ホテル業界の問題を解決するために「何とかしたい」と思った。だがその前に、解決しなければならないことが久本さんにはあった。それは情報システムグループが、周囲から「信頼されていない」という問題だ。
久本さんが星野リゾートに入社したのは2002年。IT担当者はおらず、最初の数年間はITのニーズがあるとすぐにシステム化していたこともあり、社内の評価は良好だった。
一方、星野リゾートは年々大きな成長を遂げていた。すると、初期に作ったシステムに無理が生じるようになっていた。
「200人用に作ったシステムを、3000人で使っていたんです。これはさすがに無理がありました(笑)。毎日のように落ちていたので、周囲からの評価が下がり始めていました」
その状況を挽回しようと、古い技術で作られていたWebシステムを最新の技術に一新しようと、インドでのオフショア開発を試みた。だが、3年たっても成果を出せなかった。一方で、星野リゾートというブランドは、社会の多くの人が知る存在になっていた。
「会社はすごく成長しているのに、情報システムは遅れている。『成長の足かせ』って言われちゃったんですよ。悔しかったですね」
久本さんは代表の星野佳路氏に、「システムを作り直したいです。もう一度、数億円投資してもらえませんか?」と懇願した。しかし、「同じ失敗を繰り返さないためには、うまくいかなかったことを正しく振り返ることが必要だ」と指摘された。2013年のことだった。
この状況を打開しようと1年間、セミナーや勉強会などに参加し、徹底的に勉強した。情報戦略のコンサルタントにコンタクトを取り、相談に乗ってもらった。
世の中では「デジタルビジネス化」という言葉が注目を集めていた。デジタルビジネス化とは、社会がデジタル化されていく中で、これまでの組織や文化、制度、ビジネスモデルなどを「社会の変化に合わせて変革していく必要がある」――今でいうところのDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。この考え方に大きく感化された。
そこで久本さんは、星野氏へ訴えた。「われわれはこれから、デジタルビジネス化の準備をしないといけないんです」と。だが、オフショア開発に失敗した直後だったため、その言葉は届かなかった。
そこで久本さんは作戦を立てた。星野氏や事業側から来るオーダーには淡々と応えつつ、「いつか、DXの担い手になるために、組織として必要な能力を付けていこう」と、これから必要となる能力やIT戦略として、「変化前提の組織能力」と「変化を加速させるIT基盤」の2つを定義した。
「変化前提の組織能力」とは、事業の理解や概念を検討するためのモデル化、経営との一体化やクラウドが前提のシステム開発能力など。「変化を加速させるIT基盤」とは、基幹システムの内製再構築や、トレードオフを伴ったセキュリティのコンセプトづくり、全従業員IT人材化などだ。
この2つをバランス良く5年間で手に入れる計画を立て、2016年から動き始めた。内製化を進めるために、サイボウズの「kintone」など、ノーコードで業務に必要なアプリが作れる仕組みを導入したり、変化を前提にした組織やビジョンを作るために、人事や経営企画の責任者と勉強会を始めたりした。
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