「話上手」なだけでは、面接には受からない:転職活動、本当にあったこんなこと(23)(2/2 ページ)
多くのITエンジニアにとって「転職」とは非日常のもので、そこには思いがけない事例の数々がある。転職活動におけるさまざまな危険を紹介し、回避方法を考える。
「うまく話せたのに、どうしてですか?」
あらためて田中さんに見送り理由をお伝えしたところ、「うまく話せたのに、どうしてでしょうかね」と納得できない様子でした。こういうことはよくあります。面接における、双方のすれ違いといいますか……。
辻(筆者) 面接がうまくいかなかった原因は、どこにあったと思いますか?
田中 コミュニケーション力不足という理由は納得いかないですね。面接のときは話が盛り上がりましたし、面接官もしっかりと聞いてくれたのです。それがどうして見送りになるのでしょうか? 確かに、私が少し一方的に話しすぎたところはありましたが……(うんぬん)。
辻 面接で、質問の意図を理解して回答しましたか?
田中 いろいろと話すことで、自分をアピールしようとしました。その結果、多少脱線することもあったと思いますが、そこが駄目だったのかもしれません。私は自分のことをよく知ってもらいたかったので、できる限りのことを伝えたいと思って一生懸命に話をしたのですが、それが伝わらなかったのですね。
辻 質問に対して簡潔に回答ができたと思いますか?
田中 自分を理解してもらおうと考えると、頭の中にあれもこれもと伝えたいことがいろいろ思い浮かびまして、すべてを話しているうちに、私が長々と1人で話すことになっていました。残念です。アピールの仕方が悪かったのかもしれません。
この会話からして、うまく話がかみ合っていなかったのでした。私の質問に対して的確で簡潔な回答ができないようでは、実際の面接でうまくいくはずもありません。
田中さんは、私が聞きたいことではなく、自分が伝えたいことを長々と話していました。もちろん、本人にはそんな自覚はありません。「自分がどう考えたか、感じたかを熱心に伝えることで、相手は理解してくれる」と考えていたのです。
そこで私は、田中さんに以下の3点をアドバイスしました。
- 「自分の話したいこと」を話すのではなく、「相手の聞きたいこと」を話す
- 回答する前にひと呼吸置き、頭の中で整理してから話す
- まずは簡潔に回答して、理由などは後から付け加える
この3点に納得した田中さんは、次の企業での面接ではうまく受け答えができ、内定を勝ち取ることができました。田中さんにとっては、自分の話した内容がかなり物足りないものに感じられたようですが、企業にとってはそれで十分だったようです。
コミュニケーションは、相手の意図を理解することから
面接での受け答えにおいて一番重要なことは、「面接官がどういうことを意図した質問なのか」を理解することです。理解して初めて、質問に対する適切な回答をすることができるのです。
せっかく意図を理解しても、焦ってまとまりのない回答になることがあります。ひと呼吸置いて気持ちを落ち着け、頭の中で整理することで、簡潔な分かりやすい回答になります。
回答の前置きがダラダラと長くなると、結局何がいいたいのかが分からなくなります。まずは結論をはっきりと述べてから、その結論にいたる理由や考え方を述べるようにしなければなりません。
今回の田中さんの例は、話すのが得意だと思っている人が陥りやすい、典型的な失敗パターンです。「自分は話すのが得意だ。緊張もしない。立て板に水のように話せる。だから面接は大丈夫!」と過信していると、面接官の期待と異なる内容を延々と話し、コミュニケーション能力の低い人物と思われてしまう結果にもなりかねません。
繰り返しになりますが、コミュニケーション能力とは「相手の考えや気持ちを理解し、それに対して自らの意見を適切に伝えることのできる意思疎通能力」です。
面接の前に、ご自身のコミュニケーション能力について思い返してみてください。相手の考えを理解しているか? 適切に自分の意見を伝えられるか? 常にこの気持ちを持って、面接に臨むことが大切です。
自分がしっかりとコミュニケーションを取れているかはなかなか気付かないので、面接前に第三者にチェックしてもらうのもよいと思います。
コミュニケーションは相手があってこそ成立するものです。独り善がりの話し過ぎには、くれぐれも注意しましょう。
著者紹介
アデコ 人材紹介サービス部 関西支社 コンサルタント
大阪府出身。大学卒業後、メーカー系ソフトウェア会社へ入社。約7年間SEとして官公庁・電力・交通システムの開発を数多く経験。同社を退職後、アデコへ転職。現在IT業界専門のコンサルタントとして、ITエンジニアの転職支援に従事。求職者のビジョンとスキルをうまく調和させたキャリアプランの提案を心掛けている。
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