あなたは、いいよね――人の能力をうらやましく思ったらすべきこと:田中淳子の“言葉のチカラ”(24)(2/2 ページ)
あなたは、帰国子女でもないのに英語が堪能な人を見てうらやましく思った経験はないだろうか。技術力が高くて知識も豊富なエンジニアをねたましく思ったことはないだろうか――人材育成歴30年の田中淳子さんが、職業人生の節目節目で先輩たちから頂いてきた言葉たちを紹介する本連載。今回は、自分よりも能力がある人をうらやましく思ったときに取るべき行動を一緒に考える。
「あなたは、いいよね」と言われたら
人は、自分にできないことをできる相手に対して、その努力過程を完全に無視して「あなたは、いいよね」という言い方をしてしまいがちである。
私もたまに「淳子さんはさくさく長文を書けていいよね。私はそんなに簡単にできないよ」と言われることがあるのだが、実は小さくかちんと来ている(笑)。
私だって最初からこの記事のような分量の文章を書けたわけではない。編集者に叱られたり、うんとダメ出しされたりして、心が折れそうになったことは何度もあった。それでもダメ出しに食らいつき、たくさん書き直し、編集者のフィードバックからポイントを理解し、だんだんとコツをつかみ……そうやって10年以上、雑誌やWebサイトで文章を書き続けてきたから、ある程度の長さなら抵抗なく短時間で書けるようになったのだ。
努力なしに成し得ないことを、「あなたは、いいよね」とひと言で片付けられることに、言われた側は強い違和感を覚えるのだろう。
こういう話はあちこちである。
ある時、新人エンジニアがベテランエンジニアに「先輩はいいですよね。幅広く技術知識を持っているし、スキルも高いし」と言ったところ、ベテランに「あのね、僕はうんと努力しているんだ。黙っていてこうなったわけじゃないし、今でも努力し続けているんだ」と言い返されたらしい。
新人エンジニアは、「そうか。どんなにスゴイ人でも、現在の状態には努力なしには到達しえなかったわけで、それを簡単に『いいですよね』などというのは失礼なのだな」と反省したそうだ。
誰だってある日突然、何かが得意になったり上手になったりするわけではない。挑戦と努力のたまものであることを忘れてはいけない。
もし、「あなたはいいわよね」と言われたら、「だって努力しているもん」と笑顔で返してみてはどうだろう。
「あなたは、いいよね」と思ったら
では、「あなたは、いいよね」と誰かに思ってしまったときは、どうすればいいのだろうか。
そういうときは、うらやましがる代わりに、その人がどういう努力をしたのかを尋ねてみたらどうだろう? 英語がペラペラな人は、10年間欠かさずラジオ講座を聞いているのかもしれない。技術力が高い人は、毎朝海外のサイトで最新情報を入手することを自らに課しているのかもしれない。
千里の道も一歩から。どんな一歩を積み重ねたかを聞き、自らの糧にする方が、「あなたは、いいよね」と片付けてしまうより、自分の能力向上に役立つはずだ。
こんな話をすると、「いやいや、私はそういう地道な努力が苦手なんです。あなたは、努力ができていいですね」と言い返す人がいる。いやはや、いやはや。
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筆者プロフィール 田中淳子
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー
1986年 上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで、延べ3万人以上の人材育成に携わり28年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。
日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。著書:「ITマネジャーのための現場で実践! 若手を育てる47のテクニック」(日経BP社)「速効!SEのためのコミュニケーション実践塾」(日経BP社)など多数。電子書籍「『「上司はツラいよ』なんて言わせない」(ITmediaのebook)、「田中淳子の人間関係に効く“サプリ”――職場で役立つ30のコミュニケーション術」(ITmediaのebook)
ブログ:田中淳子の“大人の学び”支援隊!
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