なぜ、星野リゾートの「成長の足かせ」だった情報システム部は、基幹システムを再構築できたのか1年目はつらい。2年目もたぶんつらい。でも……(4/4 ページ)

» 2025年02月25日 05時00分 公開
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基幹システム再構築に至る道のり

 基盤システム再構築の意思決定が行われたのは2022年だが、準備は2016年ごろから行っていた。最初は社外のアーキテクトに全体構想を依頼しようと、コンサルタントや優秀なシステムエンジニアに相談した。だが「この人にお願いしたい」と思える人に出会えなかった。

 「関わりたいと言ってくれる人はたくさんいましたが、僕たちの課題感を正しく理解し、提案してくれる人が誰もいなかったんです」

 そこで、社内でモデリングができる人を育てようと考えた。やりたいことは、古いシステムをWebに置き換えることではない。データの持ち方や、システムの在り方自体を最初から見直すには、既存の仕組みを疑えるスキルがあり、星野リゾートの戦略に深い理解を持つ人が必要だったのだ。

 星野リゾートには、社内の異動制度がある。久本さんは実現したいことを社内に打ち出し、それに手を上げてくれた従業員にモデリングをイチから学ぶ機会を提供した。

 「1年では芽が出ませんでしたが、数年越しで研さんしていったら、何人かはモデリングができるようになりました」

 基幹システム再構築のモデリングは8年ぐらい前から行ってきた。そこに新たにモデリングを学んだメンバーが加わり、ディスカッションを重ね、数年かけて基幹システムの概念モデル作りを全て担ってくれた。

 「やりたかったことは『ホテル運営の構造を正しく捉え直すこと』です。制約が多い既存システムに合わせたオペレーションを調べても何も出てきません。「そもそも、ホテルで提供している体験は何だろう?』『プロダクトとは何だろう?』『商品って何だろう?』『体験価値って何だろう?』といった議論を、時間をかけてやってきました。大変でしたが、とても大切なことだったと思っています」

エンジニアの仕事は、エンジニアリングだけじゃない

 モデリングができたら、次は実装だ。ここでも、当初は外部のエンジニアに頼ろうと考えていた。だが、モデリングと同様、正しく実装するためには、星野リゾートの戦略や業務を熟知した人材が必要だった。

 「エンジニアは、エンジニアリングだけが仕事だと思っている人が多い。ですが、執着して作った概念モデルを、現在の一番いいやり方、最高の成果を出すためには、エンジニアも内部に必要だと思ったのです。そこで、エンジニアの採用を始めました」

 最初3人だった情報システムグループが、現在は60人ほどのチームになった。プロトタイプ的なプロジェクトで新たにジョインしたエンジニアたちも少しずつ経験を重ね、基幹システムの再構築にこぎ着けた。

 「10年前に同じことをやっても、恐らくうまくいかなかったと思います。メンバーが成長した今だからこそ、今後を見据えた会社の基盤になる基幹システムを作れるんだろうなって」

最後は覚悟。そして、ただやる

 このような取り組みを行うためには根気がいる。久本さんはなぜ、10年にもわたる取り組みを諦めずにできたのだろうか?

 「2013年に言われた『成長の足かせ』になりたくなかっただけです。ちゃんと足かせじゃない状態になるには、ビジョンだけではなく、実態として変わっていかないといけない。結果が出ないといけない。それだけだったと思っています。

 絵を描いただけでやめちゃう人が多いのは、自分で描いた絵を『いつか完成させるんだ』という覚悟がないんじゃないでしょうか。能力を付けて、これを全部作ることが自分の役割だって思いさえすれば、いつか、うまくいく。

 『今回はこういう理由でうまくいかなかったから次こそやる』『今回は、ここまでしかスキルが付かなかったけれど、まあ次頑張ればいいか』みたいに捉えてずっとやってきたら、いつの間にかそれなりにパフォーマンスや成果を出せる組織になれていた、という感じです。全部の活動は必ずつながっています。

 組織を巻き込んだ変革は5、6年かかります。仮に1つの活動がうまくいかなかったとしても、『今、これがうまくいかなかっただけ』。そこから、うまくいかなかった理由を正しく学習して次につなげればいい。

 1年目はね、つらいんですよ。2年目も多分つらいと思う。ですが、3年目ぐらいで、少しずつうまくいき始めるという感触があります。

 以前なら5、6年かかった変革も、いまは、変化に合わせて対応してきた会社たちのいろいろな事例があります。これらを自社に合わせていいとこ取りすれば、3、4年に短縮できるんじゃないかと思います。なので、世の中に対して言いたいことがあるとすれば、『ちゃんと考えて、3年頑張ればうまくいくよ!』ってことですね」

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筆者プロフィール

竹内義晴

しごとのみらい理事長 竹内義晴

「楽しくはたらく人・チームを増やす」が活動のテーマ。「ストレスをかけるマネジメント」により心が折れかかった経験から、「コミュニケーションの質と量」の重要性を痛感。自身の経験に基づいた組織作りやコミュニケーションの企業研修、講演に従事している。

2017年よりサイボウズにて複業開始。ブランディングやマーケティングに携わる。複業、2拠点ワーク、テレワークなど、これからの仕事の在り方や働き方を実践している。また、地域をまたいだ多様な働き方の経験から、ワーケーションをはじめ、地域活性化の事業開発にも携わる。

元は技術肌のプログラマー。ギスギスした人間関係の職場でストレスを抱え、心身共に疲弊。そのような中、管理職を任され「楽しく仕事ができるチームを創りたい!」と、コミュニケーション心理学やコーチングを学ぶ。ITと人の心理に詳しいという異色の経歴を持つ。

著書に、『Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント(翔泳社)』などがある。

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