USBリムーバブルメディアからWindowsのデスクトップ環境を起動できる「Windows To Go」。Windows 8で初めて登場した面白い機能なのですが、現在のWindows 10およびWindows 11では利用できません。本当に不可能なのかどうか、ちょっと試してみました。
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「Windows To Go」のこと覚えていますか? ビジネスのやり方を変える新機能として「Windows 8」で華々しく(?)登場した、USBリムーバブルメディア(Windows To Go対応のリムーバブルメディアが必要、USB 3.0推奨、一般的なUSBメモリは不可、USB外付けHDDでも作成可)からWindowsを起動する、Enterpriseエディション限定(その後、Windows 10でEducationエディションも追加)の企業向け機能です。
例えば、遠隔地の支店に出張するビジネスマンは、ノートPCを持ち歩く代わりに、Windows(当時のWindows 8や「Windows 8.1」)が入ったUSBリムーバブルメディア(Windows To Goワークスペース)をポケットに入れて出発し、出張先にあるPCをちょっと借りて、自分のデスクトップ環境をWindows To Goワークスペースから起動していつもの環境で仕事をする。あるいは、自宅のPCをWindows To Goワークスペースで起動して、会社のデスクトップ環境を再現し、しかも「DirectAccess」などの安全なリモート接続環境は設定済みになっていて、企業のリソースにシームレスにアクセスできる、といったビジネスシーンがデモやビデオで紹介されていました。
筆者の場合は、WindowsのEnterpriseエディションの評価版をWindows To Goワークスペースで作成して、テストや評価、Windowsの新バージョンにハードウェアが対応しているかどうかの確認などに活用してきました。本連載でも、過去に何度かWindows To Goを取り上げています。
Windows To GoはWindows 8以降のEnterpriseエディションの機能であり、Windows To Goワークスペースを作成および起動して利用するには、Enterpriseエディションのインストールメディアとサブスクリプションライセンスが必要です。
「Windows 10」のバージョン1703以降では、Windows 10 Proにも「Windows To Goワークスペースの作成」ツールが提供されていましたが、Enterpriseエディションのメディアとライセンスが必要なことには変わりありません。
最初に現在のWindows 10および「Windows 11」では利用できない機能と言いましたが、以下の公式ドキュメントで説明されているように、Windows To GoはWindows 10 バージョン1903のときに非推奨となり、Windows 10 バージョン2004で廃止されました。
Windows 10 バージョン2004からは「Windows To Goワークスペースの作成」ツール(pwcreator.exe)が削除され、Windows To Goワークスペースを新規作成する手段がなくなりました。また、Windows To GoワークスペースにインストールされたWindowsは、OSのアップグレード(機能更新プログラムのインストール)に対応していないため、既存のWindows 10 バージョン1909以前がインストールされたWindows To Goワークスペースを、Windows 10 バージョン2004以降にアップグレードする方法もありません。Windows To Goをサポートする最後のバージョンであるWindows 10 バージョン1909のEnterpriseエディションのサポートは「2022年5月11日」で終了するため、Windows To Goのサポートもそれで終わります。
Windows 10 バージョン2004以降、「Windows To Goワークスペースの作成」ツールは削除されましたが、Windowsをリムーバブルデバイスから起動するという、Windows To Goの基本的な機能まで削除されたわけではありません。
筆者はWindows 10 バージョン2004以降のバージョンでも、「Windows To Goワークスペースの作成」ツールさえあれば(あるいは手動でワークスペースを作成する面倒な手順を実施すれば)、起動可能なWindows To Goワークスペースを作成できることを知っています(注意:Windows 10 バージョン2004以降ではサポートされない使い方です)。
Windows 11は、もともとWindows 10として開発されてきたもので、同じなのではないかと思い、手元にあるWindows 8.1 Enterpriseの環境(実は、そのWindows 8.1 Enterprise自体がWindows To Goワークスペースだったりします)で利用可能な「Windows To Goワークスペースの作成」ツールに、Windows 11 Enterpriseの製品版や評価版のイメージ(インストールメディア内のSources\install.wim)を読み込ませてみました。
すると、Windows 10 Enterpriseの製品版や評価版と同じように、Windows To Goワークスペースを作成可能なイメージとして認識し、特に問題なく作成することができました(画面1)。
作成したWindows To Goワークスペースを使用してデバイスを起動すると、初回起動時にWindowsセットアップの後半(「地域」や「キーボード」の選択などから始まるセットアップの最終段階)が始まり、何度か再起動が必要になります。起動後に、Windows Updateで最新の状態にする必要もあり、さらに時間がかかります。
物理コンピュータでそれらを行って、何かあると面倒なので(Windows To Goはローカルディスクをマウントしないため影響はないはずですが)、Hyper-Vの仮想マシンのパススルーディスクにWindows To Goワークスペースを割り当てました。筆者はこれまでそうしてWindows To Goワークスペースの作成の時短を図ってきました。
Windows 11のWindows To Goワークスペースはどうかというと、これまでと同じように、何の問題もなく仮想マシンで起動し、Windows Updateで最新状態に更新することができました(画面2、画面3)。
Windows 11は、プロセッサモデルの限定、4GBメモリ、UEFIセキュアブート、TPM(Trusted Platform Module)2.0など、Windows 10では必須ではなかった厳しい要件があります。
筆者がWindows 11のWindows To Goワークスペースの起動に使用したのは、第1世代仮想マシンです。メモリの割当量とプロセッサ(ホストのプロセッサを認識)は要件を満たしていますが、そもそも第1世代仮想マシンはレガシーBIOSであり、UEFIセキュアブートはもちろん、TPM 2.0にも対応していません。
それでもWindows 11は問題なく起動しました。つまり、Windows 11に対応していないハードウェアのアップグレードや新規インストールをブロックする機能は、「アップグレードアシスタント」や「Windowsセットアップ」の初期段階に追加で組み込まれたもので、そこをスキップすることができれば先に進むことができるということです。
これは、イメージベースでOSを展開する企業は注意した方がよいことかもしれません。Windows 11非対応のハードウェアに誤って展開してしまい、結果として、さまざまな問題を抱えることになるかもしれないWindows 11環境を意図せず作り出してしまう可能性があるからです。
今回は、そもそもサポートされていない使い方を、評価版でお試ししているだけなので、先に進みましょう。レジストリを編集して日本語106/109配列キーボードを正しく認識させるという、Windows To Goワークスペースを作成したことがある人ならお分かりの追加手順を行ってから、次はいよいよ物理コンピュータの起動です。
Windows 11非対応のハードウェア(チェックツールではプロセッサのみ非対応)のノートPCを使用し、USBリムーバブルメディアを起動デバイスとして選択して、Windows To Goワークスペースから起動してみました。一見、問題なく起動したように見えます(写真1)。
そのままちょっと目を離していたら、いつの間にか、このノートPCにインストールされているWindows 10のサインイン画面に切り替わっていました。もう一度、Windows To Goワークスペースから起動してみると、使用中に突然リセットしてしまいます。何度か繰り返していたら、USBメディアから起動できなくなってしまいました。
ディスクのチェック(chkdsk)を実施して修復することで回復できましたし、Hyper-V仮想マシンで起動すれば問題ありませんが、仮想マシンの画面には「USBドライブを接続したままにしてください」というメッセージが表示されました(画面4)。突然、リセットされてしまう原因が、使用したノートPC固有のUSB接続回りの問題なのか、それともWindows 11非対応のプロセッサのノートPCで起動したかなのかは不明です。
Windows 11非対応のハードウェアを使用していますし、既に廃止された機能であるため、理由は永遠に分からないでしょう。
Windows 11のOSイメージ展開についての懸念事項を指摘しましたが、同じように、問題があっても原因を究明することができない、サポートされない構成を作り出してしまう可能性は今後もあるということです。個人ユーザーの場合も、ハードウェア要件をスキップさせてアップグレードやインストールを行う方法が各所で紹介されていますが、不用意に行ってしまうと、サポートされない不安定な環境を作ってしまうことになるかもしれないことにご注意ください。
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP 2009 to 2022(Cloud and Datacenter Management)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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