だって、忙しいんだもん:転職活動、本当にあったこんなこと(8)(2/2 ページ)
多くのITエンジニアにとって「転職」とは非日常のもので、そこには思いがけない事例の数々がある。転職活動におけるさまざまな危険を紹介し、回避方法を考える。
たくさんの企業を見たいから
こんなこともありました。たくさんの選択肢の中から運命の出合いを探そうとしたあるITエンジニアの事例です。
山田さん(仮名)は情報系の専門学校を卒業後、小規模ソフトハウスで7年の経験を積んできている28歳のITエンジニア。主にオープン系のシステム開発に携わってきましたが、いかんせん所属する会社が小さく力がないため、経験できるプロジェクトはシステム全体のほんの一部分である小規模案件ばかり。30歳を前にこれからのキャリアについて考えた山田さんは、転職で課題を解決しようとわが社に転職相談に訪れたのです。
私は山田さんの考える転職理由を基に、「転職のテーマ」を設定することに全力を注ぎました。20代、かつ初めて転職する人を支援するときの鉄則です。
山田さんの転職のテーマは以下のようなものでした。
- 仕事の規模を大きくしたい
- 上流工程を経験し、システム全体を意識して仕事がしたい
- 特定の業務知識を身に付けたい
転職のテーマが固まったところで、私は5つの求人案件を選択肢として提案しました。私の判断では、山田さんが考える方向性でキャリアアップができ得る、良い案件ばかりでした。山田さんも気に入ってくれたようでした。
ところが山田さんは、「せっかくのいい機会なので、求人案件をもっと紹介してほしいのです」と私にいったのです。山田さんのような20代のITエンジニアを対象とする求人案件は数多いので、私は10件程度の求人案件を追加で案内しました。
これら15件の求人すべてに、山田さんは「応募したい」と主張しました。少し多すぎるのでは、と忠告しましたが、多くの選択肢から自分にマッチした職場を探したい一心で、またプロジェクトの狭間で残業も少ないこともあって、結局15件もの求人に応募しました。
その後11社から面接のオファーが来ました。1日休みを取りましたが、ほとんどを平日の夜に設定し、山田さんは3週間で11件の1次面接を終えたのです。
もっと選択肢が欲しいので
山田さんの「自己中」ぶりが発揮されてきたのは、このあたりからでした。
1次面接をすべて終えた山田さんに2次面接の調整をしようと連絡をしたところ、山田さんは、別の求人案件を案内してほしいといってきたのです。11社の中には希望にあった企業がなかったのかと思い、事情を聞いてみると「いえ、ただもっと選択肢が欲しいので」とのことでした……。
11社の1次面接のうち、合格したのは6社です。そのうち3社は辞退、2次面接を希望する3社を待たせて、山田さんは新規で5社ほどに応募しました。結局転職活動を始めて4カ月たっても、まだ転職活動をしていたのです。
企業の採用計画は日々変わっていきます。いくつかの企業は山田さんの採用をあきらめてほかの応募者を採用したようです。結局山田さんはこんな調子で半年間転職活動をし、新しい会社へと移っていきました。ただ私の長年の経験からすると、ベストな選択ではなかったように思えました。転職活動を引き伸ばしすぎたため、せっかくの好機を逸してしまったのです。
自己中心的な転職活動に警告
この2人には共通の過ちがあります。それは転職活動という非日常の中で、相手に配慮する気持ちを忘れてしまったことです。
川田さんも山田さんも、悪いことをしたという意識はないのかもしれません。でも企業の立場からすれば、2人の行動はどう受け止められるでしょうか。
面接のリスケジュールは1回なら仕方ないかもしれませんが、2回以上のキャンセルは失礼に値するのではないでしょうか。また、転職を慎重に行いたいがために多くの選択肢を検討するのは正しい考え方かと思いますが、何カ月も保留にしておくことはお勧めできません。
すべての転職希望者は、転職活動は恋愛ととてもよく似たものだということを意識しなければならないと思います。もし恋人との待ち合わせであったなら、川田さんは4回もキャンセルしてよいものと思わなかったでしょう。多くの人とお見合いをして一生の伴侶を見つけたいと考えていても、一時に十数人(それも最初の候補者を待たせておいて)の候補の中から選ぶようなことは常識外れだと山田さんも理解できるでしょう。
普段は相手への配慮や思いやりに満ちた人でも、転職活動となると往々にして自己中心的になってしまうものです。十分気を付けなければなりません。
恋愛が駆け引きであるのと同じように転職活動も駆け引きです。でもマナーを誤ると駆け引きすらさせてもらえなくなります。「相手に誠実である範囲で有利に転職活動を続けていく」ことが重要なのです。自信がないようなら人材紹介会社のサービスを使用するのも1つの方法です。転職活動についてご教授できると思います。
著者紹介
千葉県出身。大学卒業後、建設会社にて人事、経理などの管理業務を経験。その後ITエンジニアに特化したスカウト型の人材紹介会社に転職し、キャリアアドバイザー業に従事する。その後アデコに参画し現在に至る。キャリアアドバイザーとしては一貫してIT業界、インターネット業界を担当。ギャップのない転職を支援するための情報収集能力、転職者側と採用企業側の両方の目線で行うカウンセリングには定評があるという。
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- 「ウチに来てくれ」といったじゃない
- だって、忙しいんだもん
- 社内SEならラクそうだから
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