SEのための認知療法――認知の癖を知ってうつ予防心の健康を保つために(14)(2/2 ページ)

» 2009年09月24日 00時00分 公開
[石川賀奈美ピースマインド]
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認知のゆがみがストレスを高める

・10点以下:特に問題ないようです。

・11〜20点:物事に対して、否定的な受け止め方をしてしまう傾向が多少あるようです。そのために、周囲の出来事を自らストレスにしやすい可能性があります。客観的、合理的、現実的な物事のとらえ方や、柔軟な考え方ができるように心掛けてみるとよいでしょう。

・21点以上:物事に対して、否定的な受け止め方や考え方をする傾向が強く、周囲の出来事を自らストレスにしやすいようです。客観的、合理的、現実的な物事のとらえ方や、 柔軟な考え方ができるように心掛けてみましょう。自分で変えることが難しいと思われる場合は、カウンセラーなどの専門家に気軽に相談してみましょう。

 このテストで得点が高い場合は、認知に癖(“ゆがみ”といいます)があるといえます。認知のゆがみが重なるとストレスが高まり、気分の沈みや不安が長引くことになります。出来事をあまり否定的にとらえないようにすると、ストレスが高まらずに済みます。

 認知のゆがみは10種類ほどあるといわれています。下記の中で、“自分はこれをよくやっているな”と思うものがあるでしょうか?

認知のゆがみ

1.全か無か思考:白か黒か、成功か失敗かのどちらかで考える

2.一般化のしすぎ:いくつかの例だけを見て、「いつもそうである」「みんなそうしている」などと判断してしまう

3.心の先読み:相手の心を先読みし「返事がないのは嫌われたからだ」などと思い込んでしまう

4.双眼鏡のトリック:常にほかと比較し、「やっぱり別のランチの方がおいしそうだ」など自分の選択を後悔する

5.レッテル貼り:「自分はどうせ○○だ」と行動する前から結果を決め付けてしまう

6.責任の取りすぎ:何でも「自分が悪い」「自分のせいだ」と思い込む

7.完ぺき主義:理想が高く、ささいな欠点を見つけると極端に幻滅してしまう

8.マイナス化思考:どんな良いことが起こっても、マイナスに置き換えてしまう

9.感情的決め付け:自分がそう感じたら、事実もそのとおりになると思い込んでしまう

10.すべき思考:何でも「当然○○すべきだ」「絶対○○でなければならない」と頑固に思い込んでしまう


Aさんの認知のゆがみ

 Aさんの認知を見てみると、まず6.責任の取りすぎがありそうです。仕事の分担が増えざるを得ない状況になったとき、部下が不満をいうと「自分が悪いのだ」と強く感じてしまっていました。

 また、「自分は能力がない」と考える、5.レッテル貼りの傾向があったかもしれません。良いことがあっても、「きっとうまくいかない」と考える8.マイナス化思考があったため、絶望的になってしまいました。

こうしたゆがみは、いつのまにか取り入れられ、自分の中に固定化してしまったものといえます。そして、自分で認識することなく、自動的に働き出します。他の人から見れば、極端すぎたり現実的でなかったりするものです。

考えが変わると気分が変わる

 Aさんには、上記のような認知のゆがみがあることに気付いてもらい、他にどんな考え方ができるか一緒に考えました。

 例えば、以下のように考え方を緩めてみました。

 6.責任の取りすぎ → 部下の不満は「会社への不満でもあったかもしれない。全部が自分の問題ととらえ過ぎていた」

 5.レッテル貼り → 「Aさんのおかげでうまくいった、といってもらったこともある」

 8.マイナス化思考 → 「人数の変動があったが、ほかの問題はなかったので、すぐに“きっとうまくいかない”と思ってしまったのは決め付け過ぎだった」

 考え方を緩めてみると、Aさんは「だいぶ気が楽になる」とのことでした。

自分の傾向を知ったうえで、“他の考え方はできないかな?”“○○さんだったらどう考えるかな?”と考え方の幅を広げるようにしてみてください。違う考えが浮かぶと、気分も変わってくると思います。

引用:ピースマインド著 『SEのためのうつ回避マニュアル』翔泳社、 2008年。p.121〜123。

※事例は普段の相談活動をアレンジしたものです。個人のプライバシーに配慮し、設定や状況は実際とは変えてあります。


著者紹介

ピースマインド 石川賀奈美

臨床心理士、産業カウンセラー。米国フォーカシング・インスティチュート認定フォーカシング・トレーナー。現在、ピースマインドで成人を対象に幅広い相談に応じるとともに、定期的に企業に赴き、社員のカウンセリングを行う。高齢者虐待防止に関連し、在宅介護者のカウンセリングにもかかわっている。著書に『SEのためのうつ回避マニュアル 壊れていくSE』(翔泳社刊、分担執筆)がある。

「出口のないトンネルはない。しばし、一緒に光を目指して歩いていきましょう」



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