「できない理由」にとらわれたら田中淳子の“言葉のチカラ”(6)

「なぜ、できないのか分かる? それはね、『できない理由』ばかり考えているからだよ」「できない理由?」「そう。できない理由はいくらでも思いつく。だからできない、と結論付けることもできるんだ」

» 2014年05月12日 18時00分 公開
[田中淳子,@IT]
田中淳子の“言葉のチカラ”
「田中淳子の“言葉のチカラ”」

連載目次

ダイエットが失敗する理由

 「するべきこと」や「した方が良いこと」があるとき、それが「したいこと」かつ「できること」だったら、着手するのは難しくない。むしろ、早くやってみたいとワクワクするかもしれない。

 だがそれが「したいこと」ではなかったり、「できること」とは思えなかったりすると、途端に動きが鈍くなる。意識しないうちに「できない理由」を考え始めてしまうこともある。

 「仕事なんだから何でもやるのが当たり前、『するべきだ』『した方が良い』と思えば、私はどんなことでも動きますよ!」という方は素晴らしいと思う。でも、そこまで強い意志を持ち、困難に立ち向かってでも成し遂げることは、なかなかできないものだ。

 身近な例で考えてみたい。

 あなたがダイエットしたいと希望しているとする。単純に考えれば、摂取カロリーを減らすか消費カロリーを増やすか、その両方を試みればよいわけだが、どちらもそれなりにメンドクサイ。食べたい物はたくさんあるし、夜のお酒はおいしいし、運動するのはキツイし、と言い訳が浮かび、実行するのは簡単なことではない。

 それでも「するべきこと」「した方が良いこと」だと考え、ほんのちょっと頑張って実践に移すくらいならできなくはない。「夜遅くの食事を減らす」「揚げ物を我慢する」といった食事上の努力や、「通勤で1駅多く歩く」「帰宅後の軽いジョギング」といった運動を生活に取り入れている人は、そこそこいるはずだ。

 問題は継続だ。「今日は宴会だからしょうがない」「今日は誕生日だからいいか」と食べる量を増やしたり、「今日は雨だから」「帰宅するのが遅くなったから」とさまざまな理由を付けて、ジョギングを休んだりしてしまう。

 そして食べ過ぎたり運動を怠ったりした結果、落ちかけていた体重が再び元に戻ってしまう。

やる気を当てにしない

 「した方が良いこと」は分かっていても、どうしても「できない理由」を考えてしまう。理由はいくらでも思いつく。

 「そういうときはね、まず行動を起こしてしまうと良いんだよ」と知人に言われたことがある。

 「できない理由」を考えることは、「しなくて済む理由」を考えることに近しい。「やる気が出ないから」「やる気さえ出れば」というのも同じだ。でも、「やる気が出ないから、やらない」と思っていたら、いつまでもやる気なんか出ないのではないだろうか。「やる気」なんて曖昧で、形のないものを当てにせず、とにかく行動してしまえというわけだ。

 ジョギングしなきゃと思いながら躊躇(ちゅうちょ)し始めたら、とにかく着替えて玄関の外に出てみる。

 野外を走り始めたら、季節の変化を感じたり、美しく咲く花に魅せられたりして、「案外いいもんだな、気持ちもいいし」と思うようになってくる。第一、家を出たらいずれは帰宅しなければならないので、途中でやめるわけにもいかない。つまり、最初は「面倒だな」と思っていても、走っているうちに「やる気」が湧き、楽しくなってくることが多い。

 「やる気が出るまで行動を起こさないのではなく、行動してから徐々にやる気を上げていくのも、一つの方法だ」と知人は教えてくれたのだ。

 もしジョギングを休んでしまったら、「今日もやらなかった」「自分は意志が弱い」などの考えが頭の片隅から終日離れなくなる、なんてこともあり得る。

 でも走ってしまえば、「一応、今日も走ったぜ!」と自己効力感も増し、そのことに気を取られることなく、次の何かに取り掛かれる。

それでも言い訳を考えてしまったら

 「そうは言うけれど、○○が邪魔で」とか「条件がそろわないから」とまだ言い訳を考えてしまうような場合は、どうしたらいいのだろうか。

 “心の師匠”に言われたことがある。「制約のある中で実現方法を考えるのが仕事ってもんだ。誰にだって制約はある。制約があったらできないのではなく、制約がある中でどうやって成し遂げるかを考えることにこそ、仕事のオモシロさもあるわけでしょう?」と。

 何かを「するべき」「した方が良い」と思っているのに、躊躇(ちゅうちょ)している自分がいたら、「できない言い訳を考えていないか」と自問自答する。「動いてしまえば、後からやる気が付いてくることもある」と自分に言い聞かせる。それでも、まだ二の足を踏んでいたら、「制約条件の中でどう実現するか、どう前進するか」を考えてみる。

 こう考えて行動に移しても、思い通りの結果が得られるとは限らない。けれども、自己嫌悪に陥ることはだいぶ減るような気がする。ほら、よく言うでしょう?

 「やらない後悔より、やった後悔の方が良い」と。

筆者プロフィール  田中淳子

 田中淳子

グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー

1986年 上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで、延べ3万人以上の人材育成に携わり28年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。

日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。著書:「ITマネジャーのための現場で実践! 若手を育てる47のテクニック」(日経BP社)「速効!SEのためのコミュニケーション実践塾」(日経BP社)など多数。誠 Biz.ID「田中淳子の人間関係に効く“サプリ”

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