皆さんこんにちは、川口です。先日知人と会ったときに、バブル絶頂期のファッションに身を包んでいた知人の20年前の写真が出てきました。「いまでもたまにこういうバブルの名残のある人っているよね」と話題になり、大盛り上がりでした。
そしてファッションと同様、セキュリティの動向にも時代の波があります。セキュリティの考え方が時代に取り残されていると無駄なコストを払うことになります。私がたまに見掛ける時代遅れな考え方とは、「ポートスキャンは攻撃の予兆であり、ポートスキャンをされたことを見つけたら、これに対処するべきである」というものです。私は「セキュリティを専門にする人以外は、インターネットから行われるポートスキャンを見つけることはほとんどセキュリティの役に立たない、ましてや予兆として対処することも非常に難しい」と考えています。
【注】
ここではポートスキャンを特定のホストやサービスが稼働しているために攻撃者が行う調査行為のことを指します。
ポートスキャンの対策を考えるには、攻撃者がどのような流れでポートスキャンを実行するのかを理解する必要があります。
多くの書籍やホームページで、このような流れで攻撃が行われると解説しています。そのため、攻撃の予兆としてポートスキャンが実行されたのを見つけたいと考える原因になっているのではと考えています。しかし、ポートスキャンを予兆としてとらえ、対処するのは困難だと私は考えています。
私が「ポートスキャンを攻撃の予兆として対処することが難しい」と考える理由は以下の3つの点です。
まず、ポートスキャンであると判断する基準は大変難しいという事実について解説しましょう。IDS/IPSでは単位時間当たりの通信数のしきい値を設けており、そのしきい値を上回った場合にアラートを出力します。このしきい値の設定によっては、正常な通信でもアラートが出力されてしまいます。システムに対するすべての通信をポートスキャンと定義すると過剰にアラートが出力され、c.の問題につながります。逆にしきい値を高く設定してしまうことで、そのしきい値以下のポートスキャン行為を発見できなくなります。
それでも2003年以前はポートスキャンを予兆として対処することも可能だったかもしれません。私の体感としては2003年のBlasterワーム登場以降、ポートスキャンの数が増加しており、予兆として対処できる数ではなくなっています。
現在ではインターネットからのポートスキャン行為は日常的に行われているため、インターネットから自組織に対して行われるポートスキャン行為は無視してもよいでしょう。ファイアウォール/IDS/IPSのチューニングを行う際には、インターネットからのポートスキャンをフィルタすることで、ログの件数を大幅に削減できます。その結果、ログ管理コストを下げることができます。
しかし、すべてのポートスキャン行為を無視していいわけではありません。社内LAN(イントラネット)から行われるポートスキャンには要注意です。攻撃者によって侵入されている場合やボットなどに感染している可能性があるからです。
攻撃者やボットは社内LAN内でさらに侵入や感染を広げる場合に、脆弱性を持ったPCを探します。この脆弱性を持ったPCを探すために、特定のポートに対してポートスキャンを実行します。Windows PCを攻撃する場合には、ファイル共有などで利用される139/tcpや445/tcpに対して、ポートスキャンが実行されています。
セキュリティアナリストがお客さまのネットワークで不審なポートスキャンを発見し、連絡したところ、送信元のPCがボットに感染していた事例は多数あります。そのため、われわれは社内LANからのポートスキャン行為には常に目を光らせています。
しかし、以下のような事象は日常的に発生する可能性が高く、慌てずに確認する必要があります。
これらのような事象を把握することもセキュリティアナリストにとって重要な勉強です。
そんな中でセキュリティアナリストを悩ませるのはマイナーなアプリケーションの存在です。普段利用しないアプリケーションの脆弱性を狙ったポートスキャンが行われる場合には出勤しているセキュリティアナリスト全員で会議という名の議論が巻き起こります。
「○○○のアプリケーションの脆弱性があるという情報が出ています」
「そのアプリケーションは聞いたことがない」
「そのアプリケーションって何?」
「公式サイトはどこ?」
「そのアプリケーションはどこで手に入る?」
「どうやって攻撃するんだ?」
「誰か攻撃ツール試した?」
「どこのポートに攻撃が行われるのか?」
「あ、先日のポートスキャンは実はこの脆弱性を狙ったものかもしれない」
……などなど。脆弱性情報が公開される前に、その脆弱性を悪用する攻撃が行われている場合もあり、脆弱性公開後にポートスキャンの狙いが分かることもあります。
余談ですが、私の印象に残っているのはDameWareというリモート管理用アプリケーションの脆弱性です。脆弱性に関する情報が出て、初めてこのアプリケーションの存在を知りました。使ったことがあるセキュリティアナリストが誰もいなかったため、公式サイトの情報を探し、アプリケーションをインストールして調査したときの苦労を覚えています。このアプリケーションは6129/tcpで稼働するらしく、脆弱性情報が公開された後から6129/tcpのポートスキャンが増えました。幸いだったのは日本ではマイナーなアプリケーションだったので、日本のわれわれのお客さまが被害を受ける確率は低いことでした。
ポートスキャン行為は攻撃や感染の前兆であることには間違いありません。特に社内LANから行われるポートスキャンには注意しましょう。
われわれセキュリティアナリストはどのような通信が不正で、どのような通信が正常かを判断するため、セキュリティ以外の情報も収集しています。私は今日も情報収集のため、社内のメンバーと飲みに行くのでした。
川口 洋(かわぐち ひろし)
株式会社ラック
JSOCチーフエバンジェリスト兼セキュリティアナリスト
ラック入社後、IDSやファイアウォールなどの運用・管理業務を経て、セキュリティアナリストとして、JSOC監視サービスに従事し、日々セキュリティインシデントに対応。
アナリストリーダとして、セキュリティイベントの分析とともに、IDS/IPSに適用するJSOCオリジナルシグネチャ(JSIG)の作成、チューニングを実施し、監視サービスの技術面のコントロールを行う。
現在、JSOCチーフエバンジェリスト兼セキュリティアナリストとして、JSOC全体の技術面をコントロールし、監視報告会、セミナー講師など対外的な活動も行う。
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