なぜ、エンジニアにも「マーケット感覚」が必要なのか:経済評論家・山崎元の「エンジニアの生きる道」(18)(2/2 ページ)
エンジニアがエンジニアとして生き残るためには、ビジネス的な観点が必要だ。ビジネスのプロである経済評論家の山崎元さんがエンジニアに必要な考え方をアドバイスする本連載。今回は株式のファンドマネジャーを例にとり、技術や知識の優劣が仕事の優劣に直結するわけではないことを解説する。
大人の常識を携えよう
では、ファンドマネジャーが本当に「他人よりも上手にもうけられる」なら、何が起こるのだろう。
彼らが合理的な頭脳の持ち主であれば、他人のお金ではなく、自分のお金を運用するはずだ、と容易に理解できよう。「それでもうかるなら、この人はどうして自分でもうけないのだろう?」という問いは、銀行員、証券マン、保険セールス、FP(ファイナンシャル・プランナー)といった「お金のプロ」と接するときに、常に頭に入れておくべき「大人の常識」だ。
仮にある投資家が、本当に他人と差の付くような優れた能力を持っているなら、世界の富の何割かを持つような大金持ちになっても不思議ではない。しかし、米国のウォーレン・バフェット氏のような有名投資家でも、投資で得た資産はたかだか数兆円にすぎない。
株価は「企業が将来稼ぐと予想される利益」を「現在の価値」に割り引いて評価される。であるなら、「新たに予想される利益」を他の市場参加者よりも正確に予想できると、より高い運用成績を上げられるはずだ。
しかし、株式市場には自分の大切なお金を賭けた参加者が多数いて株価形成に参加している。そのため、少々情報収集に熱心だったり、経験が豊富だったりする程度では有利な差を付けることなどできないのが現実なのだ。プロが熱心に仕事をしても、勝ったり、負けたり、なのだ。
それでは、他人よりも優れた投資成果を得られるわけでもないのに、ファンドマネジャーがまずまず高額の報酬を得ているのはなぜだろうか。
これは、学問的な研究対象にもなっている難問だ。端的に言うと、顧客の側に「プロならうまくやってくれるのではないか」という「期待」と、「プロに頼れば何とかしてくれるだろう」という「依頼心」があるからだ。ビジネスモデルとしては、宗教や占いのような精神的サービス業と極めて近いといえよう。
株式市場も、外国為替市場もそうだが、「マーケットは、知識や技術が勝っていれば勝てるという単純な場所ではない」ということを、論理に厳密なエンジニアにこそ納得してほしい。
「努力によって勝てるわけではない世界」があることを理解した上で、さまざまなビジネスを見渡すと、別の次元の新たな可能性が生まれてくる。考えることが好きなエンジニア読者には、経済活動に参加する一員として、ぜひこのゲームに挑んでマーケットの性質を理解していただきたい。
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筆者プロフィール
山崎 元
経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
58年北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、山一證券、UFJ総研など12社を経て、現在、楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表取締役、獨協大学経済学部特任教授。
2014年4月より、株式会社VSNのエンジニア採用Webサイトで『経済評論家・山崎元の「エンジニアの生きる道」』を連載中。
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