プレゼンタが突然歌い出したり、審査員が回転したり。体を張ったおばかたちが、しのぎを削り、レベルの高い熱戦となった
“おばか”の頂点がここに――おばかなアプリを開発し、そのおばか度を競う「おばかアプリ選手権 2012 夏」が8月4日、東京・お台場の「東京カルチャーカルチャー」で開かれた。プレゼンタが突然歌い出したり、審査員が回転したり。体を張ったおばかたちがしのぎを削り、レベルの高い熱戦となった。
応募171アプリから、予選を突破した8アプリが本戦に進出。大賞1アプリと、各スポンサー賞(3アプリ)、ベストエイト賞(4アプリ)が選ばれた。審査員は、“ソラミミスト”でアートディレクターの安斎肇さん、起業家の家入一真さん、“Rubyアイドル”兼大学生の池澤あやかさん、「コレジャナイロボ」で知られるザリガニワークスの武笠太郎さん、坂本嘉種さん、日本大学芸術学部講師の布目幹人さん。
会場には約100人の観客が詰めかけたほか、Ustream中継は約7000人が視聴。五輪に負けない熱い戦いに声援を送った。
「朝、ヒゲを剃るときに誤ってほくろを削ってしまって」と、顔にばんそうこうを貼って現れた、ヘッドウォータースの西間木将矢さん。ステージが暗転すると、突然、歌い始めた。「インターネットフォーユ♪ 世界中をつなぐもの♪」。唖然とする会場を構わず歌い終え、ライブを好評のうち終えた(という設定の)西間木さんは、次のチャレンジを求めて走り始める――
「壮大な世界観とストーリーに基づいたすごいアプリです」。西間木さんが、同僚の荒井雄治朗さんと開発したのが、「nishimaki.race」だ。西間木さんを主人公にしたスマートフォン向けゲームアプリで、「TAP」ボタンを高速タップすると、西間木さんが必死で海の上を走る。タップが速いと空を飛び、遅いと海に沈む。「西間木が空を飛ぶよう、みなさんでタップしまくってください」(荒井さん)
16人まで同時対戦可能としているが、通信対戦機能はない。複数人で同時にプレイを始め、勝った人が手を挙げて勝敗を決するというアナログすぎる仕組みだ。今後、各国語に対応していくほか、“超マルチデバイス対応”としてXbox 360やNINTENDO64などに対応するという。
家入さんは、「ほくろを削った話は面白かったけど、このゲームは主人公に共感できない」と残念な評価。「最初にライブが始まりびっくりしてよだれが出た」という池澤さんは、「NINTENDO64が好きなので、64に対応したら高得点を差し上げたい」と話していた。
エムフロの高木啓之さん、瀬崎剛さん、奥山新也さんが披露したのはiPhoneアプリ「フォトボケ」だ。写真と、それにマッチする“ボケ”メッセージを投稿・共有できるアプリ。投稿されたボケを、「面白い」ボタンで評価できる。TwitterやFacebookに共有も可能だ。
使い方の例として、おじいちゃんと孫2人が笑顔で写っている写真に、「同居は勘弁だって」というメッセージを付けるなど、微妙なボケがいくつか披露された。寒いネタに会場が白けると、ステージからすかさず大声で「はい拍手!」と強引に拍手を求め、拍手が沸き起こるというシーンが繰り返された。
武笠さんは「ご本人のボケのセンスがいまいちだったのが致命的」とバッサリ切りつつも、「センスある人がどんどん投稿してくれれば盛り上がってくれるだろう」と期待。坂本さんは、「すごくまとまりがある」と評価しながらも、アプリがうまく動かず、池澤さんが手伝った一幕があったことにこだわり、「池澤さんとの距離が近くて会場の反感を買った。残念です」。
「最近すごく興味があることが2つあって、1つはサザエ、1つはダチョウの卵です」――鳥人間・久川真吾さんのプレゼンは、アプリとまったく関係ない前置きから始まった。
「最新のBluetooth 4チップはすごく小さくて、ボタン電池1個で1年ぐらい持つので、サザエの中に入れて、ひっくり返すと特定のシェルスクリプトが実行される“シェル(貝殻)がシェル(スクリプト)”を作ろうと思っていて。ダチョウの卵は、手のひらサイズのLinuxマシンケースにしようかなと……」
前置きが延々と続いたのは、アプリが“出オチ”だから。アプリの名は「いいにゃ」。Facebookの「いいね!」ボタンを「いいニャ!」に変えるChrome拡張だ。クリックすると「にゃー」と猫の鳴き声が再生される。オフィスに出入りする野良猫から発想したアプリで、今月入籍予定の彼女が作ったという。
さらに、「いいね!」を「いいワン!」に変えられる犬化機能、「エロい!」に変えられる機能も搭載。「エロい!」ボタンをクリックすると、セクシーな女性の声で「ワーオ」と再生されるギミックも備えた。
「かわいいなと思います。『いいね!』が『いいニャ!』になったら世界が変わりますね」と話す池澤さんに、「もう一回『いいニャ!』って言ってもらっていいですか。セクシーに」と家入さん。池澤さんは「わたし犬派なのでいいワンの方が……」と軽くかわす。
久川さんは、「電気工作の知識のないプログラマーの自分でも、ハードを作って売れる時代になっている。そういうことを、みんなで一緒にやりたい」と会場のエンジニアに呼びかけていた。
モビカの勝連健文さんと上條健二さんが開発した「さじなげ」は、企画会議で案が出なくてさじを投げたのがきっかけで開発した。スマートフォンをブンブン振ると、電球の画像とともに「ピロリン」という音が出てバイブが震え「天空落とし」「手裏剣」など必殺技カードが表示され、技をひらめいた気分にひたれる。Adobe AIRをフル活用して開発した。
「振っている姿が面白かった。ところで、さじはいつ投げるんですか?」とツッコむ安斎さん。勝連さんから「手裏剣という技が出ないと投げられない」と聞き、「少しだけ気持ちが楽になりました」(安斎さん)。
「寿司好きな人は、寿司を好きなだけ食べたい、寿司と一体になりたい、いっそ寿司になりたいと考えたことあるのではないでしょうか。実現できます。寿司カメラなら」――タカマツハルオさんが開発したiPhoneアプリ「寿司カメラ」は、顔写真を撮影し、寿司ネタ画像の中心部にはめることができるカメラアプリだ。
タレントのブログなどで紹介されたり、海外でも利用されるなど、ひそかなブームになっている同アプリ。このほど、タイで映画に使われることが決まったという。「急にタイの人からFacebookメッセージが来て、最初スパムかと思って無視したんですが……」
タカマツさんは、トンカツ画像に顔写真をはめこめる「トンカツカメラ」も開発。こちらもなぜかタイで大人気だそうだ。
週1回のペースでお寿司を食べているという池澤さんは「お寿司に変身したい!」と大興奮。家入さんは、「ぼく、お寿司じゃないんですけど、女体盛りやったことあるんですよ。女体盛りすごい好き」と謎の告白。安斎さんに「女体はなまものを置くところじゃない」とたしなめられた家入さんは、「女体盛りの女体は、直前まで冷蔵庫に入ってて……」、「そうでしょ……ってオイ!」(安斎さん)。
あのアプリが帰ってきた。3月に開かれた「おばかアプリブレスト大会」で異彩を放ったアイデア「アルプスの丘で」が、動くアプリになって登場。「アルプスの少女ハイジ」オープニングで、ハイジとペーターが手をつないで回るシーンを再現。開発したのは、日本大学芸術学部布目ゼミ出身で社会人1年生の中澤綾香さん、正田冴佳さんと、エンジニアの島田達朗さんだ。
iPhone画面に、アルプスの丘で体操座りしている少女を表示。マイクで少女に呼びかけると、少女が正面にやってきて、「ねぇ、回って?」と催促する。少女と手をつなぐ格好でiPhoneを横向きに持ち、体を横回転させると、加速度センサで回転を検知。しばらく回ると少女が手を離し、飛んでいく。
回り方によって「アルプス越え」「あの子が立った」「地面にたたきつけられた」といった結果に。結果が出た後「戻る」ボタンをタップすると最初に戻り、少女といつまでも回転を続けられる。ステージでは、坂本さんと池澤さんが、少女との回転にチャレンジした。
家入さんは「池澤さんがすごい勢いで回ってスカートがふわっと上がるかなと期待していたんですけど……。このアプリ、ゴールがないので、そういうふうに持ってくといいと思う。見ている方が、回ってて良かったと思えたらいい」と提案すると、安斎さんは、「人が無邪気に一途にぐるぐる回っているのを見るのは楽しい。パンツは見えなくてもいいんです」と否定。「パンツを見ようと思うなら、違うアプリを考えればいい」(安斎さん)
このチームは“one more thing”を用意していた。その名も「クレイジーナイト・タイム」。iPhoneをディスコにしてしまうアプリだ。iPhoneのイヤフォンジャックと充電ジャックにミラーボールの付いたガジェットを差し込み、タッチパネルの上に照らしたいものを置いてアプリを起動すると、画面が青と白に点滅。光がミラーボールに反射し、「熱帯夜がクレイジーナイトになる」。ただしミラーボールは回転しない。
会場では、iPhoneの上に唐揚げを置いた“唐揚げクレイジーナイト”が実演。照明を落とした暗い会場で白と青に光る唐揚げは不思議な魅力をかもし出していたが、会場が明るくなるとむなしさばかりが残った。
「人がぐるぐる回るアプリの次に出てきたミラーボールは、回らない。回らないボールはミラーボールじゃありませんから」と安斎さんはバッサリ切りつつも、「唐揚げは、スタッフのみなさんがおいしくいただきますから」とフォロー(?)していた。
「オリンピックの高揚感、どこにぶつけますか? 特別に、あなたのスマートフォンでできるスポーツを開発しました。それが、その場で金メダルです」
「その場で金メダル」は、日芸布目ゼミのメンバー6人(伊東亜友里さん、高橋朝香里さん、高橋なつきさん、西澤祥さん、福田弥里さん、本間那月さん、武藤由莉さん)と、シャコガレージの谷口直嗣さん、島田工聖さんから成るチームが開発した、通信対戦できるスポーツゲーム。
iPhoneを振った速度に応じて画面内のランナーが走る「100ミリ走」と、頭にiPhoneを装着し、EXILEの「choo choo TRAIN」のように一列に並んで体を回転させ、回転数(14回転=1ザイル)を競う競技「choo choo大回転」で遊べる。
ステージでは、学生たちが競技した後、審査員陣が「choo choo大回転」にチャレンジ。家入・池澤チームと、坂本・安斎チームが対戦した。家入さんは、「嫌だ」と何度も言いながらしぶしぶの挑戦だったが、競技が始まるとキレの良い回転で会場を沸かせた。
安斎さんは「これはスポーツなんですか?」と疑いつつ、「ぐるぐる回るので少しのアルコール量で酔える」と評価。家入さんが「これ、性的なサービスに使えると思うんですよね。TENGAにくっつけて、速い方が負けとか」と真顔で語り始め、安斎さんが「あー、言えてる。あれ個人でやってるとモチベーションが保てないよね」と盛り上がると、池澤さんが「清純派で売ってるので、隣で卑猥な会話はやめてほしい」とたしなめていた。
「上司から、『面白いもん作れんのか?』って無茶ぶりされて……」――関西テレビ放送の横尾博臣さん、中島啓さん、児玉貴さん、鳥居敬生さんのチームが開発したのは、iPhoneアプリ「ヤマヒロ電球」だ。
同局でハゲをネタにしている人気アナウンサー、通称「ヤマヒロ」こと山本浩之さんをモデルにしたアプリ。ヤマヒロさんのかつらをドラッグするとハゲがお目見え、頭が黄色く光る。「ハゲハゲビーム」「ツルピカフラッシュ」「スーパツルピカフラッシュ」という“必殺技”も装備。それぞれの技を繰り出すヤマヒロさん画像が表示され、本人の声で技名が読み上げられる。
ヤマヒロさん本人からは、ビデオメッセージも寄せられた。「アプリを開発すると聞いたときは複雑な気持ちでしたが、出来上がりを見て大分満足しています。“おばかアプリ”というキーワードで選手権を開くのはどうかと思いますが、出品した以上は、何が何でも“頭”を取ろうと。懐中電灯代わりに、暗い気分になったとき、落ち込んだ時に使ってもらえれば」――アナウンサーらしい穏やかな声が会場を包んだ。
安斎さんは、温水洋一さんのブログを作るにあたって同じ企画を考えていたが、「急激にはげたので、洒落にならないってことで頓挫した」そう。「実に感慨深い」としみじみする。坂本さんは「気持ちい作品だ。けれど、ビデオレターはずるい!」と評価。武笠さんは「頭がつるつるということは分かったが、アプリがどれぐらい暗闇を照らせるのか分からなかった。それが分かればハゲの……薄毛の素晴らしさがより伝わる」とプレゼンに注文を付けた。家入さんは「ハゲの人は性欲が強い」と、下方向に話を持って行き続けた。
8組の中から、大賞となる「おばかアプリ賞」1組、「アドビ賞」(技術解説サイト「Adobe Developer Connection」のハウツー記事を参考におばかアプリを制作することが条件)1組、「アマナ賞」(アマナイメージズの画像素材を活用することが条件)1組、「Web CAT Studio賞」(エンジニアを応援するアプリか、ネコをモチーフにしたアプリが条件)1組を選出。残り4組が「ベストエイト賞」となる。
見事「おばかアプリ賞」を獲得したのは、布目ゼミ出身の新卒社会人2人とエンジニアで開発した「アルプスの丘で」。賞状と、「ドン・キホーテ」で購入したというトロフィーが授与された。賞金など副賞はないため、家入さんが「(受賞者が)会社を作るなら出資する」と宣言。新卒の2人は、起業するか問われて「はい!」と答えていた。
アドビ賞は、Adobe AIRを活用した「さじなげ」。「出たばかりのAdobe AIRのネイティブ拡張を、世界で一番バカな使い方をした」と評価された。賞金20万円と、Adobe Creative Suite 6製品のうち1つが贈られる。アマナ賞は、アマナイメージズの写真をフル活用した「フォトボケ」。賞金10万円が贈られた。「Web CAT Studio賞」は、唯一の猫ネタだった「いいニャ!」。副賞として、開発した鳥人間・久川さんを迎えたイベントが開催される予定だ。
総評として安斎さんは「おばかの定義がすごく広くなり、有意義なイベントに見えてきた」とコメント。坂本さんも、「安心感とまとまりがあった」と評価。「仕切りはグダグダだが、中の具は良いものだという気がしてきた」と話す。武笠さんは「去年の夏はうんこネタが多かったが、今年はそれがなかったのが驚き。おばかアプリが定義付けられて、みなさんが嬉々としてプレゼンしている姿が素晴らしかった」と評価していた。
元ゼミ生が大賞を受賞した布目さんは、「大賞が教え子で、思い出になる会になった」と感慨深そうに話す。池澤さんは「体験してみて面白いアプリばかりだった。自分でも出品しようとプログラミングしていたが間に合わなかった」という。
第1回で司会を務めた家入さんは、「第1回と比べて応募数も増えたし審査員も豪華になった。総じて池澤さんはすごくかわいい。池澤さんのこと、すごく好きだし、いいにおいがする。空き時間にゲーテ読んでる。黒髪の長い女の子がゲーテ読むのは完璧」と池澤さんを絶賛して締めくくった。
次は、学生オンリーの「おばかアプリ甲子園」や、海外からの参加を募る「世界選手権」もあるかも!? これからのおばかの進化に期待したい。
▽当日のUstreamAngelsによる中継録画はこちらから
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.