アドビはAdobe MAX 2013でクリエイティブ/開発アプリケーションをまとめてCreative Cloudのサブスクリプション制に移行した。
アドビシステムズ(以下、アドビ)の年次イベント、Adobe MAXが18カ月ぶりに開催された。Adobe MAXといえば、旧Macromedia時代のMacromedia MAXの流れを汲む、主に開発者向けのイベントである。今回からはクリエイティブ向けのセッションも増加し、デザイナでも参加できるよう「クリエイティブのイベント」して生まれ変わった。
会場は前回と同じ、アメリカのロサンゼルス中心部、ダウンタウンにあるロサンゼルスコンベンションセンター(LACC)だ。会期は2013年5月4日から8日。5日まではプレカンファレンスセッションが行われ、6日から実質的なカンファレンスとなった。
筆者は5日にレジストレーションを済ませ、6日の基調講演から参加した。
基調講演はLACCに隣接するNOKIAシアターで行われた。数千人収容の1階部分を客席にし、2階部分はプロジェクションマッピング用の機材とそのオペレーターのためのスペースに使われていた。
例年、オープニングムービーはとても豪華なものだが、今回も相当大規模なものが再生された。このプロジェクトは合計で40ものプロジェクトを統合したものだそうだ。プロジェクタは13台。スクリーンは7面。
アドビのCEO、シャンタヌ・ナラヤン氏が登場し、開会を宣言。アドビが過去どのような革新的な製品をリリースしたのかをプレゼンした後、シニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャのデイビッド・ワドワーニ氏に交代した。
そして、Creative Cloud(CC)のバージョンアップが発表された。20を超えるアプリケーションがアップデートしてCS7ではなくCCに(アドビ、 主力製品Creative SuiteをCreative Cloudに一本化へ:Creative Suiteシリーズがアップデート終了)。これまではアプリケーションとファイルをクラウド上に保存できる機能だけだったが、ほかの作業者とのコミュニケーション、設定ファイルの同期など、制作に便利な機能が多数追加された。
ここからは、20以上のアプリケーションアップデートについて、次々とデモされていった。
Photoshop CCはより強化されたパース補正機能やライティング補正機能のほか、前回のSneak Peeksで発表された手ブレ修正(デブラー、アンチシェイク)機能が搭載された。また、レイヤ構造をEdge Reflow形式で書き出すこともできる(クリエイティブの未来が見えたMAXのSneak Peeks)。
Illustrator CCはカスタムブラシがより強力に、また、タッチタイプという新機能ではテキストオブジェクトを分解することなく、文字単位で位置や角度をコントロールできるようになった。
After Effects CCにはCINEMA 4Dのライト版が同梱され、3Dオブジェクトの利用が簡単にできるようになった。キーイングの精度も向上し、青空をブルーバックとして扱って合成するデモが公開された。
会場で歓声が上がったライティング補正機能は、Camera RAWの機能がそのまま内蔵されてフィルタとして利用できるようになり、デモでは露出補正を円形の選択範囲内にだけ適用してみせた。選択範囲をドラッグすると、そのままライトの向きが変わっているかのようにリアルタイムで反映された。
製品デモの半分の時間はEdgeファミリーに割かれた。アドビはCSS Regions、CSS Exclusions、Blend Modesの3つでW3CのWeb標準化にコミットしており、今回アップデートされるEdgeファミリーにもこれらの機能が搭載されている。
Edge Reflow CCとEdge Animate CC、Edge Code CCにはそれぞれEdge Inspectが統合されており、制作物をスマートフォンでチェックするワークフローが確立された。
Creative Cloudのデスクトップアプリが新規開発され、アプリケーションのインストールやアップデートが簡単にできるようになった。
また、アプリケーションの設定ファイルやカラーパレットなどをCreative Cloudを介して同期する機能や、アップロードしたファイルの変更履歴を一定期間保存する機能など、コラボレーション機能が大幅に強化されている。
価格は1カ月$49.99(5000円)、既存ユーザーは所有するバージョンによって初年度の価格が優遇され、CS6ユーザーは初年度$19.99(2000円)になるプランが発表された。米国では6月17日リリース。日本ではいまのところ、6月中にリリースとアナウンスされている。
PhotoshopのシェイクリダクションやAfterEffectsのリファインエッジツールは、今後APIを公開し、ほかのアプリケーションでも利用できるようにするOPEN APIsも紹介された。
アドビ社員ですら発表を知らなかったというアドビのクラウドペン、Project Mightyがサプライズで発表された。これはペンにアドビIDを内包することで、作成したアートワークなどをクラウドを経由して他端末に同期する機能を有したものだ。
見かけはシンプルなタッチペンだが、よく見るとボタンが1つ。動作デモでは上端にLEDが埋め込まれているような印象を受けた。
内部構造は至ってシンプル。筆圧感知、ペン先の交換はもちろん、メモリを内蔵しているのでおそらく設定情報などを保持できる。そしてBluetooth LEに対応しているので省電力だ。
Project Mightyと一緒に定規ツールであるNapoleonも発表。Mightyとセットで直線や曲線をきれいに書き込むことができる。
Project Mightyは公式サイトにメールアドレスを登録することで、最新情報を得ることができる。
基調講演後の記者向けQ&Aでは、製品デモでFlashなどが挙げられなかったことに関する質問があった。これに対してCEOのシャンタナヌ・ナラヤン氏は「すべての製品をデモすると、基調講演が5時間くらいになってしまう」とした上で、発表されていないアプリケーションも新機能が搭載されていることをあらためて強調した。
例えば、Flash Professional CCは64bitアプリケーションとして完全に生まれ変わっており、起動速度が大幅に向上。最新版のCreate JSを搭載、ActionScriptを反映した動画書きだしといった機能が搭載されている。
Dreamweaver CCはCSSパネルが強化されCSSデザイナになった。レスポンシブルWebデザインに対応するよう、メディアクエリに対応し、プロパティ設定画面はビジュアルで分かりやすく作り直された。
また、CSSトランジションを簡単に設定できるようにもなっている。
Fireworksは開発終了が伝えられ、なくなるのではないか? といううわさが立っていたが、FireworksはCS6のまま、Creative Cloudで利用することができる。そして、少なくとも次のOSのバージョンアップまではサポートされるそうだ。これについては会場内で参加者の雑談でも時折「Fireworks…」という単語が聞こえて来たぐらいインパクトがあり、筆者は現地から「Fireworksはまだまだ終わらない」という記事を掲載した。
今回のAdobe MAXでは、開発者とデザイナの割合が半々だったそうだ。以前は開発者色が濃かったのだが、今回はそうではなかった。セッションもPhotoshopはもちろん、InDesiginやAfterEffectsなどのビデオ製品のセッションがあり、著名なクリエイターが講師を務めていた。
筆者はEdgeファミリーを中心にセッションを取得していたのだが、帰国後、ビデオ関係のセッションのアーカイブを閲覧し、著名なクリエイターの名前を発見して、ものすごく後悔をした。しかし体は1つだし、現地でもこのセッションを落としてあのセッションを受けるべきかといった取捨選択を迫られていた。
InDesignを利用したAdobe Digital Publising Suite(ADPS)のセッションは満員だったという話をほかの参加者から聞いた。デザイナ達による電子書籍への関心の高さがうかがえる。
アドビが開発とデザインをひっくるめてCreativeとし、MAXをこのようなイベントに進化させた背景には、ユーザーのワークスタイルが多様化してきていることがあるのだと思う。1日目の基調講演でデイビッド・ワドワーニ氏は、「クリエイティブは日々進化してきている。私たちはこれをクリエイティブ革命と呼んでいる」と話した。ユーザーのニーズがこれに伴って変化してきていることを示唆し、Photoshop CCにレスポンシブWebデザインの書き出し機能を含めるといった、新しいワークフローの提案になったのだろう。
そしてアプリケーションをまとめてサブスクリプション制に移行するという、大胆な戦略からも、アドビの覚悟、心意気を感じずにはいられないのだ。
次は1年後にMAXが開催されるという。前回から18カ月。その18か月で大きな環境の変化があった。われわれの世界は、1年後、どのように変わり、アドビはどのような回答を出してくるのか、期待したい。
岡本紳吾(おかもとしんご)
1975年大阪生まれ。2000年ごろよりAdobe Flash(当時はmacromedia)を使ったコンテンツ制作を始め、Flash歴だけは異様に長い。自他共に認めるFlash大好きっ子。2008年より活動の拠点を東京に移し、2011年に独立。最近はAdobe Edge系を活用し、HTML5コンテンツも手掛ける。Webプロデュースと制作と山岳メディア運営の会社、hatte Inc.代表取締役。Twitter:@hage、Facebook:shingo.okamoto
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