ビジョンができたら「仕事で、どのようにビジョンを展開できるか」を具体的に考えましょう。なぜビジョンから考えるか。「仕事の幸福」には、「やりがい」が大きく関与しているからです。同時通訳者・環境ジャーナリストの枝廣淳子さんは、「やりがいのある仕事」について次のように述べています。
「やりがいのある仕事」とは、自分が大事に思っていること、これだけは譲れないと思っていることに反しない仕事です。自分の人生でこういうことをしたい、自分が死ぬときにこういうことを遺していきたい、という「ビジョン」を、毎日の作業の中で少しずつでも形にできる仕事です。
ビジョンは、途方もないものであってもよいのです。大事なのは「自分にぴったりくるかどうか」。
また、ビジョンは目標ではありません。そのため、「こんなことをいっても実現しないな」と思う必要はありません。ビジョンは、自分が歩んでいく道の方向性を示すものだからです。ビジョンは、時間が経てば変化するかもしれません。人は成長するからです。それでも、後から振り返れば、自分が大切にしたいと思う「一貫した何か」が見えてくると思います。
SEのAさんは、コラージュを作ってみて「デザインがユニークで、ちょっと笑える感じの便利なものをいっぱい貼っている自分がいました」と感想を語ってくれました。そこから生まれたビジョンは「生活を笑顔にするものを世の中に提供したい」でした。
「自分が作るシステムによって、このビジョンは実現可能だ」と思えたとき、おなかの底から力がわいてくるような、何ともいえない感じがしたそうです。ビジョン実現に近づける部署へ異動希望を出すことにした、とAさんは話していました。また、毎日笑っていたい自分を発見して、「日常の中で面白いと思えることを発掘していこう」と決めたそうです。
幸福は「なるもの」でも「するもの」でもなく、「感じるもの」です。なぜなら、幸福のポイントは1人ひとり異なるからです。
昇進にあまり興味がないのに人より早く昇進しても、幸福感は長続きしないでしょう。「これが自分だ」と思えている方向に進んでいるのであれば、それが目標の途中であっても、障害があっても、その人は「幸福」なのではないでしょうか。
自分の幸福のポイントをしっかりつかめたら、それを見失わないでください。どんな人にも、「幸福のポイント」はあるのです。
「心の健康を保つために」連載は、今回で終了です。これまで読んでくださった方々に、心よりお礼申し上げます。皆さまの心と体のご健康を願っております。また新たな企画でお目にかかれますよう、研さんを積んでいきたいと思います。
▼枝廣淳子『思えば、そうなる! なりたい自分になるための7つの扉』新潮社、2005年
▼鬼頭愛子、堀匡、大塚泰正「ポジティブ日記を用いた労働者向け介入の効果評価:ポジティブ感情の機能に着目して」産業ストレス研究、16、173-182、2009年
▼杉浦京子、森谷寛之、入江茂、服部令子、近喰ふじ子『体験 コラージュ療法』山王出版、1992年
ピースマインド 石川賀奈美
臨床心理士、産業カウンセラー。米国フォーカシング・インスティチュート認定フォーカシング・トレーナー。現在、ピースマインドで成人を対象に幅広い相談に応じるとともに、定期的に企業に赴き、社員のカウンセリングを行う。高齢者虐待防止に関連し、在宅介護者のカウンセリングにもかかわっている。著書に『SEのためのうつ回避マニュアル 壊れていくSE』(翔泳社刊、分担執筆)がある。
「出口のないトンネルはない。しばし、一緒に光を目指して歩いていきましょう」
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