遅刻しそうなので、面接受けるのやめます:転職活動、本当にあったこんなこと(6)(2/2 ページ)
多くのITエンジニアにとって「転職」とは非日常のもので、そこには思いがけない事例の数々がある。転職活動におけるさまざまな危険を紹介し、回避方法を考える。
コミュニケーション能力に難あり?
田中さん(仮名)は30歳のネットワークエンジニアです。契約社員として大手SI企業に常駐し、ネットワーク関連のヘルプデスクを担当していました。契約期間終了後は正社員としての就業を約束されているのですが、期待されているポジションは現場のスーパーバイザー的な役割であり、技術的な知識が身に付けられないことに不安を感じているとのことでした。技術スキルを体系的に身に付けることができる企業で力を付けたいと考え、転職を決意して相談に来たのです。
私が初めて会ったとき、すでに田中さんは転職活動を始め、数社の面接を受けていました。その1つA社の面接の場で、田中さんは「君にはコミュニケーション能力がない」と強く指摘されてしまったそうです。それ以来、面接では必要以上に緊張してしまい、うまく自己アピールができなくなってしまっているようでした。
本人はヒューマンスキルを直接否定されてしまったことで、自信をなくしている状態でした。また契約期間が終わるまでに転職先を決めなくてはならないというプレッシャーから、精神的にも体力的にも疲れていることが見て取れました。
私が田中さんに紹介したB社は、社員1500人規模の比較的大きな企業で、大手ユーザ企業のネットワーク運用を主に行っていました。テクニカル、ヒューマン、マネジメント各分野の教育制度をしっかり持っており、田中さんにも気に入ってもらうことができました。
しかし、田中さんはこれまでの面接の結果から自信をなくしており、そのような大企業に入れるわけがないと思っていたようです。「面接となると緊張してしまいますし、コミュニケーション能力がないといわれたことまであるのです。どうしたらいいでしょう」という田中さんに、私はこのように伝えました。
「田中さん、もし緊張して答えに詰まってしまったら、ご自分から面接官に『緊張しています』といってしまっていいのですよ。あとは面接官に笑顔を見せましょう」。田中さんはうなずいたものの、とても不安そうに帰っていきました。その姿をいまでもはっきりと覚えています。
「素晴らしいお人柄。ぜひ当社に」
さてB社の面接当日。時間は筆記試験も含め、3時間程度と聞いていました。終わってから少したったであろうという時間に、B社から連絡がありました。
「今日は1次面接と筆記試験の予定だったのですが、田中さんは人物的にとても素晴らしい方だったので役員面接まで行わせていただきました。本人にはすでに伝えてあるのですが、ぜひ当社に来てほしいとお伝えください」
私自身、まだ面接から数時間しかたっていなかったため、田中さんと連絡を取れていませんでした。そのため状況をつかめていなかったのですが、どうやら良い知らせのようでした。
田中さんと連絡を取ると、「ぜひB社でお世話になりたい」とのこと。非常に良い形で転職活動を終えることができました。
後日、B社の人事担当者にあらためて田中さんをどのように評価したのか確認してみました。すると、興味深い答えが返ってきました。
「技術スキルについては、まだこれから学んでほしい部分も多いのですが、お人柄が素晴らしく、特にコミュニケーション能力がとても高い方なので当社で活躍できると思ったのです」。何と、田中さんがB社で高く評価された点は、以前A社で強く否定されたコミュニケーション能力だったのです。
私もお会いしたときに思ったのですが、田中さんはそもそもヘルプデスクなどコミュニケーション能力を生かした仕事で活躍し、コミュニケーション能力は高い方なのです。
コミュニケーション能力については、どうやら企業によってとらえ方が異なるようです。ここからは推測ではありますが、A社でいうコミュニケーション能力とは、相手の意図を理解し、誤解なく意思の伝達ができる能力のことではなかったのかもしれません。田中さんは控えめな性格で、決して饒舌(じょうぜつ)な方ではありませんから。
2人の共通点
今回は小西さん、田中さんの2人の事例を挙げました。皆さんが同じような状況に直面したとき、必ずしもこのような結果になるとは限りません。たいていの企業は面接に遅刻されれば良い印象を持ちませんし、面接時に緊張してしまい、うまく考えを伝えることができなければ採用に至らないのは当然かと思われます。
それにもかかわらず、2人は内定となりました。実は小西さんと田中さんには素晴らしい共通点があります。
- 弱点やアクシデントをしっかりと把握して受け入れたこと
- 困難な状況でもあきらめずに、前向きに気持ちを切り替えて転職活動を続けたこと
「この企業で働きたい」という気持ちを胸に、思わぬアクシデントにもくじけず、問題・課題を素直に受け止めて、前向きに動いたことが成功につながったのではないかと思います。
転職活動は想像以上のストレスになります。また思わぬ困難に遭ったとき、たった1人で判断を下すのは難しいことです。そのようなとき、第三者としてキャリアコンサルタントに相談するのも1つの手段だと思います。
著者紹介
アデコ 人材紹介サービス部 コンサルタント
大田耕平
神奈川県出身。大学卒業後、大手独立系システムインテグレータに入社。システムエンジニアとして大手生命保険会社のシステム開発に携わる。アデコでは主にIT業界のエンジニアを中心に幅広く担当。Webや紙媒体では伝わりにくい部分をITエンジニア視点で求職者に伝えられるように心掛けている。
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- 遅刻しそうなので、面接受けるのやめます
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