そろそろ銀行に帰ったらどうかね?――二代目はテクニシャンコンサルは見た! 情シスの逆襲(10)(3/3 ページ)

» 2019年12月05日 05時00分 公開
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指弾のステージ

 1週間後、ラ・マルシェの役員会議室は、いつもとは違うメンバーで満たされていた。ラ・マルシェの株式を3%以上保有する大株主たちを集めて、自らも1%の株式を保有する鈴木前社長がやってきたのだ。

 彼らの保有する株を足し合わせると全株式の40%を超える。半数には満たないが、議決権行使書を集めるなどして、社長の交代を迫ることも可能な数だ。

 会議は冒頭から高橋社長に対する質問が飛び交った。「業績回復のペースが遅過ぎる」「コスト削減努力はしているのか」「オンラインショップ開発失敗のいきさつはどういうものか」――株主たちは回復しないマルシェの株価にいら立っていた。場合によってはこの場で社長交代を迫ることも、彼らの選択肢の一つだった。

 「さて」

 株主たちの発言がいったん収まったタイミングで、鈴木が口を開いた。

 「私は既に一介の年寄りに過ぎんが、ラ・マルシェを愛する者として何か良い方策はと考えておるわけです」

 「何が、ありますか?」

 一人の株主の言葉にうなずくと、鈴木は一層声を高くして宣言した。

 「私はここに、高橋社長の退任を提案するものであります!」

 会議の出席者達は一様に黙り込んだ。高橋自身を含めここにいる全員が、今日その話が出ることをある程度は予測していた。だが、退任後どうするのか、その答えを持つ人間はいなかった。

 「後任はどうします? 申し訳ないが、鈴木さんがやられるんじゃあ、また以前と同じだ」

 別の株主の発言に、皆が小さくうなずいた。本人を前に思い切った発言だが、株主たちは、それほど真剣だった。

 だが、自分に対する批判にも鈴木は動じなかった。これくらいのことは覚悟の上だったのだろう。復権さえできれば、後は何とでもなると思っていた。

 「後任候補は、ここに呼んであります。入りなさい!」

つづく




 「コンサルは見た! 情シスの逆襲」第11話は12月12日掲載です。

書籍

システムを「外注」するときに読む本

細川義洋著 ダイヤモンド社 2138円(税込み)

システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」が、大小70以上のトラブルプロジェクトを解決に導いた経験を総動員し、失敗の本質と原因を網羅した7つのストーリーから成功のポイントを導き出す。

※「コンサルは見た!」は、本書のWeb限定スピンアウトストーリーです

細川義洋

細川義洋

政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員

NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる

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