したかったのは、こんな仕事じゃない!:転職活動、本当にあったこんなこと(11)(2/2 ページ)
多くのITエンジニアにとって「転職」とは非日常のもので、そこには思いがけない事例の数々がある。転職活動におけるさまざまな危険を紹介し、回避方法を考える。
「元請けであればいいわけではない……」
転職した江原さんは、自社開発のパッケージソフトの導入を担当していました。中堅企業向けの会計ソフトで、ほとんどカスタマイズの必要のない製品です。確かに元請けの仕事で、顧客企業に対しての製品説明からインストール、簡単なカスタマイズを担当したそうです。
まとまった開発が発生した場合にはパートナー企業と協業しながらのプロジェクトになるそうですが、ほとんどのプロジェクトはパートナーにも頼らず、江原さん1人で完結する規模のようでした。江原さんは、このプロジェクトの規模の小ささに違和感を覚えたのです。
江原さんは転職するとき、元請けの仕事がしたいとの思いが強すぎて、その1点にしか注意がいかなかったのです。システム開発は重層構造の受注関係で行われることが多く、確かに元請けの仕事の方が収入面も良く、キャリアアップにもつながることが多くはあります。しかし、プロジェクトの規模にも注意をはらうべきでした。大規模なプロジェクトであればあるほど、元請けの仕事を取るのは難しく、小規模であればあるほど容易になります。
経験するプロジェクトの規模は、ITエンジニアのスキルにも深くかかわってくることです。大規模になればシステムの構成も複雑化しますし、かかわる人間も多くなります。マネジメントの観点からも「人・もの・金・情報」を押さえるのが難しくなり、その分だけスキルアップにつながるのです。
「こんなの技術者の仕事じゃない!」
辻さんは転職先で、かつて感じていたようなやりがいを得ることができず、社内SEの仕事に違和感を覚えていたそうです。「上流工程を経験するには、ユーザー企業の社内SEが一番だろう、そう確信していたのに……」
辻さんの仕事は、新しいものを企画開発することではなく、いまあるものをどうやって使うかを考えることが中心。考えてみれば当たり前です。常に新規システムの企画開発にかかわれるシステム部門などなかなかありません。
システムサポートやエンドユーザー向けヘルプデスク業務の合間に、新しいサーバやアプリケーションの導入の仕事もありますが、それも企画だけ。ITエンジニアの仕事というよりは、事務仕事に近いものがありました。
「残業代は出るけれど……」
柿田さんの転職先では、月次申請した時間外手当が、次月の給与と同時に支給されました。中小規模のソフトハウスで基本給与は安いものの、時間外手当を入れれば前職と変わらない金額になりました。大手SI企業から受託する開発案件は、柿田さんのこれまでの経験を生かせば、決して難しいものではありませんでした。
たくさん働いたら働いた分だけ、そんなに忙しくない月はそれなりに給料が出る。それが柿田さんの望んでいたことでした。
「でも何かが違う。こんなのを希望してたんだっけ?」。柿田さんはそう感じるようになりました。
「以前は大変だったけどやりがいがあった。あのやりがいは何だったんだ。サービス残業が嫌で転職をしたけれど、それが解決しても仕事に満足していない。本当に自分は、残業代が出る会社に就職できさえすればそれでよかったのだろうか?」
ネガティブからポジティブへ
ネガティブな気持ちから出発し、転職を考えることはよくあります。不満は成長や革新の源です。現状に対する不満から課題が形成され、1つの解決策として「転職」が挙がってくるのです。
でも実際に転職活動をするときには、このネガティブな気持ちをポジティブなものに変化させる必要があるのです。
「元請けのプロジェクトに臨みたい」。確かに出発点はそこであっても、元請けの仕事であれば何でもいいのかといえばそんなことはありません。そればかりに焦点を絞ってしまい、ほかの条件をまったく排除してしまうことになります。
何か1つの条件にこだわって転職をする場合も確かにあります。例えば、事情があって年収を極端に上げたい、地元にUターン転職をしたいなど。しかしそれは、何か特別な理由があってのことです。
転職を考えるきっかけになったネガティブな理由を、ではどうなりたいのかというポジティブな理由に変化させましょう。ポジティブな理由ができればそれが転職のテーマになり、転職活動は十中八九成功します。
事例の3人のようにネガティブな理由のまま転職活動をすると、転職先を見誤って失敗ということにもなりかねません。
幸い、江原さん、辻さん、柿田さんの3人とも、転職カウンセリングによってポジティブな転職テーマを持つことができ、満足のいく転職をすることができました。
ネガティブな理由をポジティブに。そんなに難しいことではないのですが、初めての転職では陥りやすいわなです。転職で失敗しないために、親しい人、信頼できる人、もしくは人材紹介会社のコンサルタントに、自分の転職のテーマを聞いてもらうといいでしょう。
著者紹介
千葉県出身。大学卒業後、建設会社にて人事、経理などの管理業務を経験。その後ITエンジニアに特化したスカウト型の人材紹介会社に転職し、キャリアアドバイザー業に従事する。その後アデコに参画。キャリアアドバイザーとしては一貫してIT業界を担当。ギャップのない転職を支援するための情報収集能力、転職者側と採用企業側の両方の目線で行うカウンセリングには定評があるという。
- 退職を引き止められたときの「落とし穴」にご注意
- 転職時に重視すべきは「仕事」か「会社」か
- 「あのとき転職していれば」――転職しないリスク
- 転職の鉄則は「最初は勢いよく、最後は慎重に」
- 「自分を過大評価しない」が転職成功の道
- 大好きな北海道で、楽しく働くつもりだったのに
- 「現実逃避」で転職をしてはいけない
- 「内定」の2文字に舞い上がり、転職に失敗
- 「話上手」なだけでは、面接には受からない
- 面接に進める職務経歴書の書き方
- 妻の仕事の都合上、転勤はできません!
- 滋賀限定、残業なし、社内SE。そりゃ苦戦するでしょう
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- 取りあえず、希望年収700万円でお願いします
- あこがれのITコンサルになれたはいいけれど
- どうせタダでしょ? 人材紹介会社10社利用します
- 次の面接、行くのやめようかな
- したかったのは、こんな仕事じゃない!
- よく考えたら、いまの会社でいいみたい
- 「ウチに来てくれ」といったじゃない
- だって、忙しいんだもん
- 社内SEならラクそうだから
- 遅刻しそうなので、面接受けるのやめます
- 転職するたびにランクが下がるなんて
- 入社3年目で転職なんて許さん!
- 圧迫面接にも理由がある?
- 「辞めてから転職先探せばいいでしょ」のリスク
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