「派遣でスキルアップ」のつもりだったのに:転職活動、本当にあったこんなこと(1)(2/2 ページ)
多くのITエンジニアにとって「転職」とは非日常のもので、そこには思いがけない事例の数々がある。転職活動におけるさまざまな危険を紹介し、回避方法を考える。
鹿田さんの再出発
人材派遣には、最近ではエンジニア向けの求人も多く、給与などの条件面を見ても正社員と遜色ない案件が並びます。実際に、育児や介護、仕事以外の趣味や活動と両立するために、派遣社員として働き続けるという選択をしている人も少なくありません。
しかし鹿田さんは、スキルアップをして最終的には希望する企業の正社員になるために派遣社員として働き始めたはずです。
給与や勤務時間といった条件面を充足させるための転職ではなかったにもかかわらず、目標がいつの間にか、条件面での満足にすり替わってしまっていることに気付けなかった。それが鹿田さんの転職を大きく狂わせてしまった原因でした。
そこで私は、まず鹿田さんに自分が目指していた理想像、ネットワークの構築・設計を責任持って担当できるような高いスキルを持ったITエンジニアになりたいということを、そしてそのために多くの業務を経験しながら資格を取得するという目的を思い出してもらいました。
鹿田さんがモチベーションを取り戻したことを確認してから、企業の規模にはこだわらず、たとえ給与など条件面が派遣社員のときより下がったとしても、しっかりとネットワークエンジニアとして成長できる環境を得ることを最優先に考えようと提案。最初は前職からのキャリアダウンをイメージして難色を示していた鹿田さんも、派遣社員時代に得た教訓を生かそうという呼び掛けに応えて、提案を受け入れてくれました。
もともとはまじめで、ITエンジニアとして高い志を持っている鹿田さんです。過去に経験した業務の内容と人柄を丁寧に企業側に伝えることで、どうにか面接のチャンスを与えてもらえないだろうかと考え、アピールを続けました。すると、社員20人ほどの小規模ながら、質の高い業務内容で業界でも高い評価を得ている企業の社長が、ぜひ鹿田さんに会ってみたいと声を掛けてくれたのです。
この社長、社員に対する面倒見がとてもよく、経験が少なくても意欲のある若者を採用して、しっかりと成長させてくれる方。「鹿田さんのことを聞いたら放ってはおけないのでは……」と密かに期待し、今回の転職活動の経緯をすべて正直に知らせておいたのでした。
応募はしたものの、面接時にはまだ、前職よりも規模の小さい企業に入社することに迷いがあった鹿田さんに対して、社長は「派遣社員時代の苦い経験を生かせるように、もう一度、一からじっくりとやろう」と熱心に語り掛けてくれました。最後には鹿田さんも社長の熱意に打たれて入社を決意。ステップアップを目指してスタートした、長過ぎた転職活動にようやく一区切りがつきました。
鹿田さんはその後、忙しい業務の合間にもしっかりと勉強を続けて、目指していた難関資格の取得に成功。目標のネットワークスペシャリストに向かって、着実に前進しています。
「あの経験がなかったら、いまでも目標なく派遣社員でいたかもしれない」。いまでも時々当時を振り返って、自分自身を励ます材料にしているそうです。
派遣自体に良しあしはない
派遣社員として働くこと自体に、良い悪いの評価はありません。派遣社員として働くことにもメリット、デメリットが存在します。ほかの人が成功したからといって、誰もが成功するというわけではありませんし、その逆のこともいえます。
まずは目指している将来の自分の理想像についてよく考えましょう。それに近づくためにはどんなアプローチの方法があるのか、その方法にはどんなリスクが存在するのか、自分には適しているのかどうかなどをしっかりと見極めて、上手に活用することが肝心なのです。
しかし、多くの可能性に目を配るのは、1人きりでの転職活動ではとても難しいと思います。そこで私たちキャリアコンサルタントを利用し、目標を互いにリマインドしながらさまざまな選択肢を一緒に検討することをお勧めします。
転職活動の最初の段階には、ぜひ一度、プロのアドバイスを聞きに来てください。
著者紹介
アデコ 人材紹介サービス部 コンサルタント
通信キャリアや大手航空会社のユーザー系システム開発企業にて、スーパーバイザーとしてスタッフ管理を担当。現在はキャリアコンサルタントとして、SEやWebクリエイターを中心に転職希望者のサポートを行っている。日本産業カウンセラー協会認定 産業カウンセラーおよびキャリアコンサルタント資格取得。
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