ハイパーコンバージドインフラ(HCI)が、今後の企業データセンターにおけるITインフラの調達において、大きな役割を果たすようになると予測する調査会社は多い。こうした予測が生まれる背景には、エンタープライズITにおける最大のトレンドとの関係がある。
ハイパーコンバージドインフラ(HCI)は、ITインフラあるいはIT全般における最大のトレンドを象徴している。それは「ITのツール化」だ。
HCIを最も短く表現すると、「ITインフラ(サーバとストレージ)のアプライアンス化を目指すもの」だ。「アプライアンス」とはご存知の通り、特定用途に特化し、即座に使える道具や装置を指す英語。例えば「Home Appliance」といえば、家庭電化製品を意味する。「ITインフラのアプライアンス化」は、「ITインフラを家電製品のような存在に近づけること」だといっていい。
では、なぜITインフラが家電製品のようになる必要があるのか。ここで、筆者がITにおける最大のトレンドと考える「ITのツール化」が出てくる。
「デジタルトランスフォーメーション」「第3のプラットフォーム」「モード2」といった言葉が包含するものは全て同一だ。WindowsやMicrosoft OfficeからERPまで、従来もITはビジネスで広範に使われてきた。だが、ビジネスそのものとの関係はおおむね間接的なものにとどまってきた。
ITは、Microsoft Officeが「生産性向上製品」というジャンルに分類されてきたことが象徴するように、日常業務を効率化する役割を果たしてきた。一方で、企業などの組織のためのITでは、日常のビジネス活動を支える取引管理や経理システムなどが基本となり、その周辺でさまざまな自動化が進められてきた。
今後の企業ITでは、これまでの自動化を引き継ぎながらも、ビジネスプロセス、そしてビジネスモデルそのものにITが関わる場面が増えてくる。言い換えれば、より多くの企業におけるビジネスプロセスあるいはビジネスモデルに、ITが直接関わり、あるいは組み込まれていく。これが「デジタルトランスフォーメーション」と呼ばれるものの意味だ。
ビジネスプロセスやビジネスモデルに組み込まれるITは、ビジネスの都合に対応できなければならない。すなわち、ビジネスに即座に生かせるものでなければならず、ビジネスニーズに追随するものでなければならない。一方で、ITの直接的な利用者は広がっていく。言い換えれば、ITはIT専門家だけでなく、ビジネスに関わるより多くの人々が直接メリットを感じられるものになっていく必要がある。
コストモデル的には、利用するITの「量」と「リスク」の2つの側面から説明できる。
まず量については、ビジネスプロセスやビジネスモデルへのITへの組み込みが進むことで、CPU/ストレージリソースやソフトウェアライセンスの利用量は大幅に拡大する可能性がある。すると、IT製品自体の費用対効果は大きく高まる必要がある。そうでないと、コストは無限に増大することになってしまうからだ。
また、リスクという点では、これまでのIT支出は直接ビジネスには貢献しなかったとしても、ビジネスを(間接的に)支えるために必要という理由で続けられてきた。一方、今後のIT支出では、ビジネスへの直接的な貢献度を考慮しなければならないことが増える。
一方で、例えばビッグデータは、必ずしも即座に売り上げやマージンの向上につながるものとはいえない。新規ビジネスの探索や試行に使われるITは、必ずしもビジネスに貢献しない可能性もあるという点を認識する場面が増えてくる。
こうした流れの中で、IT製品は、ハードウェア、ソフトウェアを問わず、「ツール化」の度合いを強める。パブリッククラウドに象徴されるように、「構築ではなく利用」を積極的に推進するようになっていく。また、IT専門家以外の人たちが直接利用、あるいは操作するケースも増えてくる。
上記がITのツール化というトレンドだ。そして、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)は、ITインフラの世界で、これを推し進める動きだと表現できる。
HCIでは、単一あるいは複数のサーバ製品を購入するだけでITインフラが整う。サーバとストレージの他、仮想化ソフトウェアも含まれている。製品が届きさえすれば、あとは数十分から数時間の設定により、仮想化環境を使い始められる。いったん導入した後でITリソースが不足した場合でも、HCIアプライアンスを追加的に購入し、社内のネットワークに接続したら、半自動的に既存の仮想化環境と統合できる。運用も難しいものではない。専門家でなくともできる。
上記からは、「パブリッククラウドを使えば全て解決するではないか」という声が聞こえてきそうだ。「パブリッククラウドで何も問題ない」というのであれば、それで構わないだろう。だが、パブリッククラウド利用で何らかの「無理」「不便さ」が発生する用途であれば、ツールとして使いやすい選択肢として、HCIを使うという手がある。コストについても、パブリッククラウドを推進する人々は、全ての用途について社内インフラよりも安価だと主張しがちだが、必ずしも全てのユーザーが同じ考えではない。
ただし、HCIがその「ITのツール化」という本質的なメリットを発揮できるようにするために、調達プロセスが邪魔になってはならない。これが大きな課題だ。HCIを販売しながら、サイジングや複雑な設定などで、時間とコストの掛かるソリューションを押し付けるシステムインテグレーターがいるといわれている。これではHCIの良さがユーザーに実感できず、従来型のITインフラ構築と全く変わらないということになってしまう。HCI製品という「モノ」が一時的に導入されたとしても、ユーザーがHCIならではのメリットを見出せないのであれば、HCIは広がらないし、これは企業IT全体における「ITのツール化」というトレンドに逆行するものだと言わざるを得ない。
こうした妨害がないと仮定すれば、HCIはまず「ちょっとした」ITリソースニーズ、あるいは仮想デスクトップなどの特定用途を満たすソリューションとして、中堅企業や大企業の部署で広がり、ユーザー側がこれに慣れて、「ツールとしてのITインフラ調達」に違和感を覚えなくなるに従って、既存業務システムにも広がろうとしている。
本特集では、このようにシンプルだが奥が深い、HCIの世界をさまざまな角度から紹介する。
ハイパーコンバージドインフラ(HCI)は、企業データセンターにおけるITインフラの主流になると考えられている。なぜなのか。普及にはどのような課題があるのか。本特集では、文字通りHCIのAからZまでを、さまざまな立場の読者に向けて紹介する。
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