この記事を書いたのが、普段はテクノロジ分野をカバーすることも多いブラッド・ストーン(Brad Stone。秋には、米アマゾンとジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)を主題にした『The Everything Store: Jeff Bezos and the Age of Amazon』/邦題;『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』も出版していた)であるせいか、コストコの比較対象として、同じ小売業であるウォルマートだけでなく、通販型のアマゾンも挙げられている。競合2社ではいずれも、待遇改善を求める従業員のストライキがしょっちゅう生じているけれど、コストコでは30年前の創業以来、重大な労働争議は経験したことがない、といった書き方だ。
アマゾンの物流拠点における現場(非正規)従業員の待遇のひどさ――非人道的な労働環境やいつクビを切られるかも分からない雇用契約など――については、The GuardianやBBCといった媒体の取材・報道などもあり、欧米では広く知られているところだ。2013年のクリスマス前にも、Guardianでそうした潜入ルポが出ていた。
また、ドイツの物流センターでは「他の小売・通販事業者並み」の賃金支払いを求める労働者のストライキが過去に何度も発生していたが、昨年のクリスマス前には一部のスト参加者=組合メンバーがシアトルに乗り込み、米本社の前で抗議行動に出た、という話も伝えられていた。
こうした一連の騒動を見聞きするたびに、ジェフ・ベゾスとしては早くオペレーションの全面自動化(Kivaのロボットや、Amazon Airの無人機を使って)を実現したくてたまらないのだろうな、といった勝手な推測も浮かんでくる(これについては話が脱線しそうなので、また別の機会に回すことにする)。
このアマゾンの労働争議の他、サンフランシスコ―ベイエリアで走っているグーグルシャトルバス襲撃(注2)など、昨年の暮れには「テクノロジ業界の繁栄の陰で割を食った人々」に関する話題が相次いだ。
ただし、本来ならば何らかの手を打ってしかるべき行政側も、「スーパーエンジェル」として知られるロン・コンウェイ(Ron Conway)や、米フェイスブックのIPOで財をなしたショーン・パーカー(Sean Parker)らと近しい、つまり選挙の際には彼らから資金提供を受けたエド・リー(Ed Lee)という人物が市長ということで、何とも救いがない。
その他、仕事(雇用)に関連するものだけに絞っても、前述のAmazon AirやGoogleのロボット開発(アンディ・ルービンが主導)など、さらに雇用喪失を加速させそうな兆候も続けて出ていた。
またそうした中で、機械に取って代わられる人間――従来のブルーカラー就労者だけでなく、医師、弁護士、会計士といった比較的高給取りのホワイトカラーまで――の行き場はどうなるのか、といった議論もこれまで以上に活発になっている。
技術の進化や効率化を追求する流れは止められないとして、それで疎外される人間はどうなるのか……この問いにはっきりとした答えがない現状では、どうしても暗たんとした気持ちになりがちだ。
そうした中で偶然目にしたこのNYTimes記事の話には、かすかな希望のようなものが感じられた。そしてまた、ソフトウェアを書く人間、アルゴリズムを作る人間の思想(あるいは哲学)といったものの大切さにも、あらためて気付かされた次第である。
注1:この記事を書いたのは米NPR(National Public Radio、非営利のラジオ放送網)傘下の「Planet Money」というブログ&ポッドキャストを拠点に活動するジャーナリストで、NYTimes Magazineの連載コラム「It’s the Economy」にも定期的に寄稿している。寄稿する媒体の性格からも、リベラル派に分類されるジャーナリストと思われる。
注2:地価や家賃の高騰に伴い、借家からの立ち退きを迫られた人々が増える中で生じた抗議行動。その怒りの矛先が、ある種の「特権階級」と見なされているGoogleやApple従業員の通勤用シャトルバスに向けられた。
上記の背景を踏まえて、冒頭の英文を少しずつ区切りながら読み解いてみよう。
[1] For generations, technology has been a source of misery for many low-paid workers, /
[2] rendering their jobs tedious or eliminating them altogether. /
[3] Gallup recently reported that
[4] only 29 percent of North American workers feel engaged with their work. /
[5] Yet Ton suggests that /
[6] a more sophisticated use of those same technological tools could reverse those trends.
それぞれ、以下のように読み解ける。
[1] ずいぶん前から、テクノロジは多くの低賃金労働者にとって悲惨な状況をもたらす源泉となってきている。
[2] 自分たちの仕事を退屈なものに変え、あるい仕事自体を消滅させてきた(もの)
[3] Gallupが最近発表していた調査結果によると
[4] 「自分の仕事に打ち込めている」と感じる労働者は北米全体でわずか29%に過ぎない。
[5] それでも、Tonは〜と示唆している。
[6] (悲惨な状況をもたらしてきたのと)同じテクノロジのツールをもっと上手に使うことで、こうしたいくつかの流れを逆転させることも可能だと
では最後に、もう一度英文を読み直してみよう。
For generations, technology has been a source of misery for many low-paid workers, rendering their jobs tedious or eliminating them altogether. Gallup recently reported that only 29 percent of North American workers feel engaged with their work. Yet Ton suggests that a more sophisticated use of those same technological tools could reverse those trends.
1. テクノロジは長い間、何の源泉(原因)と考えられていたか?
2. 自分の仕事に打ち込めていると感じる労働者の割合は?
オンラインニュース編集者。「広く、浅く」をモットーに、シリコンバレー、ハリウッド、ニューヨーク、ワシントンなどの話題を中心に世界のニュースをチェック。「三国大洋のメモ」(ZDNet)「世界エンタメ経済学」(マイナビニュース)のコラムも連載中。
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