伝染させてください。

筆者プロフィール

上村有子

上村有子

エディフィストラーニング インストラクター。外資SIer、証券会社を経て2000年に野村総合研究所入社。現在、情報化戦略、コンプライアンス、ビジネスコミュニケーション領域のコース開発、講師。専門分野はBA(ビジネスアナリシス)、コミュニケーション。



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