上記の過程で大きな役割を果たしているのが、「また駄目かも」「やっぱり自分は駄目なんだ」という、心の中のつぶやきです。
セルフイメージは、小さいころから親や先生に「おまえは〜だね」とか「君は〜だね」という言葉を掛けられることにより、「ああ、自分は〜なんだ」とインプットされてつくられる部分もあります。
しかし、それだけではないのです。Sさんの心のつぶやきのように、自分が自分に語り掛ける言葉も大きな役割を果たすのです。
1人でいるときも、頭の中ではずいぶんたくさんの言葉を自分に語り掛けていると思います。どんな言葉を語り掛けるかで、その後の行動は大きく違ってくるはずです。「きっと駄目だよ」「無理だよ」と(自分に)いわれて、直後のプレゼンテーションがうまくいくでしょうか?
意識して自分に「大丈夫だ」「よくやってる」など、ポジティブな言葉を掛けるようにしましょう。
さて、Sさんの「やっぱり自分は駄目なんだ」のようなマイナスの言葉は、どこから生まれるのでしょうか。それは、心の癖(考え方の癖)からです。
人は誰でも考え方の癖を持っています。カウンセリングにおいても、「そんなにすぐには変わらないよ」という人がいます。確かに長年続けた「なじみの」言葉は、自然に出てしまうものです。そこで、筋肉トレーニングのように意識的に癖を修正する努力が必要になります。
具体的には、日記のようにノートに書いてみる方法があります。「心の癖発見日記」というところでしょうか。
・出来事を書く
例:上司に「報告書いつまでに出せる?」と聞かれた。
↓
・その出来事について、そのとき感じたことを書く
例:催促された感じ。ほかの人にはいわないのに。
↓
・そのとき感じたことから、そう思ってしまう自分の「いつもの心の癖」はどんなものかを書く
例:自分だけ評価されていない気がする。差別されていると感じる。
↓
・違う考え方、違う行動をするとしたらどうするかを書く
例:ほかの人より重要な部分を担当しているのかもしれない。
「○月×日ですが、お急ぎですか?」と質問してみる。
どんな人にも、「いつもの心の癖」はあります。だからこの日記を書くときに、「この癖が駄目なんだ!」と自分を責めないでください。そうではなく、いまの自分を「そうなんだよな」としっかり理解することが大事なのです。
続けていくうちに、自然と浮かんでくる心の中のネガティブな声に対して、「でも、こうも考えられるし」と違った声を掛けられるようになります。最初は不自然な感じがするかもしれませんが、後から考えた声もあなた自身が生み出した声なのです。小さな声かもしれませんが、ネガティブな声がどんどん膨らんでいくのを止めることができます。
次に、普段の行動の中で自信をつける方法を紹介します。
誰でも(たとえオリンピック選手でも)、いきなり大きな目標に取り掛かっては、クリアすることが大変ですし、自信をなくしてしまうと思います。
大きな目標も上手に細分化して、小さな目標(ステップ)に変えてみましょう。小さなステップをクリアすることで、小さな自信が生まれます。それが積み重なっていけば、自分自身への確かな自信につながっていくと思います。
最初から仕事上の目標でなくてもいいと思います。プライベートなことでもいいので、自分にとって魅力のある、「できたらいいな」と思うことを目標にしてみましょう。例えば、「ジムに通って2キロやせる」などです。
例)ジムに通うことなら、
「まずパンフレットを取り寄せる」→「電話して様子を聞く」→「行ってみて会員登録する」→「1回行ってみる」→「2週に1回行く」→「回数を増やす」
牛歩のようだと思うかもしれませんが、1つできたら「よし、できた」と確認していくことです。ステップを2、3クリアしたら、小さなご褒美も用意します。牛歩でも、とどまらずに進んでいるという感じを持てることが大切なのです。
目標を達成できたらどんな状態になれるかを、できるだけ「ありありと」イメージし続けることも必要です。
未来は、「いま」の連続の向こうにあります。自信も、「今日の小さな成功」の続きにあるのです。
ピースマインド 石川賀奈美
臨床心理士、産業カウンセラー。米国フォーカシング・インスティチュート認定フォーカシング・トレーナー。現在、ピースマインドで成人を対象に幅広い相談に応じるとともに、定期的に企業に赴き、社員のカウンセリングを行う。高齢者虐待防止に関連し、在宅介護者のカウンセリングにもかかわっている。著書に『SEのためのうつ回避マニュアル 壊れていくSE』(翔泳社刊、分担執筆)がある。
「出口のないトンネルはない。しばし、一緒に光を目指して歩いていきましょう」
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