小平:個人のグローバル化を「OS(オペレーティングシステム)=志向性・行動特性」と「アプリケーション=専門性・業務遂行スキル」の関係に例えて考えてみましょう。「まずは海外に出てみる」というお話は、「OS」すなわち意識面から変えて「グローバル化」を目指して行動した方がよい、ということですね。海外でも通用する「スキル」を身に付けてから海外に行くのではなく、まず海外を「経験」してみることが先決であると。
小平 産業能率大学が行った「新入社員のグローバル意識調査」では、2010年度新入社員のおよそ2人に1人が、海外で「働きたいとは思わない」と考えている一方、「どんな国・地域でも働きたい」が過去最高(27%)になっています(参考:「海外で働きたくない 2人に1人——産能大調べ」)。これは「若者全般が内向き化」しているのではなく、いわゆる「二極化傾向」だとわたしは見ています。その意味では、ゾーホージャパンには内向きな人ではなく、外の世界へ向かっていこうとする人材が集まっているのでしょうね。
山下氏 そうですね。わたしたちは「先を目指す」人材を求めています。面接でわたしが聞くことは「勉強をするつもりはありますか」ということが中心です。若者といえど、新入社員は立派な大人です。こちらから「これをすべき」「あれをしなさい」といって彼らがそれに従うのではなく、「自分は成長したい」という明確な意思と能力を持つ人材に、インド研修などを提供して、成長してもらっています。
小平 海外エンジニアとコラボレートして仕事をすることは、日本人エンジニアにとって大きな課題です。英語とITに関してはインド研修があるにしても、このあたりはどのように乗り越えているのでしょうか。
山下氏 海外とのコラボレーションですが、例えばコミュニケーション形態は国別で特徴があるようです。
とはいっても、これらの特徴は実はそれほど重要ではありません。重視すべきは、人同士の信頼や人間関係です。
多くの日本企業では、プロジェクトが決定した後は、各人が役割分担に応じて粛々と業務を進めます。しかし、IT企業やベンチャー企業の場合は、必ずしもその形態がベストとは思っていません。特に海外のチームと一緒に仕事をするとなると、小さい組織が常にたくさん動いている状態になります。このような形で仕事を進める場合、京セラの「アメーバ経営」※のような、より良いコミュニケーション形態が必要になるのです。
※会社の組織を「アメーバ」と呼ばれる小集団に分け、社内からリーダーを選び、その経営を任せることで、経営者意識を持つリーダー、つまり共同経営者を多数育成すること(参考)。
海外のチームと一緒に仕事をする際、大事なのは「お互いに対する尊敬」です。お互いに尊重していないと、そもそも話を聞いてくれない、よって仕事が進まないという事態に陥ります。
その点、インド研修を受けたゾーホージャパン社員とインド人社員は、仕事を始める段階ですでにお互いを知っている間柄です。インド研修で信頼関係を醸成することによる仕事への影響は、非常に大きいと思います。現地では、休日に日本人社員がインド人社員の家にまで遊びにいくような関係になっているようです。
小平 わたしの会社(ジェイエーエス)では、日本人や外国人社員向けにグローバル研修を行っています。そこで、異文化コミュニケーションやチームマネジメントについて話をするのですが、「信頼」というテーマは重要なポイントとして受講者と共有しています。
なぜなら、プロジェクトは究極的には「個人」に依存するもので、信頼がゼロであれば、ほかの努力が無意味になる恐れをはらんでいるためです。また、社会心理学の世界には、「信頼は成果を前払いする」という言葉もあります。信頼があるからこそ、コミュニケーションの手間や複雑性を低減させる効果があるともいわれています。
小平 日本人エンジニアは、今後どのようにグローバルに立ち向かっていくべきだと思われますか。
山下氏 能力の問題ではなく、やはり日本人エンジニアにはハングリーさが圧倒的に欠落しています。たとえ先進国であっても、アメリカでは「金持ちになる」など、野望を持つ人間がたくさんいます。お金の問題ではなく、日本人全般にハングリーさが欠けており、現状で満足してしまうという傾向があるのではないでしょうか。
海外では、大学在学中は社会人になるための準備期間です。しかし、日本では大学入学が目標となってしまう人も多いと思います。ですが、個人としても企業としても、グローバルに競争していくためにはハングリーさは必要です。そのためには何でもいいので、目標ややりたいことを見つけることが重要なのだと思います。
●関連:ゾーホージャパン社員によるコラム
山下さんとの対談を通じて行き着いたところが、「尊敬」「信頼」という人間関係の基本である点について、真剣に受け止めたいと思いました。
グローバルビジネスにおいて、プロジェクト管理の手法や異文化コミュニケーション、語学はもちろん重要なのですが、それらはいわば「手法」にすぎません。企業文化や構成する1人ひとりのマインドがついていかないと、手法を使いこなせず、意味のないものとなってしまいます。
その点、ゾーホージャパンのインド研修は、優秀人材の獲得と自社文化の醸成、より良いグローバルコミュニケーションの実現という、多くの成果を出しているものではないかと感じました。実際にインドで学んでいる社員の皆さんのモチベーションは、非常に高いようです。
日本人にとって、「現状が満たされているのか、そうでないのか」を自覚するのはなかなか難しいと思います。Zoho Universityの話には、気付きの機会があるのではないでしょうか。わたしも機会があれば、ぜひ一度Zoho Universityを訪問してみたい思いました。
小平達也(こだいらたつや)
ジェイエーエス(Japan Active Solutions)代表取締役社長
大手人材サービス会社にて、中国・インド・ベトナムなどの外国人社員の採用と活用を支援する「グローバル採用支援プログラム」の開発に携わる。中国事業部、中国法人、海外事業部を立ち上げ事業部長および董事(取締役)を務めた後、現職。グローバルに特化した組織・人事コンサルティングを行うジェイエーエスではグローバル採用および職場への受け入れ活用に特化したコンサルティングサービスを行っており、外国人社員の活用・定着に関する豊富な経験に基づいた独自のメソッドは産業界から注目を集めている。
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