阿部川 高校卒業後は医者を目指していたそうですね。
ティダーさん ミャンマーでは医者という職業は、誰から見ても憧れの存在です。私は子どもが好きなので、産婦人科のお医者さまになりたかったのです。
この方も「ミャンマーで成功者といえば医者かエンジニアの2択」と言っていましたね。
阿部川 産婦人科の先生になるのが夢だったけれどもかなわなかった。それは、成績順で大学が決められてしまうからですか。
ティダーさん はい、そうです。9点足りなくて……。
阿部川 たったの9点……。9点ぐらいいいじゃないかって思いますけどね。
ティダーさん でも全国的に考えると、その9点の間に何万人いることもありますからね。
阿部川 確かにそうですね。それで、ヤンゴン外国語大学に進むことになりました。この大学を選んだ理由は何でしょうか。
ティダーさん 幾つかあります。医科大学以外であれば大体どこでも行ける成績だったので選択肢はありました。その中でもヤンゴン外国語大学を選んだのは、1つ目に「女性が多い大学であり、入学することも難しいから」です。
2つ目は「母国語以外の外国語を話せるようになりたかったから」です。子どものころから、外国語を話せる人はかっこいいと思っていたんです。大学じゃなくても勉強はできるのですが、大学では言語だけではなく、歴史なども学べます。他にもいろいろ……例えば「留学制度があって費用の補助があること」「海外からの留学生が多いのでネイティブと話せる」などです。
阿部川 なるほど。さまざまな理由が重なっていたというのですね。ただ単に言語を学ぶというよりも、文化だとか、外国に行く機会だとか。大学に入るっていうのは、そういうことですよね。
阿部川 そこで専攻されたのが日本語ですね。日本人としてはうれしい半面、なぜだろうと不思議なのですが。
ティダーさん 確かに大学で1番の人気言語は英語なのでどちらかといえば珍しいかもしれません。ただミャンマーは、高校の2年から、教科書が英語なので、ペラペラじゃなくても、ちょっとぐらいならしゃべれる、読み書きはできるという人が多くいます。
だからこそ私は、他の人がやらないのをやろうと思いました。日本語と中国語、どちらにするかちょっと悩んだのですが、ミャンマーで日本のアニメなどがはやり始めたころでしたし、日本から企業がたくさん進出してきた時期でもありました。あと、日本語の発音がかわいいなって思って、日本語を選びました。
私の話で恐縮ですが、このお話を聞いて大学で「皆がやっていないから」という理由で第2外国語に中国語を選んだことを思い出しました。「他の人と違うことをする」というとちょっとハードルが高い印象ですが、自分の経験を振り返ると、一歩踏み出すのは意外と簡単かもしれませんね。
編集中村 日本語がかわいいなんて思ったこともなかったのですが、ティダーさんがかわいいと思う日本語を何か挙げてもらえますか。
ティダーさん ええー! そう言われると……基本的に何でもかわいいと思うんですね。例えば日本の女性が、「わたし」(私)じゃなくて、「あたし」というところとかかわいいなって思います。
阿部川 他の人がやらないし、アニメもはやっているし、音がかわいいし、ということですね。日本語を学んで良かったですか。
ティダーさん 学び始めたころは、日本に来て就職するとか全然考えてもいなかったのです。来日当初も、ちょっとやって帰ろうかっていう感じで来たんですけれど、来てみたら、女性1人でも安全に仕事ができるし、生活も安全なので、日本語にして、日本に来てよかったって、今すごく思っています。
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