ペパボ社長・家入氏が語る、バカとまじめの振り子の関係:D89クリップ(4)(2/2 ページ)
ユニークなデザインやサービスで注目されるペパボ。創業者の家入氏に、クリエータ兼経営者としてペパボが生み出す独創的なサービスへのこだわりを聞いた
バカとまじめは振り子の関係
―― 一見ふざけているだけのように見えるサービスも少なくありませんが、遊びとビジネスの関係についてどう考えていますか?
「振り子」のようなものだと考えています。一方への振り幅が大きければ大きいほど、もう一方へも大きく振れることができる。思いっきり面白いことができれば、逆にとてもまじめにビジネスのこともできるということです。この振り幅というのは大切だと思っています。
私も、以前はスタッフと一緒にバカなことを考えてバカなものを作っていましたが、最近は私自身が楽しみたいという気持ちから、一歩引いた位置にいて「次はどんなバカなものが現場から上がってくるかな」と第三者の視点で眺めています。事前に知ってしまうと面白くないですから。エイプリルフールも何をするか事前に知らされないので、どんなことをしているのか当日の朝に会社のページをチェックしています。そこではじめて、「バカだなー」っていいたい。
――ビジネス目的ではないサービスは、R&Dの一環としてスタッフが自由に作っているのでしょうか。例えば、グーグルの「20パーセントルール」のように。
ペパボには、R&Dの仕組みとして「ペパ研」というものがあります。認定されれば会社の事業として就業時間内に作業できたり、サーバなどの会社インフラを使用できたりといったサポートがあります。でも認定されるまでは就業時間内でやってはいけないと定めています。
私は、仕事以外の時間で作るものの方がいいものができると考えています。逆に、それくらいの熱意がないといいものなんて作れない。週末を費やしたり睡眠時間を削ったりしてでもバカなものを作る方が、よっぽどバカだし面白いものができる。それを形にして見せてくれた人には、それなりのサポートをしてあげたいと思っています。だから、20パーセントルールのようなものは考えていません。
――スタッフが個人で作ったサービスを会社のオフィシャルなものにするかどうかはどう判断されるのですか?
本人の意向もありますし、そもそもプライベートの時間で作ったものですから、会社の判断だけで一方的に決まるわけではありません。私自身、そうされたら反発しますし。会社のものにしたらこれだけのメリットがあなたにもありますよという話をして、お互いに納得したら会社で運営していくという感じです。
この点は、グーグルの20パーセントルールと異なる部分ですね。20パーセントルールで作られたものは、給料を払っている時間での成果物なので当然会社のものですが、うちは違いますから。
――スタッフが個人的に作ったものを社内で発表する場があるのですか?
「タンパク」という社内SNSがあります。そこで「こんなものを作りました」という日記をアップしたりします。また、デザイナが自分では開発はできないけれど「こういうサービスを作りたい」とサービス内容を1枚にまとめた画像をアップしたりもします。それを見た開発者が、「じゃ私が作ります」ってコメントして、そのまま出来上がっていくということもあります。
休日が続くと「会社に行きたい!」と思わせる会社
――スタッフの構成比はどのようになっていますか?
120名のうち、デザイナと開発者を合わせて40人くらい。後はマーケティングや管理系、カスタマーサポートなどです。Webで公開して受け付けるサービスが基本ですので、営業はいません。
――福岡時代からいままでで変わったこと、変わっていないことはありますか?
速いスピードでスタッフの数が増えてきたので、その時々で組織の形は変わってきましたが、全体的には会社っぽくなったといえるかもしれません。もともとは私が1人で人事から経理からすべてやっていましたから。そういう管理系業務は苦手なんですけど、GMOグループに入ってその部分がしっかりして会社らしくなったとは思います。それ以外は、特に何かが変わったというのはないですね。
昔から学校っぽい会社だなと思っていましたが、相変わらずいまも学校っぽい。みんな仲が良くて、良過ぎるくらい。3日以上の休日が続くと、「会社に来たい」ってみんないい出すんですよ。休日が退屈らしく。あと土日も社員同士で遊んでいるみたいで。逆にいうと、会社以外に友達がいないってことなんですけどね。私もそうですけど。ホントによく会ってるよなと思いますね。社内恋愛なんかもちょこちょこあるようですし(笑)。
――デザイナと開発者など、スタッフ同士のコミュニケーションを円滑にするための仕組みはありますか?
社内SNSやIRCなどツールはいくつか用意していますが、そこは本質ではないと思います。やはり会社の雰囲気というのが重要ではないかと。あと、組織単位がデザイナチーム、開発者チームという分け方ではなく、サービス単位にしています。1つのサービス単位で事業部やチームがあり、それぞれに開発者やデザイナが所属しています。デザイナだけ、開発者だけという区切りになっていないので、チーム内で仲良くやれれば、横のつながりも自然とできてきます。仲が良いのは、そういう組織体制だからという理由もあるのではないかと思っています。
――サービスごとのチームというのは、カットオーバー後も同じメンバーで運営していくのでしょうか?
そうです。もちろん、ほかのことをやりたいといった希望があれば検討しますが、基本は「1つのサービスを愛してください」というものです。
受託開発系の会社と異なるのは、サービスを公開して運用フェイズに入ると、日々の業務は運用が中心になることです。そこでどれだけ自分のモチベーションを保ち続けられるかが重要で、それを楽しめる人でなければ、続けるのは難しいかもしれません。受託系の会社から「サービスをやりたい」と転職してくる人もいますが、実際やってみると「ちょっと違うな」とまた戻っていってしまう人もいます。
採用面接で話すのは、「思っているほど面白くはないよ」ということです。思ったよりも普通の会社だよと。仕事中でも常にバカ話をして笑っている職場というイメージで応募してくるケースが少なくないので、そんなことはないとあらかじめ伝えています。
今後は個人活動の再開と次世代の育成を
――経営理念の「もっと面白くできる」というのは、一方でいまのインターネットの状況を見ていてまだまだだなと感じるところもあるのでしょうか?
こんなバカなことをしている会社でも上場できたのだから、どんどん後に続いてほしいというのと、バカもまじめもどっちもできるということをアピールしていきたいという思いからです。最近は、上場するからというわけではありませんが、少しおとなし過ぎたかなと思うところもあり、上場企業としてできる範囲での面白いことをもっと見せていきますという決意表明ですね。
それから、若い人たちはケータイでインターネットを使いますよね。実際、ユーザー数も伸びています。私は、その人たちよりもさらに若い世代に注目しています。PCもケータイも使いこなし、ゲーム機でインターネットにつなぐような世代。そう考えると、まだまだユーザーの幅も広がりますよね。いまの20代、30代は、年をとってもパソコンを使うと思うんです。そうすると母数もまだまだ増えるし、対象となる年齢層も広がっていくだろうと。そうなると、まだまだ面白いことができると考えています。例えば、老人向けホスティングなんかもあり得るんじゃないかなと。
――ご自身より若い世代のクリエータを見て感じることはありますか?
最近だと86世代とか、あの辺から下の世代が面白いと思っています。どんどんお金のにおいがしなくなるというか。IT業界というと、孫さんやホリエモンがいて、私や近藤さん(はてな社長)、笠原さん(ミクシィ社長)の世代だと草食系だといわれたりしますが、さらに下の世代はもっとお金のにおいがしない。それは悪いわけではなくて、むしろそういうのが気持ちよいと感じます。どこかの会社で働いているけれども、個人の名前の方が通っているという。そういうところにはどんどん顔を出していきたいですし、ちょっかいも出していきたいですね。若い芽は早いうちにつまなきゃいけないですから(笑)。
――上場したことで、さらに注目されて要求もシビアになると思いますが、ユニークさを保ち続けるためにやっていきたいことはありますか?
会社としてもそうですが、私個人の活動としてもこれまでバカなものを作ってきたというのがありますので、また個人活動を再開したいなというのはあります。
あとは、クリエータを育てることでしょうか。上場して、30歳になって、次の世代をどうするかということを考えながら動きたいなと。若い人たちに対してできることを会社の内外問わずやっていきたいですね。
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