Azure Stack HCIに含まれないもの、それはゲストOSのライセンスその知識、ホントに正しい? Windowsにまつわる都市伝説(195)

「Azure Stack HCI」は、Azureのサービスとして提供される、仮想化およびコンテナに特化したオンプレミス向けのハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)です。CPUの使用コア数に対する月額固定料金で利用できることや、「Windows Admin Center(WAC)」を使用して簡単にセットアップおよび管理できること、Azureの各種サービスとの連携が簡単なことなどが特徴ですが、お伝えしておかなければならない大事なことが幾つかあります。

» 2021年10月13日 05時00分 公開
[山市良テクニカルライター]

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「Windowsにまつわる都市伝説」のインデックス

Windowsにまつわる都市伝説

固定料金/物理コア/月で利用できるのは、Azure Stack HCIの仮想化基盤のみ

 「Azure Stack HCI」は、検証済みハードウェアにプリインストールされた形でMicrosoftパートナー企業のソリューションとして導入するか、「Azure Stack HCIカタログ」に掲載されているハードウェアを購入して、Azure Stack HCIをインストールする方法で導入できます。

 どちらの場合も、Windows Admin Centerを使用して「Azure Stack HCIクラスター」を構築し(画面1)、Microsoft Azureに登録することで(画面2)、サービス(Azure Stack HCIのクラスター環境)をサーバのCPUの物理コア数に基づいた月額固定料金で制限なく利用できるようになります(60日間の無料評価期間あり)。Azureの各種サービス(Azure Site Recovery、Azure Backup、Azure Update Management、Azure Monitor、Azure Arcなど)との連携も容易ですが、それには各サービスの利用料金が発生する場合があります。

画面1 画面1 Windows Admin Centerを使用すると、クラスターの作成から「記憶域スペースダイレクト(S2D)」までを含め、Azure Stack HCIクラスターを簡単にセットアップできる
画面2 画面2 Azure Stack HCIクラスターの利用にはAzureへの登録が必要。少なくとも30日に1回はAzureと同期される必要があり、同期されない場合、機能制限モードになる

 以下の記事でAzure Stack HCIの無料評価版を紹介しましたが、幾つか大事なことについて触れるのを忘れていました。

 1つ目は、「月額料金にはハードウェアの料金が含まれていない」ということです。Microsoftパートナー企業のソリューションを利用する場合でも、独自にハードウェアを準備して構築する場合でも、当然のことながらハードウェアの購入料金が発生します。

 2つ目は、Azure Stack HCIの月額料金はAzure Stack HCIクラスターの物理コア数に対する課金であって、仮想マシンやコンテナの数は関係なく、「ゲストOSやコンテナのライセンスも含まれない」ということです。Azure Stack HCIクラスターには、WindowsやLinux仮想マシン、WindowsやLinuxコンテナをデプロイして実行できますが、Windowsや有料版のLinuxの仮想マシンを実行する場合や、Windowsコンテナを実行するためには、ライセンスが別途必要になります。

 Azure Stack HCIの価格のページには、そのことが明記されています。ただし、日本語訳が誤解を与えてしまうかもしれません。

Windowsおよび有料版Linuxでは、ゲストには別途ライセンスが付与されます。
(原文:For Windows and paid version of Linux, guests are licensed separately.)

 以下のドキュメントの最新の英語ページには、もう少し詳しい説明が追記されました。最近、日本語ページにもようやく反映されました。

Azure Stack HCIでは、従来のオンプレミスソフトウェアライセンスは必要ありません。ただし、ゲスト仮想マシン(VM)には個々のオペレーティングシステムのライセンスが必要になる場合があります。

 Azure Stack HCIではWindows Server仮想マシンのゲストOSのライセンスが不要という誤った記事を見たので、まとめてみました。なお、Azure Stack HCIの前身は、「Windows Server 2016」や「Windows Server 2019 Datacenter」をベースにしたMicrosoftパートナーのHCIソリューションでした。その場合、Windows Server Datacenterのライセンスで無制限にWindows Server仮想マシンを実行できたので、問題の記事はその当時の情報を引きずっていたのかもしれません。

Windows Server仮想マシン用に必要なライセンスは物理サーバ用に用意する

 Azure Stack HCIには、Azure Stack HCI用に使えるゲストOSのライセンスというものは用意されていません。オンプレミスに通常のWindows Serverを導入する場合と同じ考え方でライセンスを用意する必要があります。

 つまり、物理サーバの物理コア数に応じて必要なライセンスを購入します(1サーバ当たり最小でも16コアが必要)。Windows Server仮想マシン用にWindows Server用のライセンスを購入する方法は用意されていません。必ず、物理サーバの物理コア数に基づいて、物理サーバにライセンスされるコアライセンスを購入する必要があります。物理サーバ用にライセンスを購入したとしても、その物理サーバにインストールして実行するのはAzure Stack HCI OSになります。

 この物理サーバのライセンスで、Windows Server Datacenterの場合は無制限のWindows Serverの仮想マシンとWindowsコンテナ(通常、Azure Stack HCIではコンテナを後述するAzure Kubernetes Service《AKS》で実行することになります)を実行できます。

 Windows Server Standardの場合は、2台までの仮想マシンまたはWindowsコンテナを実行できます。Windows Server Standardの物理サーバに必要なコアライセンスのセットを追加するごとに、2台ずつ実行可能なインスタンスを増やすことは可能です。

 Windows Server仮想マシンが少数の場合は、Windows Server Standardのライセンスで準備できるかもしれませんが、仮想マシンごとにライセンス認証を行う必要があります。一方、Windows Server Datacenterのライセンスを購入した場合は、Azure Stack HCIクラスターの各サーバで「仮想マシン自動ライセンス認証(Automatic Virtual Machine Activation、AVMA)」をセットアップして、Windows Server仮想マシンのライセンス認証を完全に自動化することができます。

 Windows Serverの場合、Windows Server仮想マシンのサービス(ファイルサービスなど)にクライアントからアクセスするには、クライアントのユーザーまたはデバイスごとの「Windows Serverクライアントアクセスライセンス(CAL)」が必要です。また、WindowsのVDI(仮想デスクトップインフラストラクチャ)を展開するには、リモートデスクトップサービス(RDS CAL)やWindows Enterpriseなどのライセンスが必要です(「入れ子になった仮想化」を利用して仮想マシンだけでVDI環境を構築することを想定)。

 別の言い方をすると、無料のLinuxディストリビューションの仮想マシンやLinuxコンテナをAzure Stack HCIクラスター上で実行する場合(Linuxコンテナもまた、後述するAKSで実行することになります)、追加のWindows Serverライセンスは必要ありません。Azure Stack HCIの月額料金だけ(AKSの月額料金も別に発生)で利用できることになります。

AKS on Azure Stack HCIに必要なライセンス

 Microsoftは2021年5月から「Azure Kubernetes Service(AKS)on Azure Stack HCI」を正式提供し、6月1日から通常料金での課金を開始しました。

 AKS on Azure Stack HCIは、Azureの「Azure Kubernetes Service(AKS)」と共通のKubernetesクラスター環境をマネージドサービスとして提供するもので、Windows Admin Centerを使用してAzure Stack HCIクラスター、またはWindows Server 2019クラスター上に簡単に導入できます(画面3)。

画面3 画面3 ASK on Azure Stack HCIは、定義済みの仮想マシンとして導入されるAKSと共通技術に基づいたKubernetesクラスター環境

 AKS on Azure Stack HCIは、AKSの環境をLinuxおよびWindowsの構成済み仮想マシンイメージとして提供することで、導入と管理の簡素化を実現しています。もう少し詳しく言うと、Linux仮想マシンのコントロールプレーンとWindows Server仮想マシンおよび/またはLinux仮想マシンのワーカーノード(コンテナホスト)がAzure Stack HCIクラスター上に展開され、Kubernetesクラスターとして動作します。Windows Server仮想マシンのワーカーノードはWindowsコンテナ用、Linux仮想マシンのワーカーノードはLinuxコンテナをホストできます。

 AKS on Azure Stack HCIは、Azure Stack HCIの月額料金に加え、AKS on Azure Stack HCIに対する課金が発生します。価格の計算方法は少し複雑ですが、ワーカーノード数、Linux/Windowsワーカーノードのコア数、ハイパースレッディングの有無に応じて月額料金が決まります。

 重要な点は、Windowsワーカーノード用の仮想マシンと、Windowsワーカーノードで実行するWindowsコンテナの料金が含まれない点です。WindowsワーカーノードとWindowsコンテナがごく少数の場合は、Windows Server Standardライセンスでカバーできる(Azure Stack HCIのサーバをカバーするコアライセンスで、1つのワーカーノードと1つのWindowsコンテナを実行可能)かもしれませんが、WindowsワーカーノードとWindowsコンテナの数が増えると、すぐにWindows Server Datacenterがコスト的に有利になるはずです。

Azure Stack HCI 21H2パブリックプレビューについて

 Microsoftは2021年後半にAzure Stack HCIの次期バージョン「21H2」をリリースする予定です。現行バージョンの「20H2」はWindows Server 2019をベースに構築されたものですが、次期バージョンは「Windows Server 2022」ベースになる予定で、AzureポータルからのAzure Stack HCIクラスターの監視、Network ATCによるホストネットワークの単純化、クラスター化された仮想マシンでのGPUのサポート、仮想ストレージのシンプロビジョニングのサポート(現在は固定プロビジョニングのみ)、動的なプロセッサ互換性モード、ストレージの修復速度の調整、AMDプロセッサでの入れ子構造の仮想化(現状のHyper-VではIntelプロセッサのみ対応)、カーネルのソフトリブート(ハードウェアの初期化を伴わない高速な再起動)といった新機能が提供される予定です。

 Azure Stack HCIは定期的に新バージョンが機能更新プログラムとして提供され、Azureに登録されているAzure Stack HCIクラスターは、クラスター対応更新を使用して、クラスター上でホストされている仮想マシンを停止することなく、クラスターの各サーバを新バージョンにアップグレードすることができるようです。

 最後に、Windows Server上でのWindowsコンテナのサポートに関する重要な発表がありました。Windows Server 2016からはコンテナランタイム環境として「Docker Enterprise Edition」(現在はMirantis Container Runtime)の使用権が付属し、Microsoftを窓口としたDockerのサポートが提供されてきました。

 MicrosoftとMirantisは2021年9月、1年後の2022年9月に「Mirantis Container Runtime」のサポートをMirantisに移行することを発表しました。2021年9月以降も引き続きサポート付きでMirantis Container Runtimeを使用するには、Mirantisの有償サポートを購入する必要があります(サポート無しの場合、1〜9ノードまでは無料)。

 Microsoftはそれ以降、Windowsコンテナのサポートを、AKSとAKS on Azure Stack HCI/Windows Server(これらのAKSはランタイムに依存しないオープンソースソフトウェア《OSS》のcontainerdを使用)に対してのみ提供することになります。

 Windowsコンテナを実行する方法は幾つかありますが(その中の1つがMirantis Container Runtime)、運用環境でWindowsコンテナを実行するには、今後、AKSやAKS on Azure Stack HCI/Windows Serverでの実行が不可欠になるようです。

最新情報(2021年12月16日追記)

 2021年12月15日(米国時間)、Azure Stack HCI向けにWindows Serverのゲストライセンス(Windows Server 2022:Azure Editionを含む)をAzureサブスクリプションから購入するオプションがパブリックプレビューとして開始されました。

 また、この記事中のAzure Stack HCI 21H2パブリックプレビューは、2021年10月19日にGAとなり一般提供が開始されています。詳しくは、「Windows Server 2022ベースの「Azure Stack HCIバージョン21H2」が正式リリース 何ができる? 新機能は?」を参照してください。


筆者紹介

山市 良(やまいち りょう)

岩手県花巻市在住。Microsoft MVP 2009 to 2022(Cloud and Datacenter Management)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。


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