しばらくしてKさんが再びやってきました。「友人に誘われて合コンに行ったのですが、うまく話せなくて自信がなくなりました」とのこと。初対面の異性と話す合コンでは緊張するのが当然ですね。「いい印象を与えたい」と思うのが人情というものです。
しかし、好印象にこだわりすぎると、上司に対する例のように「自己イメージ」が気になってしまい、かえって不自然さが目立つ結果になりがちです。第一印象は大切ですが、「少しずつ理解されればよい」くらいの気持ちでよいでしょう。
さらに自信をなくしやすいのは、自分の評価を厳しくしすぎることが多いようです。 Kさんも「つまらないやつと思われるのが怖い」と話していました。
沈黙が怖い(つまらないのかな?)⇒しゃべり続ける (相手:せわしない印象を受ける)
相手も緊張しているかもしれません。「初対面ならそれほど話がはずまなくても普通だ」と思うくらいがよいのではないでしょうか。しゃべり続けていると、相手は「せわしない人だなあ」と感じるかもしれませんし、「自分に話す機会を与えない人だ。わたしに興味がないのかな?」と思うかもしれません。
話すのが得意でなくても、上手に聞くよう心掛けることはできます。その際は、よくいわれることですが、下記のポイントを意識してみてください。
●ポイント:相手の目を見て話したり聞いたりすること!
自分のネガティブなイメージの方に気を取られないようにするためです。そうすれば笑顔をキープできます。
Kさんは、同僚の結婚式の2次会で友人が自分をビデオに撮影していたのを後で見る機会がありました。たまたま話をしていて、ビデオに撮られていることに気が付かなかったそうですが、ビデオの中の自分は普通に話ができていたそうです。
●ポイント:悪い予想と反省のしすぎはしない
気の張る集まりに出掛ける前は、「どうなるだろうか……」と気をもんで最悪のイメージを考えてばかりいたそうですが、そうとは限らないことが分かったそうです。
また、終った後で「あの発言は変だったかな。もっとこういえばよかったのかな」と反芻(はんすう)してしまっていたそうですが、自分が嫌になってしまうだけなので、やめてもらうことにしました。いくら反省しても、相手が違えば次に生かせるとは限らないのです。
緊張する場面では、どきどきして呼吸が速くなることがしばしばあります。これは、自律神経の1つである交感神経が優位になっている証拠です。そんなときは、意識して呼吸をゆっくりにしてみましょう。
ふーっと大きく息を吐く、肩の力を抜いてみる、手をぎゅっとにぎったり開いたりしてみることが有効です。体をほぐすと、精神的な緊張が緩みやすくなります。そうすると「まあ、かっこつけなくてもいいか」と思えるかもしれません。 集まりの直前にやると有効です。また、普段から夜寝る前などに習慣づけるとよいと思います。
脳科学の研究では、脳内にミラー・ニューロン(鏡の神経)と呼ばれる神経があり、他人の感情を鏡に映すように感じ取ることができるといわれています。自分がリラックスすれば、相手もリラックスするというわけです。ですから、前述のように体の緊張を緩めて「まあいいか」という状態でいると、その状態が相手にも伝わり、お互いに自然な状態で話ができることになります。
「話していて楽しい人」とは、どのような人でしょうか。「話の内容が面白い人」という場合もありますが、「こちらが飾らずにいられる人」という場合が多いのではないでしょうか。自分が自然体でいられる人には「また会いたい」という気持ちがわくことでしょう。
●ポイント:体をリラックスさせると、相手も一緒にリラックスさせることができる
「こうあるべき」姿であろうとするあまり、実際の自分との差を気にしていると、そればかりが伝わってしまうものかもしれません。人と違う部分があっても「ちょっと風変わりな自分」ととらえれば、そのとらえ方が人としての魅力になりそうです。そういうあなたと出会うことを待っている人がきっといるはずです。
▼福井至『図解による学習理論と認知行動療法』培風館、2008年。
▼マーシー・シャイモフ著、茂木健一郎訳『脳にいいことだけをやりなさい!』三笠書房、2008年。
ピースマインド 石川賀奈美
臨床心理士、産業カウンセラー。米国フォーカシング・インスティチュート認定フォーカシング・トレーナー。現在、ピースマインドで成人を対象に幅広い相談に応じるとともに、定期的に企業に赴き、社員のカウンセリングを行う。高齢者虐待防止に関連し、在宅介護者のカウンセリングにもかかわっている。著書に『SEのためのうつ回避マニュアル 壊れていくSE』(翔泳社刊、分担執筆)がある。
「出口のないトンネルはない。しばし、一緒に光を目指して歩いていきましょう」
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